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前編(14)/血風(1)

マクシミリアン=レングズは、前王の近衛騎士であった。

引退した現在は商人となり、コルトシュタイン商工ギルドの会頭を務めている。

白髪に髭をたくわえた好々爺で、アルフレッドを幼い頃から知る一人だ。

商人同士のいざこざを裁く役目を王から命ぜられ、日々穏やかにそれをこなしていた。

そのマクシミリアン老と娘たちが、無惨にも殺されたという一報は、瞬く間に黄金要塞を駆け巡った。

数日と置かず、コルトシュタイン議会のジュニス議長夫妻が毒殺された。

これには王政改革を主張する急進派の貴族が関わったのではないかと噂されたが、

急先鋒であったドナーグも同じく服毒によって相次いで殺害されたため、すぐに立ち消えた。

次に狙われたのはコルトシュタイン王立学校の学長、リュミーィシェ夫人。

現王の家庭教師を長く務めた、厳しくも優しい銀エルフの死は、

彼女の教え子たちを悲しみで包んだ。

いわゆるボーイズ・ラブ趣味が高じて彼女のもとに集まっていた貴族の婦人らは、

相応に危機感を強めることになった。

宮廷魔導師団では「夫人が魔法戦に負けるはずがない」といぶかる声が上がったが、

その何人かの魔導師さえも殺人者の刃の餌食となってしまった。

魔導師団長の折からの酒乱は激しさを増し、ついには王がその職を解く事態となった。

傭兵ギルドを兼ねる老舗バー『銀の歯』も連日の夜襲を受け、

腕の立つ常連客や店主一族ですら重傷を負った。

日程を前倒しして新しく設けられた国家警備隊は、必死に暗殺者たちの捕縛に挑んだが、

逆に襲撃される者が後を絶たず、有望だった貴族の子女は次々と再起不能に陥った。

要人や王の関係者を次々と殺害したことで、コルトシュタインという国が崩壊の兆しを見せても、

殺人者たちの凶刃は留まることを知らなかった。

義賊騒動の責任を背負って国防の一線から退いた、旧自衛軍の幹部たちでさえ、

抵抗することも出来ぬまま討ち取られる始末。

猛然と国潰しを図る暗殺組織はしかし、市井の人間を傷つけることは一切なかった。

このことから、この殺人劇は何者かの自滅的な復讐ではないかと判断し、

独自に調査する者もいたが、真相を掴む前に殺された。

事態を重く見た王はついに議会の反対を押し切って単独で防衛にあたったが、

さしもの彼も暗殺組織をひとりで叩き潰すことなどできない。

王城の手薄な警備をかいくぐって襲って来た、わずか5名ほどを自ら叩き伏せた程度だ。

人々はそれでも王への信頼を失うことなく、解決を信じて待ち続けた。

血風けっぷう吹きすさぶ黄金都市にあって市井の日常を支えるのは、

普段はまつりごとへの干渉を意図的に避けている、アルフレッド国王の親戚たちである。

王の強い働きかけもあって、彼らが積極的に政治に関わり、精強なる私兵を街に配置することで、

人々は過度におびえることなく生活を続けることが出来ているのだった。

しかし……。

2019/7/12更新。

2019/8/27更新。

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