前夜(終)/暁(3)
スゴロクはそれから、組織との連絡や情報収集を買って出てくれた。
城の警護を正式に担当するようになってからは、ときおり話をする程度だが、
引きこもりだと自称する割には忙しく立ち回っているようだ。
相変わらず彼の腹の底が図れずに戸惑っているが、これだけはどうしようもないことである。
クリストフはエレジュと名乗り、警備員として約半年を過ごした。
盗賊団との追いかけっこにももう慣れた。
ウォルト=ケネスは情報通りの頑固ジジイで融通が利かず、古めかしいラッパか何かのようだ。
これなら潜入などせずとも正面から戦えたのではないかと思うが、
それとは別の計画にしたのは自分だ。
魔物の攻撃を防いだり、盗賊の侵入を妨げたりするうちに、
彼や自衛軍の信用を勝ち取ることが出来た。
コルトシュタインは領土が狭く、王族と市井の人々の距離も近い。
ウィルフレド前国王はよく街に繰り出し、親しみを込めて“放蕩君主”とも呼ばれていた。
人々や王に警戒心がないとは言わない。
アルフレッドの王冠を始め、城の宝を次々と盗み出す盗賊に、
軍事費や警備費などの予算が少ない中で立ち向かっていることを見てもそうだ。
王の信頼を得るのがあまりに簡単だったので、戸惑ってこんなことを考えるのかも知れない。
飲みに誘っていただいたり、警備や軍備について話したり、顔を合わせる機会が思った以上に多い。
ノックの音で分かるようになってしまったくらいだ。
王は既に全てをご存知で、その上で普通に接してくださっているだけかもしれないとも思うが……。
「エレジュ、今いいか?」
「どうぞ、陛下」
そんなことを訊けるわけもなかった。
王のお考えを想像することもできないままでいる。
どうなさいましたか、と余裕のあるふりをして尋ねた。
「いい知らせだ。盗賊団の下っ端を何人か捕らえた」
アルフレッドは朗らかに笑って言う。
警備や対策について頻繁に助言を行った価値があるというものだ。
「何よりです」
クリストフは、どうしても聞きたくなったことを尋ねようと、彼の名を呼んだ。
「陛下の御代が始まってすぐに、このような事件が起きること。どう思われますか?」
「どうした、改まって。……まあいいけどな」
主には自分の力不足が原因だろうという。
父の時代に同じようなことは何度かあったが、
予告状を出すようなふざけた輩が現れたのは初めてだとも。
「領民に信用されなくなりそうで怖いのが本音かな」
驚いた。
ハンサムで金持ちで、それでいて優しくて……苦労を何とも思わない。
そんな理想のプリンスでも、お悩みになることがあるのだ。
話せる、と思った。
「アルフレッド陛下。私から、どうしてもお耳に入れたいことがございます」
胸のつかえのようになっていた言葉を、ようやく吐き出す。
数えること半年弱も、国王陛下と共にあることが出来た。
暁のあたたかな光に遊ぶような、幸福な日々であった。
それを今、自分の手で、壊す。
「私は……私の、本当の名は――」
2019/8/23更新。
2019/8/24更新。




