前夜(13)/暁(1)
残り半年の訓練プランを立て終えたクリストフは、城下町へ赴いて新しいローブをしつらえた。
学生時代に城下町の老舗バー『銀の歯』で働いて貯めた私費が、ついに底をついてしまった。
転移魔法で屋敷に戻ると、
アルフレッド王に借りたままになっていた細剣を引っ張り出して、
丁寧に手入れを行った。
彼女は刺突剣技を得意としていた。薬を飲んでおきさえすれば、多少の運動は可能だった。
腕がさびていないか確認する為に組織の数人と手合せをしてみたが、身体がきちんと覚えていた。
しばらくニーナと離れる事になるので、持病の悪化が心配だったが、
「これがあればきっと平気だから」と手渡してくれた耳飾りをつけていると、
ひどく咳きこむ症状は出ない。
半龍人の多くは、物心つくまでに角が落ちるという。
小さく曲がった龍の角の耳飾りは、ニーナが自分の角で作ってくれたものなのだろう。
リコシェは短刀を、ダガーは携帯用の魔法の弓矢を。ブルーベルは妖魔の靴を貸してくれた。
7日分の着替え、蝶の図鑑。
残り2錠の薬などなどの物品を、王立学校に持ち込んでいた愛用の荷物入れに詰め込んでいく。
胸に秘めた計画の割に、その第一歩のための準備はとても楽しく感じられた。
課外授業の小旅行の前、みたいな気分。
うかつにも、皆はどうしているだろうな、と声に出してしまい、慌てて首を振る。
王立学校時代の仲間とは、一切連絡を取っていない。
彼ら彼女らを裏切ってきたような気がしてならない。
もう裏切りたくないと思う。
王の御前に推参することが、その一助になると信じるしかなかった。
準備をあらかた終えてふと後ろを見ると、
「やあ」
「うわぁっ! おっさん!?」
いつぞやと同じく灰色のローブをまとい、長い黒髪を後ろでひとつ結んだ、
美形の魔導師が立っていた。
「余はおっさんではないと何度言えば」
「じゃあいくつよ。それと何者なのよ。いい加減に名前くらい教えてよ」
「余はスゴロクという。歳はざっと180ほどだな。魔界の片田舎で国を治めている」
「いわゆる魔王、ってやつ?」
「左様。国の規模はここと似たようなものだがな」
クリストフは目を回しかけたが、どうにか普通の表情を装った。
膝が震えているけど気にしない気にしない、気にしたら負け。
「ふ、ふーん……そうなんだ……」
黄金要塞と呼ばれる豊かな土地だが、コルトシュタインの総人口は1万人に満たない程度だ。
その中でも本当に貧しいのは、自分たちを含めても500人ほどに過ぎない。
賢王の名を誇り実績のあるウィルフレド前国王でさえ、
街はずれのスラムを解消する手立てを打つことが出来なかった。
魔族の王だというこの男は、一体どういう治世を行っているものだろうか。
「旅支度をしているようだが、何をするつもりだ」
「アルフレッド様に会いに行く事にしたの。一緒に来てみる?」
「王に目を回されてはかなわんが、どうするかな」
それも見てみたい気がする、とボヤくと、魔王は大口を開けて笑った。
2019/8/22更新。




