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5話-2 The Greatest Human

「人間とは何か。」

本を閉じる音ともに、その声は静かに部屋に響き渡った。


「これは哲学における一つの巨大なテーマであり、あらゆる人類が思索し答えようと努めた、

未だ未解決の問題だ。」

先生は積み重ねられた幾つもの本に目を移す。

「社会的動物、唯一の理性的生物、考える葦、遊ぶもの…遂には人とは機械だ、と主張する者もいたね。」

夜乃は知識を掘り起こす。

アリストテレス、パスカル、ホイジンガ、そしてマークトウェイン。その他多くの人がその問いに挑戦し、それぞれに答えを主張した。


しかし、そのどれもが一つの模範解答とはなり得なかった。

「これはある種、人類以外にこれを考える生物がいなかった、もしくは考える生物がいたとしても人類にそれを聞くための手段がないが故の難題とも言える。人は思っている以上に自分のことを考えることが苦手だ。」

自分の内面、性格、好き嫌い。そう言った類のものは自分よりもむしろ他人の方がよく見えていることが多い。

人類には人類を定義できない。

彼女はこの問いには誰も明確な一つの答えを出せない、とそう言いたいのだろう。

「だから吸血鬼として、僕が外部から人を定義しようと考えたこともあった。」

夜乃ははっと先生の表情を見つめた。

しかし、そこには期待していた感情はなかった。

「ただ、残念ながら一切の主観を排除するには、僕は人に近くなり過ぎてしまった。故にこの答えもまたその永遠のテーマを終わらせることはできないと思う。」

彼女にもそれはできない。おもちゃを取り上げられた子どものようなもどかしさ、悲しさが夜乃を襲った。

「でもね、」

しかし、先生は答えるのを諦めていなかった。

「偉大なる先人達に倣って、僕も一つ答えを出したいと思うんだ。」

彼女はここで自らの興奮を抑える為に、ふうと大きく息をついてから、改めて言葉を紡いだ。

「僕が思うに、人とは…」



「何も持たないが為に、手に入る物でそれを代用する生き物なんだ。」



「強くないが故に、火に頼った人類種の祖先たち。手が足りない為に、機械を生み出した歴史上の発明家たち。飛べないが為に、手に入る資材を用いて飛行機を作ったライト兄弟。頭脳の限界故にコンピュータを開発したバベッジ、それを発展させたノイマン。」


「彼らこそまさに、人としての象徴たりうる者たちだ。」


彼女はまたも昂った気持ちを抑えようと、今度は静かに目を瞑った。

「もちろん、日常生活における些細な工夫。これもまた人が人であるが故に起こす行動なのだろうね。」

誰もが行うちょっとしたこと。リモコンの位置を同じ位置に置くよう心がける。心を落ち着かせるためにアロマを置く。百均で便利な品物を購入して活用する。

人ほど足りないことに敏感な生物はいないだろう。

おもちゃを返されたような満足感に夜乃は安堵した。


「で、あるが故に。」

しかし、彼女はそれを許さなかった。

彼女はここまでは前置きだとばかり明瞭かつはっきりとした声で場の空気を引き締めた。

「僕は一つ新たな問いに挑みたい。」

「すなわち…」





「人類の最高峰とは何か?」





「人は何を目指し、自らを高めるべきか?」

人によってそれは異なるのではないか、そう夜乃は思い口にした。

力を目指すもの、財の構築を目指すもの、新たな知識の体系を構築しようとするもの、そのどれもが正しく、そのどれもが正解たり得るのではないか?

先生はしかし、その解に首を横に振った。

「人類最強と名高い剣豪『信綱』?世界を裏から支配する財団の理事たち?もちろん、彼らも相応の努力と工夫から生まれたトップ層であるのに違いはない。」


「ただ僕に言わせれば、そうじゃない。」

先生にしては珍しく語彙が強かった。

「人類の最高峰。真たる頂点は…」






「何も持ち合わせない。」



「それが僕の答えだ。」





彼女の答えはひどく独善的で、偏った考えだった。

だが、夜乃はそれを否定しようともしなかった。

そこに何か先生の持つ明確な意図……過去を垣間見たからだ。

「だからね、夜乃。僕が思う人類の最高峰は…」

彼女は改めて話を続けた。


「力も権力も財もない、



ただ口先と信用と、



真っ直ぐな信念だけで



巨大な独立勢力を作り上げた稀代の道化師。」








「The Greatest Showman」









「彼以外にあり得ないと思うんだよ。」

先生の顔に羨望のような心情が浮かぶ。

彼女はそれを隠すように、机の上の紙束を掴んで夜乃に見せた。


「夜乃、間近で見て学んでくると良い。」


握られていたのは、サーカスの招待券。

今最も熱いエンターテイメント。世界中のありとあらゆる人々が熱狂し、予約は10年先まで埋まっているとも言われているプレミアムチケットだった。


「さあ、夜乃。」


「君もまた僕に人類の可能性を見せてくれ。」



そう言う先生の顔は、純粋な子どものように期待に満ちていた。

今回の話は、始祖の過去について、それを示唆するものが所々に出てきます。

そう言ったものも含めて、お楽しみください。

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