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前編(10)/開演(2)

「準備は着々と進んでおりますな、陛下」

「いきなり現れるのどうにかできない? スゴロクさん」

自衛軍の兵舎に留置されているクレシダ達に再び面談し、罪の減免が認められた旨を伝えて、

直属部隊『金鞘きんしょう』への加入を承諾された帰り道。

道草して中庭で休んでいたアルフレッドの前に、灰色のローブの魔導師が姿を見せた。

彼の正体はクリストフから既に聞いている。

信じがたい話だが、彼は魔族の国の君主、魔王であるという。

クリストフとの縁があり、暗殺の芝居に一役買っているとのこと。

親しい友誼を約束したのはついこの間だが、意見の合う部分も多く既に意気投合していた。

「人を驚かせるのが嫌いではないようでな。引き篭もってばかりいては分からぬことであった」

「うーん、俺も早く外を歩けるようになりたいよ。『銀の歯』の定食が呼んでるのに」

「ははは……どうしても喰いたければ余が届ける」

魔王は素早く指を動かすと、強力な遮音結界を展開した。「今は芝居の算段をしようぞ」

小鳥のさえずりすら聞かせないらしいが、あまり詳しく知らない方がいいだろう。

過ぎた力も過ぎた富も、人間にとっては厄介なだけだ。

「おお。何か進展あったのか」

「暗殺の依頼件数は10ほどで変わらずだった。貴公の瑕疵きずは浅いぞ、良かったな」

最も自由の利く魔王には、暗殺の噂話を広げて以降の人々の反応を調査してもらっている。

暗殺組織への依頼はもっと多いかと思ったが、

王を殺してまで理想を叶えようとするような者はそう居なかったという事になる。

自分の為にも、議会のためにも良いことである。

正直ほっとしたが、つい憎まれ口をたたきたくなる。「肝の小さい奴が多かったんじゃねぇの?」

「まあ、そう腐るなよ……次に市井の状況だが、『王を守ろう』と意気を上げている者が多いようだ」

採算度外視で高級な武具を仕入れて警備員や冒険者に提供する商人や、

貴族の中にも自腹で傭兵団を結成する者がいるらしい。

その名を聞いて驚いた。

議会では改革派の急先鋒の、ドナーグだと言うのだ。

『狂言暗殺』の芝居に協力するという返事を貰えただけでも望外だったのだが……。

「そっか。……ありがたいな」

「貴公は貴公が思うより人に好かれておる。これでお分かりだろう」

「ああ。ありがとな、スゴロクさん」

「礼には少し早い。無事に芝居を演じ終え、かの暗殺組織を残さず救い上げるまでが貴公の仕事だろう」

義賊団にはそれができたのだから自信を持てと励まされる。

「ずっと思ってたんだけどさぁ」

「何だ」

「スゴロクさんって、魔王っていうか勇者みたいだよな」

魔界でも最も強力な10人の魔王が作り上げた『魔界十傑同盟』と人間界の代表者が会談を行い、

永続的な休戦と友好を約束して既に200余年が経つ。

人と魔が手を取り合う世界にあっても、、ここまで人間に協力的な魔王がいただろうか?

数世代ほど上の人々がスゴロクの言動を見たら、皆が目を丸くするに違いない。

2019/8/25更新。

2019/8/26更新。

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