前編(4)/義賊事件(1)
翌日、アルフレッドは噂の二人と面会の時間を持った。
執務が予想以上に長引いてしまい、すでに夕刻となっている。
本当に強そうだな、と賛辞を送り、応募者名簿を参考に名を呼んでみた。
「エレジュというのは君か?」
呼ばれた長髪の女性は、すぐに小柄な身体を折るようにして跪いてみせた。
「腕には自信がございます。お役に立ちたいと切に思っております」
明るい茶色の髪に西日が当たって美しい。
もう一人の、長身の魔導師らしい人物はただ一言「スゴロクと申す」とだけ告げて一礼して来た。
銀エルフより上かも知れないと思うほどの美貌の下で、
何を考えているかわからない妖しさを湛えているようだった。
簡易試験に合格した最後の一人との面会があったから、詳しく話す時間はなかった。
しかし、何故だか先ほどの二人には、悪い印象を持たなかった。
――。
エリシヤ=レングズの進言は正しかった。
さすがはコルトシュタイン商工会会頭の末娘といったところだろうか。
スゴロクと名乗った謎の魔導師は城に設けた詰め所に居つくことなく、忙しく動き回っている。
逆に、エレジュはすぐに城になじみ、腰を据えて警備に取り組んでいるように見える。
王の懸案は、相変わらず城下をにぎわす義賊騒動だけではない。
警備員の募集を締め切って何日も経たないうちに、
統制のとれた魔物の集団が、街を襲撃し始めたのだ。
エレジュは先陣を切ってこれらと戦い、次々に武功を上げている。
龍の角をかたどった黄金の耳飾りを闇に煌めかせ、
魔物の群れを少しも恐れることなく細剣を操る小柄な姿は、
愛すべき頑固ジジイを始めとする自衛軍にも好評だ。
儚げな印象は昔のままだが――、
「……!?」
アルフレッドはひとり、ハッと息を吞んだ。
俺は今、何を想った?
エレジュという魔法戦士のことを考えていたはずだ。
彼女の印象についての、考え事。
深く考えすぎて、誰かの記憶と混乱してしまったのだろうか。
「いやいや、俺はまだまともなはず。そんなはずはねぇよな……」
自分で自分の思考を茶化してみるが、心に生じた引っ掛かりを押し流すには足りなかった。
あれはいったい誰だ?
「さすがは黄金王。お気づきになるのが早い」
「誰だっ!?」
私室には鍵をかけていたはずだ。
「驚かせて申し訳ない、アルフレッド陛下」
「貴公は……スゴロク殿と仰いましたか」
「お見知り置きいただき、光栄です。王がお考えの件についてお願いがあり、無礼を承知で参りました」
「他者の考えが見えるのか」
「はい」
「信じよう。で、貴公の言わんとするところは?」
魔導師が言葉を選んで言う事には、しばらくの間、
エレジュの正体については追及しないで欲しいとの事であった。
「ひとかたならぬ事情を抱えた人物です。彼女の方から話をするまでは、
どうか待ってやって欲しい。彼女が知る陛下なら、きっとそうして下さる」
「人は変わるぞ、簡単に」
「陛下ご自身は、変わられましたか?」
同期とつるんでは騒ぎ、即位後の夢を語っていた、輝かしい学生時代。
「いや……」
父のような、皆に愛される王になると決めた。
何も変わっていない、つもりだ。
魔導師の言を信用することに決めて、大きく頷いてみせた。
2019/8/23更新。




