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プロローグ

黄金。

知られざる宝物は世界にあふれ、冒険者を虜にしてやまぬが……。

これほど人を惹きつけ、時に狂わせさえする存在は多くあるまい。

災いを呼び争いを起こし、それでも求める者は尽きぬ。

産出国の君主ともなれば、理不尽な不幸がつきものである。


大陸随一の黄金産出量を誇り、最も富める商業都市国家として栄えるコルトシュタイン。

その黄金の冠を引き継いで間もないアルフレッド新国王は、

さっそく治世の難しさを知ることになった。

代々の王家が国民の商売を原則自由とし、干渉しない姿勢を通してきた結果、

小さな街には商売人が溢れるほどになっている。

詳細な地図が未だに作られていないという不思議な事情を抱えたこの世界でも、

大陸で唯一と言われる金山と潤沢じゅんたくな資本の話を聞きつけて訪ねて来る者が多い。

王や役所の仕事は増える一方というわけだ。

最近予算を減らされつつある自衛軍からの要望はやまないし治安も保たねばならない。

災害を防ぐには公共事業として様々な工事を行う必要がある。

意図しない商売上のいざこざが結構な頻度で起きる。

商人上がりの貴族のわがままな陳情なんか、できれば聞きたくもないくらいだ。

「俺が知るかっ!」と言いたくなるような酔っ払いのケンカの仲裁まで頼まれたことが何度かある。

酒場には必ず一人以上の傭兵か冒険者を雇うよう努力義務を設け、客に対しても節度を保って楽しく飲み食いするよう〝王からの注意”という形で定めを置いた。

即位して初めての仕事が酒のお定めとは、とため息が出たものだ。

一年も頑張ってようやく慣れて来た国王としての務めを、この日の執務を終えた若き王は思いやる。

防災や治安と言った大きな事から細かい民事まで頼られる。

いい気分だし厚く信頼されているのだと思えばやりがいも感じるが……。

それにつけても、父とその側近は自分の前では愚痴ひとつこぼしたことがなかった。

ストレス解消はどうなさっているのかと尋ねたら、変装して街のバーで吞むのだと笑っていた。

父はどんな時も冗談を言うひょうきんさを忘れなかった。

改めて尊敬の念を覚える。

とはいえ、アルフレッドも幼い頃から君主となるべく己を鍛えて来た生粋の王族である。

できないと言えば誰かが何とかしてくれるわけではない。

疲れたと喚けば仕事が半減するわけでもない。

堅苦しい会議や商工組合の会合にもきちんと顔を出す。

金山や城下町の視察を行い、過不足のないまつりごとを心がけている。

父をまねて変装し、顔なじみが営むバーに顔を出してみるが、今のところ民の評価は上々のようである。

カネ、人脈、容姿――すべてを不足なく持ち合わせた完璧な王。

民の評判と彼の実感は限りなくかけ離れている。

人間と魔族が互いを認め合い、勇者がいずこかへ去った平和な世界。

国を治める者は誰もが多忙を極める。

それを知っていて、自分で覚悟を決めた。

敬愛する前王ウィルフレドから冠と権力を引き継いだ以上は、

父や父祖が築いてきた狭くも豊かな国を守り続けるのが彼の役目なのだ。

2019/6/5更新。ページ分けを新しくしました。追加エピソードの準備のため。 

2019/6/21更新。加筆しました。

2019/6/24更新。加筆しました。

2019/7/5更新。

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