中編(9)/決戦(2)
王の優位は変わらない。
だが、打撃を受けないまま終わる剣試合がないのと同じように。
戦線が長期化するにつれ、王の軍勢にも被害が出るようになった。
召喚される魔物は雑魚ばかりだったが、中には龍族級の魔物も現れた。
その攻撃を受けた陸戦艦は、前進を続ける王の軍を庇うように進み、スラム地区の中央部が見える場所で大破し役目を終えた。
〝海運公子”率いる乗組員たちは構わず大暴れを続け、周囲の魔物をせん滅して退路を確保。
一人も欠けることなく撤退していった。
「ものすごい暴れようでしたね、ウルヴレヒト様は」
「ああ。王家の真の反則級は叔父貴だからな」
あきれ果てた様子のリチャード=ケネスに、アルフレッドも苦笑で応じる。
「だから王位継承権を放棄なさったのですか?」
「そんなもんだ。今回も陸戦艦が壊れるまでは戦うって約束だった。手を貸せばすぐに終わるのが分かってるんだろ」
リチャードは乾いた笑いを上げつつも、立ちふさがる魔物に向けて魔剣を振るう。
父から借りた家宝の大剣をひっさげて戦線に加わっている。
「どうなさいますか? 少々、こちらが不利です」
「俺らで突撃してもっと早く終わらせるつもりだったが……。やっぱ、あの人らに頼るか」
戦場に、勇壮なホルンが響き渡る。
コルトシュタイン貴族の率いる軍勢が、時間差で到着しては戦列に加わってくる。
砲撃で荒れた地面をものともせず進み来る様は、戦っている最中でも頼もしく、王の眼に映る。
その軍団の先陣を切って現れたのはリュミーィシェ夫人。赤いローブが彼女の勝負服だ。
「来ましたね、先生」
「こんな面白そうな戦いの時に、後方待機なんざしてられますかっての。
それに、一度でいいから言ってみたいセリフがあるのよね私」
「それは?」
にやりと笑む王に、
「ここは私たちが引き受けます――なんてね」
こちらもニッコリと笑んで、銀エルフが応じる。
会話する間にも、次々と戦士や魔導師が移動して来る。
世界各地に散った、夫人のかつての教え子だ。
飲めない酒を飲んで酔っ払うたびに「私が一声かけりゃあ世界中から……」と大ホラを吹いていた。
「ホラじゃなかったのな」
「いい女には切り札が必要なのよ。どうする、アル。一気に首魁を攻める?」
「そんな手抜きっぽくていいんですかね? まだ歓迎してくれてるみたいなんですが」
アルフレッドは軽口を叩いてみせるが、悠長に戦っているヒマはもう、ない。
夕暮れとともに、邪悪な気配が強まっている。早くしないと予定が狂ってしまう。
「転移魔法で送るわ。護衛はリチャードとレオンだけでいいのね」
「ええ」
「クリストフ君との再会の話、あとで聞かせてよね」
「だからあいつは女の子だって何回も……! まあいいや、この場をお願いしますね。
ヤバくなったら逃げてくださいよ、先生」
「わかっていますよ。では陛下、ご武運を」
家庭教師を頼んでいた頃と全く変わらないうつくしい笑みと共に見送られ、アルフレッドは転移魔法の光に包まれる。
2019/7/15更新。
2019/8/31更新。




