前編(2)/たくらみ
三日後、王は自衛軍の副長を務めるリチャード=ケネスを呼び出した。
いつものごとく変装してなじみのバー『銀の歯』へ向かい、二階の個室を借り切ると、
バーで働く彼の弟レオンを交えて王冠盗難事件の話をすることにした。
リチャードはこの三日間をかけて父親を懇切丁寧に説き伏せ、
冒険者と共に捜査を行うことを承諾させていた。
ケネス翁は冒険者と熱心に面談を行い、信用のおける者を選抜して捜査に当たっているとの事。
「リチャード、何か進展はあったか」
「はい。足跡と指紋の調査を行ったところ、城に出入りする中に該当する者はおりませんでした」
「完全な第三者ということになるか」
「そうなります、王」
レオンが「わざとらしいよね。僕だったら絶対に証拠を残さないけれど」と口を挟む。
何でも言い合える仲間同士であろうと約束した三人である。
「正当な『盗賊』の一派だったりしてね。遊ばれてるのかも知れない、おやじも僕らも」
「遊び、か。そうならいいんだが」
「何か狙いがあるのかな」
「泳がせるべきか……」
「手がかりが少なすぎます」
リチャードの言うとおりだった。
捜査を始めたと言っても、賊の人数さえ分かっていないのだ。
「いっそ、もう一回来てくれればいいのにねぇ」
レオニュディースは自由気ままな人物で、未だに少年のような言動をする。
銀エルフの血を引く童顔ぎみの美貌も相まって、『霧のプリンス』として巷の若い女性に大人気だ。
仕方のないやつだと苦笑しつ、リチャードも弟を常に気にかけているようだ。
自由に生きるレオンが少し羨ましいと酒席で明かしてくれたことがある。
絵に描いた真面目と、絵にしかならない不真面目。
兄と弟の対比がおもしろくて親しく付き合って来た。
「もう一回、か……」
兄が弟の物言いを容れて考え始めた。
やがてド真面目な顔をぱっと明るくして、「いいかもしれないな」
「具体的にはどうする、兄貴?」
「単純な手だが、おとりを使ってはどうかと思う」
「おとり。王さま、なんか盗まれてもいいお宝ってない?」
「無茶言ってくれるぜ」
逆に盗まれてもいい物なんかあるだろうか?
新たに用意するしかないか……とか考えていると、
「僕、レプリカとか作れるから。ごめん、アル」
レオンが申し訳なさそうに言った。
「そうだな……リチャード、お前の剣を使わせてくれないか?」
「王のお考え通りに」
リチャードの愛用する細剣は『霧の森』に住む銀エルフ手製の最高級品だ。
王冠を盗んだ犯人も興味を持つだろう。
レオンが言うように『盗賊』の正当な技術を持つ連中が遊びを挑んでいるならばそれもよし。
もし王城の宝を盗み出す以上の目的があったとしても、手がかりをつかむことが出来るだろう。
「リチャードは引き続き城の警戒を頼む」
「お任せ下さい、陛下」
「レオンは今から俺と城へ来てくれ」
「ん、わかったよ。たまには王さまのためにも働いてみせなくちゃ」
不謹慎だがちょっと楽しくなってきたと、アルフレッドは自覚する。
ケネス翁にバレたらぶん殴られそうだが。
2019/6/26更新。
2019/7/5更新。




