前編(6)/義賊事件(3)
捜査状況が一進一退する中、半年が過ぎた。
中央大陸の夏は暑く、その最中には義賊たちも目立った動きを見せなかった。
秋も深まった頃、エレジュの助言や冒険者の力添えもあり、
義賊団の人員を捕縛することができた。
捕えた数人の下っ端の証言によれば、義賊団は黒エルフや小人族など、
賢くすばしっこい連中を中心とした組織なのだという。
コルトシュタインを標的にした真意までは分かりかねると口をそろえて言うので、
給金ナシで捜査に協力させることにした。
以前よりは親しくなったエレジュにそのことを伝えようと、アルフレッドは彼女の部屋をノックする。
許可を得て入室すると、荷物入れ以外は何もない部屋の、ベッドの縁に腰かけていた。
「どうなさいました、陛下」
「いい知らせだ。義賊団の下っ端を4人ほど捕らえた」
「想定よりも大きな組織のようですが……進展があって何よりです」
「本当に助かっているよ。お前のおかげだ」
「決してそのようなことは。ねぎらいは是非、他の皆様方に」
謎の魔導師ことスゴロクとの約束通り、彼女の来歴や正体については、
あえて言及しないまま、友のように過ごしてきた。
今では寝室の警護を任せるほど信頼しているし、向こうも信頼してくれていると思う。
「アルフレッド様」
「どうした、改まって」
「陛下の御代になってすぐに、このように手間のかかる事件が起きる。どう思われていますか」
俺の力不足だ、と答える。
父の代にはあまり起きなかった類の事件である。
予告状を出しては警察機構と遊ぶような連中は特に、初めて相手取る。
静かに聞いているエレジュに、何故だか本音を聞いてもらいたくなって、そうする。
「あとは……領民の信頼を失いそうで怖い、な。
議会とかともうまいこと話さないといけないし……正直言って、かなり疲れてる」
「……ご心痛をお察しいたします」
エレジュは意を決したように、ベッドを離れて立ち上がる。
「アルフレッド陛下。私からどうしても、お耳に入れたいことがございます」
「聞こう」
「私は……私の、本当の名は――」
低く呟くと、小柄な姿が薄い霧に覆われる。
肩までで短く整えた暗い金髪。湖の底のように深い碧眼。
仮の姿よりももう少し痩せた体型。
儚げな印象は昔のままだが、その雰囲気には何かを乗り越えんとする力強さが感じられる。
アルフレッドは、記憶に強く残る名前を、丁寧に呼んだ。
「クリストフ。クリストフ=スチュアート」
「はっ。素性を隠し偽ってお傍にありましたこと、お詫びいたします」
小柄な身体を再び低く折り、跪く。
「2年ぶりか。今までどうしていたんだ、連絡もよこさずに」
「とても申し上げられません」
「俺は聞きたい。ダメか」
暫くためらってから、
「陛下のお命を、奪えと。……父から命ぜられ、その準備を進めておりました」
かすれた声が歪み、潤みを帯びている。
泣いているのだった。
2019/8/24更新。
2019/8/25更新。




