2話-0 吸血鬼の独白
「夜乃。君を認めよう。君は勇気のある人間だ。」
「だが、それに満足してはいけない。僕の眷属となる以上、君にはより高みを目指してもらう。」
女は本棚に手をかける。
そして、一冊の本を手に取った。
「これはプラトンの『イデア論』だ。」
「ギリシアの哲人ソクラテスの教えを受けたプラトンは、その著書で人間の持つ3つの側面について述べている。」
女は慣れた手つきで本をめくった。
「その3つとは、その者の持つ欲望、それを成すための気概、そして行動指針を決める理性だ。」
「欲を欠けば動かない、気概がなければ踏み出せない、考えなければ成されない。」
「だから、プラトンはイデア、つまり理想の姿を目指すために人はその3つを調和させなければならないと説いているんだ。」
そこまで言って、パタンと本を閉じた。
「君には『友人と寄りを戻す』という夢がある。そのための困難を乗り越えんとする勇気もある。」
「だが、それだけではダメだ。君がその2つをもって為すことは、君を無謀な賭けに導いてしまう。」
「だから、思考するんだ。君の行動すべてを裏付けるんだ。結果への道筋に、最善択を見つけるんだ。」
女と相対する者が口を開いた。
「何?そんなこと出来るわけがないって?」
女は笑顔を浮かべる。
「安心しなよ。君になら出来るさ。その片鱗を僕はこの目で見たからね。」
「ただ君の思うようにやってみれば良い。手に負えなくなったら僕が助けてあげよう。」
「だから…」
女は目一杯に叫んだ。
「夜乃、僕に人間の可能性を見せてくれ!」
「儚き生涯の中で、なお輝かんとする人間の貪欲さを!」
「自分を歯牙にもかけない高い壁を前にして、それでも乗り越えようとする人間のたくましさを!」
「見聞を集め分析し、自分の糧としていく人間の成長を!」
「…そして僕が本来、目指すはずだったその理想を。」
本当にイデア論だっけ?




