中編(4)/魔王暗躍(4)
王の事を考えてか、柔らかく笑んでいた顔が、少しすると再び曇ってしまう。
自分の攻撃性を含めた全部を王にご覧頂きたいのだと言って、あえて挑んでいった。
そんなことをしなくても、喜怒哀楽を彼と共にしていれば、悪い扱いを受けるような女子ではなかろうに……などと、お節介なスゴロクは考えてしまうのだが。
まあ、魔族と考え方が似て非なればこそ、人間族とはおもしろい。
勝手に結論付けてから、ふたつの異能を持つ魔眼が伝え来る直感に従って、口を開く。
「父君のことか」
「何でも見通す魔眼か。気に入らないわね」
「そういう奴に目をつけられたのだと諦めてもらうしかないな」
クリストフはひとつ息をついて、
「止められなかったのかな、って」
ジェノク=スチュアートは、人間ではない何者かに変わろうとしている。
再生も転生も、人々の身近に起こりうる現象だ。
存在のありようなど、たやすく変わってしまう。
「もう、無理だ」
「頭じゃわかってるの。ひどい人だったけど、父親だし……どうしても考えちゃう」
「……そうか。これほど娘に想われていながら、気づけぬとはな」
「あなたみたいな人が、お父様なら良かった」
「養子にでもなるか」
「結婚は?」
「まだだ」
「だよね。城でお嫁さんとのんびり、なんて風には見えないもの。モテモテなくせに朴念仁のドンカン男って感じぃ」
「うむむ、何という言われようであるか。弁解できんが」
「あははは」
この魔王は、おどけたり冗談を言う機会を心得ている。
と、これまで関わってきた中で、クリストフは思っている。
どう言葉を使い、どう動けば他人が喜ぶか、笑うか、希望を見出すかをきちんと心得ているのだ。
アルフレッド王は彼を評して、「勇者のようだ」と仰っていた。
本当にそうだと思う。物事や人心を敏く見通す目、困難に苦しむ者の声を聞き逃さない耳。
山を吹き飛ばし、海をも涸らすだろう力。
魔界でなく人間界に生まれていたならば、間違いなく『勇者』と呼ばれる英雄の器だったろう。
だが、彼は魔王だ。
そのことに誇りを持っているようだ。
ならば、手を貸してくれていることを素直に喜ぼうと、クリストフは思う。
「ラルフ殿の様子はどうだ」
ジェノク=スチュアートがもうすぐ人間でなくなると聞いて、ただならぬ衝撃を受けたのは、
クリストフよりも彼である。
ブルーベルが気を利かせて話し相手になってくれているが、
時々ふらりと外出しては戻る彼の後までは追っていないという。
時折様子見がてら仕事を頼むが、いつも通りきっちりこなしている。
芝居について打ち合わせた時も、悪役を引き受けたい旨、頑として譲らなかった。
その彼が出す結論を信じるつもりだ、とクリストフは言った。
全てがうまく回るといいな、と、魔王は薄い笑みを浮かべる。
「うん。ありがとう……」
おとうさま、
と呟いてみた迂闊な言葉が、彼の『勇者の耳』に届いてはいまいかと、
余計な心配をしてしまうのだった。
2019/8/30更新。




