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前編(7)/急転

クリストフは小さく首を振った。

自分の心に整理をつけようとでもするかのように。

「大恩ある国王陛下のお心に背くような真似をした上に、このようなお願いをしなければならぬこと、

 大変に心苦しく思います。しかし……」

「申してみよ」

“国王陛下”の口調で続きを促す。

「どうか、わが父を。ジェノク=スチュアートを、捕縛していただきたいのです」

「親を裏切ると?」

「はっ。これ以上、陛下を裏切るわけには参りません」

アルフレッドは腕を組んで目を閉じた。

沈黙が落ちる。

秋の夕刻である。窓を照らす西日がやけに眩しく思えた。

「俺の命を狙う算段をしている、と言ったな」

「はっ……。父が集めた人員より選び、手ずから精鋭を育て上げました」

「それは興味深い」

「ご興味、でありますか」

「うむ。俺の直下で動いてくれる、優秀な部隊が欲しいと思っていたところなのだ」

再び、沈黙。

スラム街の方角から、カラスの鳴き声が響いてくる。

「その精鋭らの腕前を見てみたい、と言ったら……どうする」

「まずは……わたくしとの、利害の一致を喜びます」

「おもしろい。お前はどういう算用をしていた? 聞かせよ」

“国王陛下”の口調を崩さないままだったが、アルフレッドは笑っている。

学生時代から変わらない、悪戯者の少年みたいな、朗らかな笑顔。

わざとだな、と呆れつつ、クリストフは胸のうちの計画を余すところなく伝えた。

遮音結界は展開したままだが、あえて耳打ちで。

「狂言か。父君の目をごまかしつつ、組織をこちらに引き渡そうと言うのだな」

「はっ。父はもはや、国潰しの妄執に駆られて、人間らしさを捨て去っています。

 見かけ倒しの芝居の中だけでも、彼の野望を叶えてやりたいのです」

「無茶だな……しかし、それも親を想う心の表れと言うものか」

「恥じ入るばかりにございます。どのような罪咎もお受けいたします、どうか……」

アルフレッドの喉元が、くくくっと低く鳴るのを、クリストフは確かに聞いた。

ぞっとするほど美しい笑みであった。

しかし、若き王は、その艶笑えんしょうをすぐに崩してしまった。

わずかな間に色々な笑い方を見せた彼が、ついには大口を開けて笑い出したのだ。

「くははっ……はははは! いいぜ! そういう危なっかしいの、嫌いじゃねぇ!」

「は、はぁ……」

「まだ人員らの顔はバレてないな?」

「それは間違いなく。未だ行動を起こしてはおりませぬゆえ」

「暗殺計画の噂でも流してみよう。おもしろいことになるぜ」

「陛下もお人が悪い。我らをえさに、怪魚かいぎょ釣りをなさろうと仰るのですか?」

王が直接狙われているとなれば、それに乗じて、

王を脅迫きょうはくするための刺客を送って来る者が必ずいる。

『暗殺組織』に罪をなすりつけられる機会など、そうあるものではないからだ。

しかし王は、主張の異なる者を排除したいわけではない、と言った。

「物騒な方法に頼らなくても意見は言えるってことを示してやりたいんだよ。

 思う事は剣に訴えず、言葉にするべきなんだ。じゃなきゃ何のための議会なんだ、ってな」

クリストフには、国家の権力闘争などわからない。

だが、王が胸のうちを明かしてくださったのだから、応えねばならないと思う。

「陛下の御意ぎょいのままに」

研ぎ澄ましてきた力をこの方のために振るえるのなら、迷いなどない。

2019/8/24更新。

2019/8/25更新。

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