中編(7)/金龍躍動(3)
身体も心も未だ小さいが、通り一遍の供述でごまかせるような女性ではない。
大体が、自分の長所などは大胆さと素直さくらいのものなのだから、それを聞いてもらえばいいだけだ。
王は意を決して口を開く。
「好きになると思う。姉上との間でふらふらしたりとか、ありそうで……自分でも怖いけどな」
「それでも多分、大丈夫。無理言ってるのは、わたし。
姉上とも離れたくないし、陛下も好き……なんて、わがままだもんね?」
分かっていても抑えられないのは、他者の愛情を追い求める龍族の本能的な欲求なのかもしれない。
それが自分やクリストフに向けられているのを誇らしいと思うし、できれば繋ぎ止めておきたいとも思う。
いつまで?
彼女が自分に呆れてしまうまで、だ。
愛する異性(同性もだが)の歓心を得ようとして懸命になるのが若さで、
青春を過ごしているが故の愚かさなのだとすれば。
自分は生涯を、青春のまま過ごせる幸運な男かも知れない。
「でもよ、ニーナ。違う話すんの、ちょっと早くねぇか」
「そうかな? もっとシリアスな方がよかったかな? わたしがいる限り、無理だと思うけど」
戦場に在っては明るい気炎で戦士達を鼓舞し、絶望と恐怖を打ち払い、
自らも勇猛果敢に戦陣を駆け抜ける。
伝承や古謡にうたわれる異能を、自覚でもしているものだろうか。
この子が言うならそうなのだ、と思わず納得してしまう、力のある言葉だった。
「そうか……だったら気にしてもしょうがないな。ニーナ、王としてお前を雇いたい。力を貸してくれ」
「はい、陛下。報酬は……コルトシュタインの、おいしいお菓子で、どうでしょう」
子どもっぽさと大人びた部分が、微妙に同居して見える。
街のパン職人に頼むか、それとも知り合いの菓子職人に無理を言うか。
真剣に『暗殺劇』を演じ続けている状況にもかかわらず、
そんなことに頭を巡らせる余裕があることに少し驚く。
「陛下。お城で一番高いところに送って。早く」
「お、おう」
微笑んで黙っていた少女の、切迫した物言いに面食らいつつも、
王は言われた通りに座標を指定して転移魔法を行使した。王城の屋根の上だ。
ロビーの大時計の針が動く音が、やけによく聞こえる気がする。
落ち着こうと数え始めた数字が100を越えたあたりで、ようやく金龍の娘が姿を見せた。
その背中には、目を回した大きな獅子の身体をようよう担いで。
「魔獣、とったどー」
「おいやめろ」
「組織のひと、なの。夜しかこの姿になれない筈なんだけど……操られたり、してるのかな?」
「かも知れんな……例の10人の中にそんな使い手がいるとも思えんが」
「10人って?」
「この事件の、本当の黒幕。なんとか捕えたいところなんだが」
「おじさまに頼んでみる、とか」
「そうしたいけど、自分らで切り抜けないとな」
「そっか。じゃあ……わたしもお手伝いしますね」
「よろしくな。で、そいつはどうやってノックアウトしたんだ」
「大剣で、一発」
この娘が敵に回らなくて本当によかった。
「あ……そう」
改めて実感するアルフレッドであった。
2019/8/31更新。




