前編(5)/義賊事件(2)
謎の魔導師は王の意志を確かめると、「安心いたしました」と不器用に笑んだ。
「貴公の事もお聞かせ願いたいが……考えるべきことが増えてしまいそうで怖い」
「ふふふ……。この身はあからさまに怪しいですからな。
ですが仰るとおり、陛下がお考えになるべきは別にござる」
エレジュの正体と同じく、今は気にしてくれるな、という事だ。
なら、そうしてやれんではない。
器の大きい人間になれと、父も言っていた。
かなり実力の高い冒険者だと思えば気にもなるまい。さっと頭を切り替え、尋ねてみる。
「義賊騒ぎだが……どう見る?」
「相手は『隠形』の使い手でありましょう。一筋縄では行きませぬ。じっくり取り組まれるべきかと」
そんな余裕が自分に、この国にあるだろうかと、アルフレッドは考える。
自衛軍を目の敵のように見る議員がいる。
何代も前の出世競争に負けたことをまだ根に持っているハゲだ。
戴冠式を終えたばかりの若造だからと言って、
ゴネれば優遇措置を講じてもらえると勘違いしている商人たちがいる。
周囲の街をまるごと買収してしまってはどうか、だの、
税金をもっと安くして欲しいだのと言ってはカネを掴ませようとしてくる連中だ。
心強い味方もあるけれど、自分にとっては厄介な大人の方が多いと思う。
皆に親しまれ愛された、正しく権力を使うことができた王が代替わりしたことで、
人々の様々な野心や欲望が表面化し、ちょっとしたことですぐに不安定になってしまうような状態に、
コルトシュタインという国そのものが陥ってしまっている。
……ような気がしてならない。
義賊騒ぎだって、何も手を打たずに放置すればどんな作用が出てくるかわからない。
内心はひたすらに恐ろしいと思っているが、何故だかそれをこの魔導師に知られたくない。
「貴公なら一夜で解決できそうだな」
「まあ、できなくはないでしょうが。本当にお望みか?」
「言ってみただけだ」
魔導師は、ふむ、と呟いたきり黙ってしまった。
やがて、どこからともなくお洒落なティーセットを取り出して並べ、茶の用意を一瞬で整えてみせる。
「魔法ってすげぇな」
「でしょう?」
不器用な笑みのまま勧められた茶を喫し、深く息をつく。
「ご自分が未熟だと思われている」
「そうだ」
「何かといえば父上のことを思い出す。彼の方がよい治世を行えると、まだ思っているからだ。
彼が築き上げた王家への信頼を壊したくないと思っている。尊敬する父を裏切ることになるからだ」
「そう……だ」
鏡のようだと思った。
誰にも話さずにひた隠しにしている不安を次々と言い当てられ、心が苦しくなってくる。
魔導師は無言で、塩をまぶした丸いクラッカーを差し出してくる。
遠慮なく受け取ってさくりと噛むと、心地よい歯ごたえと塩味が広がる。
「陛下のお好きになさればよい。頼ってくる者ひとりひとりと向き合えばよい。
国の体がもしも崩れようと、民や陛下の命と精神が壮健ならば、何度でも立て直せますぞ」
「わかった。色々試してみるよ」
その意気ですと笑んで、魔導師は姿を消してしまった。
2019/8/24更新。




