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中編(3)/魔王暗躍(3)

「さて」

旅の剣士に見えなくもないくらいの格好に整えたニーナを見送り、

魔王はクリストフに近づいた。

「何?」

「楽にしておれ」

ニーナが怒りながら行っていたのはあくまでも応急処置だ。

スゴロクは絹の手袋をつけると、彼女の背を何度か撫でた。

パズルのように損傷した部分を継ぎ合わせたと誰が知るだろう。

「……すごい。楽になった。どうやったの?」

「魔界十傑同盟がひとり、『古樹こじゅ』カリンより直伝の骨接ぎ」

「何でもできるのね」

「時間とコネだけはある。興味のあったことを手当たり次第に学んだ」

「どうすればこんな変人が出来上がるのか不思議だったんだけど……なんとなくわかった」

そりゃよかったな、と薄く笑んだ魔王は、手近な椅子に腰を下ろしてひとつ息をつく。

「残っている組織の人員は、20ほどか」

「うん。アルフレッド様と勝負してみたいって息巻いてる連中だけ。……バカよねぇ」

「まあ、義賊らの場合はうまく罪が減免されたみたいだけどな」

打ち合わせ済みとはいえ、実際に刃を以って他者を傷つけている。

世界各地から人員を集める際には、何度か誘拐かどわかしを行っていたとも聞いている。

父の身柄を役人に引き渡すことが出来ない以上、罪から逃れることも出来ない。

「そんなに罰せられたいのか」

「いやよ。でも仕方ないじゃない」

「暗殺組織の腕前を見たいとの、王からの要請でもあったわけだろう。

 それをきちんと流布しないような、間抜けな人間なのかな? 彼は」

スゴロクはパチリと指を鳴らすと、アルフレッドの流麗な文字が記された数枚の紙を持ち出してきた。

時機が来れば見せるようにとのことだった、と手渡してくるそれを、

クリストフは魔王の手からひったくるようにして受け取った。

「これは――!」

王と彼女の関わりというプライベートな部分をしっかり隠したうえで、

今回の暗殺騒動がほぼ王の自作自演であったことが平易な言葉で書かれている。

この芝居が終わったら、希望する国民全員に配るつもりらしい。

「まだ草稿なのだそうだが……読み物としてもなかなか良いと思わんか」

「うん……でも、どうしてここまで」

「真相を詳しく知らねば、市民も議会も評価を下せまいよ。

 あとは、さしずめ……貴公らに恩でも売りつけたいのではないか?」

クリストフは、数枚の紙束で自分の顔を隠してしまった。

何考えてるんだか、あの王様ってば――。

あぁ、やっぱり、私は……。

「一層、惚れたか」

「否定はできない」

「ならば、なぜ恋敵となりうる娘を彼の許へ?」

「助けてもらったお礼のつもり。あの子と二人でアルフレッド様を悩ませてみたいなぁ、とか思ってるし」

「……貴公も充分に変人だぞ……」

「他の人よりは魔族に近いのかもね」

この娘の心は既に解放されているのだと、魔王は思い至る。

魔族の愛情はおしなべて広く、深い。悪戯心に近い思考は、その片鱗であろう。

暗殺騒ぎの次は、一体どのような騒動になることか。

友の果報と災難を思いやり、魔王は薄い笑みを浮かべた。

2019/8/29更新。

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