前編(3)/進展
盗賊団は巧妙だった。
最初に起きた王冠盗難事件から数日が経ったと言うのに、一向に尻尾すらつかめない。
捜査が進まないことは既に領民に知れ渡っていて、
自衛軍にとっては深刻な信用問題になりつつある。
それに連中は、思った以上に悪ふざけを好んでいるようだ。
むざむざと取り逃がしてきたこちらにも非はあろうが……。
奴らは城だけでなく、悪だくみしてコソコソと私腹を肥やす一部の貴族の家屋敷にも忍び込み、
奪い取った金品を貧しい人々に分け与え始めたのだ。
「義賊ってやつか……」
「おやじだったら、『犯罪は犯罪じゃあー!』とか言いそうだけどねぇ。スラムの人は歓迎してるみたいだよ」
レオンは好物の酒をちびちび飲みながら言う。
盗難事件が起きてから何度目かの、『銀の歯』での会合である。
悪徳商人や腹黒貴族らが、脱税や売り上げの水増しなんかで儲けた金を市井に戻すのだから、
国に出来ない方法で民を助けていると言えなくもない。
公金や私費を使ってスラム地区にだけ同じことをしてしまったら、
各所から大ひんしゅくを買うだけだ。
それで議会の議論や国の施策を妨げられては、それこそ目も当てられない。
だが、国王としては義賊たちに賛辞を送ることなどできはしない。
城の警備員を増やすべく、自ら募集を開始した。
人口1万にも満たない小さな街だ。本当に腕の立つ人物は地元にはなかなかいないが、
徐々に人材が集まっている。
中でも、今日の夕刻まで開いた簡易試験にパスした二人組は、相当な力を持っていそうだとの事だ。
王の学生時代の同期で、鋭い観察眼を持つエリシヤ=レングズが進言して来た。
彼女が言うなら間違いない。明日の面会が楽しみだ。
「ちょっと楽しそうだよね、アル」
「民や騎士たちの命がかかっていれば別だけどな。
城から盗まれてる宝物はほとんど、お前が作ってくれるレプリカだし」
「僕のくたびれ儲けじゃないか……アルったら人使いが荒いんだから」
やっぱり城は苦手だとか魔力使うからしんどいだとか言う割に、
レオンはこのところ、以前ほどは嫌がらずに城に顔を出している。
学生時代から密かに憧れているアルフィミィに会うための口実かも知れないが、
それならそれで構わない。他人の恋路に口を出すほど愚かでもないつもりだった。
「何か目立った進展があるといいよね……」
「ああ。自衛軍は頑張ってくれてるけど、いつ音を上げるか分からないしな」
自衛軍を信用できないわけではない。
警備費や軍事費が議会の要求で削り取られている今、彼らは懸命に働いてくれている。
カネも出さずにおいて現場の人間をこき下ろし、旧態依然で役に立たない自衛軍は解体してしまえ、
などと平気で口にする一部の貴族を抑えることが出来ていないのは、自分自身の不手際だ。
「議会の連中のこと、考えてるでしょ。ドナーグのおっさんあたりかな」
「バレたか」
宮廷魔導師上がりの改革派議員だ。
代替わりしてからというもの、何かとつっかかってくる目の上のたんこぶ。
あんなハゲ気にすることないって、と断じた親友の言葉に、若き王は苦笑を返した。
2019/8/23更新。




