前編(13)/開演(5)
二人の黒ずくめが任務をあきらめて退いた後、
帰路を邪魔した人型の魔物(正体は簡素な木の人形だった)をレオンと共に打ち払って城に帰り着き、
私室で書類仕事をこなしていると、控えめなノックが二度、鳴った。
「お、エレジュか。調子はどうだ」
「はっ。差し支えなく、過ごさせていただいております」
再び偽名を名乗り始めたクリストフの表情は堅い。
王は遮音結界を展開してから彼女に近づくと、「例の件、始めたぜ」と耳打ちする。
予定外は今のところ、先ほどの少年らの襲撃のみ。
クリストフの表情が変わった。
この場面は二つのキーワードを設定しただけの、彼女のアドリブ任せだ。
「アルフレッド様。暗殺者にお命を狙われるとは……どのようなお気持ちでありましょうか?」
「前にも同じようなことを訊かれたな」
「王の御心を知りたいのです」
「……できれば、俺個人の問題として片付けて、奴らを俺の手だけで救って見せたかった」
「救う、とは」
「俺は奴らが欲しい。どでかい恩を着せてでも欲しい……お前もだ、エレジュ」
それはアルフレッドの素直な思いだった。欲望だった。
「これは……。ずいぶんと大胆な愛の告白ですね」
「そうとも。部隊の名前だって考えてあるんだ。黄金の鞘……お前達の剣を、
俺がこの手に納めておくための鞘。『金鞘』だ。お前も入ってくれるだろう、エレジュ?」
魔法戦士は笑んだ。儚い印象などまるでない、美しい笑みのまま、
挟んで対峙していた王の仕事机を蹴とばす。
「残念ですが、出来かねます」
「なぜだ!」
「私の正体を看破しておきながら、ぬけぬけと直属部隊に誘う……その横柄が気に入らないのです!
貴方といえども、国王に刃を向けた我らを無条件で救う事などできない! できる筈がないっ!」
クリストフは素早く細剣を鞘走らせると、敬愛する王に向けて刺突を放つ。
アルフレッドは即座に理解する。
心を見せた自分への返礼だ。
彼女が幼い頃から暗示のように持たされ隠して来た、激しい攻撃性の表れだ。
もう思考誘導はされていない、と言っていた。
これは彼女自身の試練なのだろう。手中の刃を捨て去り、素直な心を解き放つための。
「言うとおりにして見せれば来てくれるのか」とは言わず、アルフレッドも剣を抜いて応戦する。
これが試練であった。彼にとっても。
まったく主張の異なる人物のもとで集った者達の人心をそっくりそのまま、、
いや……その頭領の心までをも欲しいと思った、あさましさへの。
誰の助けも求めてはならない。期待してはならない。徹底しなければだめだ。
二人のこころは奇妙なまでに一致していた。
魔法金属の刃鳴りが響く。
暗殺者の機敏な刺突と、それを受け止めて反撃に出る王の鉄腕。
「個人の問題で済ませるだと……舐めるな! “我らはこの国に刃を向ける”っ!」
クリストフが距離をとり、折り畳み式の短弓を放つ。
「知るかよっ! 俺を見倣って勝手にやってみるんだな、“俺の国は強い”ぜぇ!?」
王は足を止めて腕を振り、その悉くを剣で叩き落とした。
交わされた言葉はどちらも、この芝居が次の段階へ進むためのキーワードであった。
エレジュは激情のままに武器を捨て、転移魔法で姿を消した。
2019/8/27更新。




