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4話-25 チリン、とどこかで鈴の音が鳴った

先に言っておきます。ギャグ回です。

ー15ー


「あ!またこんなに散らかして!ちゃんと掃除してって言ったじゃないですか!?」

「えー、これでも結構片付けたんだけど…」

「机の上だけじゃないですか!」

突如始まった親子喧嘩。少し離れたところからそれを見守っていた2人は互いに目を合わせた。


「僕たちは何を見せられているんだろうね?」

「さあ……」



先ほどまでの緊迫した雰囲気はどこへ行ったのだろうか?

ここに至る前に、話は少し遡る。





ー16ー


夜乃はしばらくの間、狩人に怯える兎のように少女を抱き抱えながらぶるぶると震えていた。死刑執行を宣言され絞首台に立たされた死刑囚もかくもといった様子だ。

そんな夜乃が顔を上げたのは、始祖が強引に夜乃の顔を引き上げたからである。

「あれ?………先生!?」

驚きの表情を見せる夜乃。驚くのも無理はない。既にヨレヨレだったはずの始祖が五体満足で目の前にいるのだから。

しかし、一方の始祖はその表情だけ確かめると、

「うん。気絶してないみたいだね。」

とだけ言い残し、飽きたおもちゃを放る子供の如く掴んでいた手を離した。

当然支えを失った夜乃の頭は重力に従って地面へと向かって自由落下し…

「へぶっ!」

拙い断末魔を残して地面に衝突した。




「いや、何してるんですか!」

「ははは、ごめん。君の腑抜けた顔を見てるとつい…ね。」

「何がつい…だあああああああ!」

夜乃の今まで溜まったフラストレーションが爆発する。始祖はそれにされるがまま……というわけではなく涼しい顔をしながらそれをいなし続けていた。それがますます夜乃の機嫌を逆撫でして……世に言う「無限ループ」である。

その様子を少女は下から覗いていた。(はた)から見れば今にも殴り合いに発展しそうな危険な状態であったが、少女はむしろそれを好意的な目で見ていた。緊迫した状況から解放された反動が行動に現れているのだろう。少し放っておけば満足するに違いない。

だが、この場に留まるのは危険だ。少女は彼女らに気付かれないようにそっとその場から這い出ることにした。

「…由香里ちゃん。」

「お、お母さん!」

しかし、外で天照が見張っているとは思っていなかった。少女は亀が殻に閉じこもるようにすっと身を引っ込める。

「あの…怒ってますか?」

「怒られるようなことしたの?」

「それは……」

言葉に合わせて目が泳ぐ。

神はその様子に朗らかな笑みを浮かべると、少女のおでこに軽くチョップした。

「……っ!」

「これは怒ってる分。」

当たった箇所を確かめるように涙目で撫でる少女。

「それでね…」

彼女はその細い腕を優しく掴むと、そのまま少女を引っ張り出す。




「これは喜んでる分だよ。」

そして力強く彼女を抱擁した。

「よく頑張ったね。」

その言葉が最後の一押しだった。

「うん…うん!」

少女の目から涙が溢れる。少し湿った下腹部に女は少々困った顔つきをしたが、彼女の右手は我が子を思う母のように優しく少女の頭を撫でていた。





それからある程度の時間が経ち、少女が落ち着いたのを確認すると天照は夜乃たちに向かって口を開いた。

「どうかな?互いに落ち着いてきたようだし、もう少し話しやすいところに移動しようと思うんだけど。」

少し離れたところで肩で息をしていた夜乃がそれに反応する。

「別に構いませんが、一体どこに?」

問いかける夜乃に、神は両手を合わせてあざとげなポーズで言葉を続けた。


「私の家、だね。」






と、ここまでがつい先程までの出来事である。

そして時間は冒頭に戻るのだ。



ー17ー


「えっと…ごめんね。周りだけ片付けるから、先に座って待ってて欲しいな。」

天照はどこかのんびりとした口調でそう言った。どうやら口喧嘩はそういう方向でまとまったらしい。

当然決まった決定にさして不満があるはずもなく、夜乃たちは炬燵へと足を踏み入れた。

「……え?炬燵!?」

明らかな違和感の塊に、夜乃は二流漫才師のようなツッコミをする。季節は夏真っ盛りだ。むし饅頭にでもなるつもりか。

「ああ、この辺り季節とか特にないから。基本的には年中炬燵が出てるよ。」

夜乃はチラリと始祖の方に目配せする。彼女は何も言わずに肩をすくめた。あまり気にしてはならないようだ。

「そうだ。由香里ちゃーん。お茶とお茶請け持ってきてー。」

「もー!なんで私がそんなこと…」

「棚に由香里ちゃんの好きなお菓子、入ってるよ。」

「……仕方ないですね。」

仕方ないらしい。どうやらそれが決め手になったようで、特に文句もなくそのまま少女は奥のキッチンへと消えていった。

天照はそれを確認すると溜めたゴミをゴミ箱に捨て、そのままいそいそと炬燵の中へと入った。

「さて、由香里ちゃんもいなくなったことだし。」

突然、視線が夜乃に注がれる。

「な、何でしょう?」

「何でしょうじゃないよ。ここに来た目的、忘れちゃったの?」

そう言って、女神はいかにも意地悪な笑みを浮かべた。


「由香里ちゃんの話、聞きにきたんでしょう?」



その言葉に夜乃は素直に驚いた。

「知ってたんですか?」

手のひらに顎を乗せながら、女神が返す。

「まあ色々と由香里ちゃんから聞いてたし、本当は最初からここで話すつもりだったんだからね。」

そして始祖に視線をずらしながら、

「イレギュラーがいて、びっくりしちゃったけど。」

最後にこう締めくくった。

「失敬だなあ。僕はただ付き添いで来ただけだっていうのに。」

「…その辺りは過剰に反応した私にも非があるから、水に流しておきましょう。」

二人の間に少しぎこちない空気が流れる。

それを払拭するような形で天照が言った。

「それで、夜乃さん。」

「は、はい。」

言葉に詰まる夜乃。その緊張を解きほぐすような優しい声で、

「由香里ちゃんの話、聞きたい?」

娘に語りかける母のような声色で、彼女はそう尋ねた。

考えるまでもない。答えは決まっている。

「…はい、是非!」

「うん、分かった。」

彼女は安堵のような、喜びのような表情を浮かべた。


「じゃあ話します。」



チリン、とどこかで鈴の音が鳴った。

シリアスの次はギャグ、古事記にもそう書いてある。

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