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前編(1)/発端

王冠が盗まれたとの知らせを受けたのは、即位二年目の春だった。

事件らしい事件は久々だ。

前王の時代――3年ほど前から何者かの襲撃が散発的に起きていたがいずれも単純な攻撃ばかりで、低予算な自衛軍でも完全に防ぐことが出来ていた。

自衛軍の団長ウォルト=ケネスの頭を上げさせ、

「領民には知らせたのか?」

「発表しておりません。私の、いいえ我が自衛軍の落ち度であり国の恥にございます」

「そう自責せずともよい」

若き王は大仰で豪華な王冠が好きではない。

父も同じ考えだったが、長年国を支えて来た古い人々には容易に理解されまい……と渋面を作っていた。

即位した頃にアルフレッドを悩ませた酔っ払いのケンカにしても、

ケネスに相談したら即刻、国の治安を乱したとかの大げさな罪で捕らえようとしたくらいだ。

しっかりたしなめておかないと、頭の固いこの老人は腹を切るだの言いかねない。

「詰め腹切ってお詫び申し上げねば、私の気が済みまぬ!」

やっぱりな、と内心ため息をつく。

アルフレッドに悪意はない。ケネスの忠義に王族として恩を感じている。

まして、彼はもうすぐ軍の定年を迎える。

孫も生まれるし一緒に旅行でもしてみたいと微笑んでいた奥方のためにも、腕の見せ所だ。

「起きてしまったことは仕方がない」

厳しい君主の口調を保つ。「貴殿が腹を切れば王冠は戻って来るか?」

ケネスはぐっ、と声を詰まらせた。

「死ぬことは俺が許さない。賊の行方を調べるんだ」

「はっ」

「宝物庫に何か落ちたりはしていなかったか。足跡や指紋はどうだ? 魔導師の技術を使えば簡単に調べられるはずだ」

「我らは誇り高き騎士、魔導師の助力など……」

「時と場合を考えろっ! 貴殿の任務は何だ!」

「……申し訳、ございません」

「済まない。色々と拘りもあるだろうが、ケネス殿には自衛軍や俺の手本になってもらいたく思う。王の心底からの頼みだ、聞き入れてくれまいか」

「心します。まずは盗賊めをしかと捕らえてご覧に入れまする」

最敬礼して立ち去るケネスの背中を見つめながら、アルフレッドは思考に耽る。

他人を変えられるなどとは思わない。

それよりも……自分が被りもしない王冠を盗んだ連中は、何が目的だろう。

売るにしても、すぐ足がついてしまうはず……。

アルフレッドは考えを中断して顔を上げた。考えることは好きだが、

考えるより行動した方がうまくいくことも多々あると、国王の務めの中で学びもした。

「アルフィミィ!」

「はっ!」

ぼん、という少し間抜けな音がして、王の前に小さな人影が現れる。

「『始まりの街』までひとっ走り頼む。盗難の現場を詳しく調査したい、冒険者ギルドに話を通してくれ」

小人族は元気に返事をすると、快足を飛ばして走り出た。

父の代からのベテランで個人的にも世話になってきているとはいえ、

ウォルト=ケネスの汚名をそそぐ事ばかりを考えても居られない。

しっかりと腰を据えて、盗難事件を解決してみせなければ。

2019/6/25更新。

2019/7/5更新。

2019/8/23更新。

2019/8/25更新。

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