中編(8)/決戦(1)
黄金王の戦列に強力な助っ人が加わって、3日と経たないうちに、
暗殺組織に動きありとの報告がもたらされた。
「クリストフの奴……!」
「姉さまが、どうしたの!?」
勢いで報告書を握り潰してしまったアルフレッドだが、悪い知らせではない。
朗報だ。
暗殺組織の頭領クリストフが、残存した精鋭とともに旧スチュアート派の10人の貴族たちに反逆し、
配下の兵士ごとこの勢力を制圧。
一網打尽にした真の罪人らを、転移魔法で地下牢に送り付けてきたと言うのである!
「一体何を考えてやがんだ、あのバカ!」
「準備の全部が無駄になってしまった、ってことなのかな。それとも姉さまの目的は、別にあるのかな?」
「別の目的?」
「うん。魔王のおじさまがね、言ってたの。姉さまの父上は、魔物の王さまになってしまうんだって」
「『四つ目の月』か」と呟いた王は、アルフィミィとブルーベルを同時に呼び出す。
滅多にないことだが、この非常時である。
二人の伝令を通じて、周囲5つの街に散った戦士達に緊急で作戦行動を始めるよう伝え、
愛用の細剣だけを引っ掴んで、自らも私室を飛び出した。
無謀な賭けに出た大切な者を、助けなければならない。
王である前に、一人の人間として。一人の男として。
持ちこたえろよ、
と強く念じながら、玄関ロビーを走り抜ける。
――。
30分後。
「状況を知らせよ!」
素早く持ち場を離れて走って来た半猫の少年シエルが、ウルヴレヒトの陸戦艦の到着を告げた。
今回だけは遠慮するなと叔父に言われた通り、彼に頼ることにした。
「シエル、全軍に伝言! 艦砲射撃の範囲から退避せよと!」
少年は頷き、前髪を数本抜き取ると、息を吹きかけて小さな分身を作り出した。
本人を入れて10人ほどになった彼らが、戦場と化したスラム街を駈け廻って王の意志を細かく伝える。
全員の退避を確認してから叔父に魔法で連絡し、魔物の軍勢にド派手な砲撃を見舞う。
今や、スラム街の空は、巨大な人型の影に覆われている。
魔物は次々とあふれ出てくる。
一方の王はすでにスラムのドン、カーンの許しを得ている。
新しく誕生した魔物の王を倒せるなら、この地区をまるごと破壊してもいいと言う許しだ。
クリストフを苦しめてきた暗黒の暗さも、彼女の父が抱える妄執も。
王家の敵たる、根強くはびこる貧しさの根も。
じっくり攻めるべく熟考していた戦いのプランも。そうだ、何もかも……。
何もかも灰にしてやる。
――アルフレッドは、怒っていた。
それは義憤にすぎない。
出来る事ならきちんと手順を踏み、ゆっくりと政治を改革し、金山の麓のスラム地区を解消してみせたかった。
そうできなかったことへの、自分へのいら立ちにすぎない。
クリストフの大胆で無謀な動きを予測しきれなかった、自分への怒りにすぎない。
しかし、これはどうしたことだろう。
これまでになかったほどの、熱いエネルギーが身体の底から沸き上がってくる。
俺の国を、俺の大事な奴らを傷つけるのはどいつだ。
出て来い、早く出て来い。
叫び出しそうな声を、ぐっと噛み締める。
2019/8/31更新。




