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4話-24 それは刹那の間に起こった

ー11ー


その目には怯えの色が見えた。


その手は小刻みに震えていた。




これから自分がすること、偶然得られた温かさを手放しかねない行為に彼女は恐怖する。



叱責を受けるだろう。


それだけなら良い。




もし見放されてしまったら?




足が錨のごとく彼女の体を縛る。











ふと左手に仄かな温かみを感じた。



あの人に握られた手だ。



この温かさは今までのものとは違う。


包み込むような抱擁感ではない。




私の背中を押すような勇気をくれる温かさだ。



長い夜に終わりを告げる、


暗い夜道を明るく照らす、




そんな温かさだ。





会いにきたよとその人は言った。



ならば今度は私から会いに行こう。










最初の一歩が踏み出された。









ー12ー


天照は先ほどと全く同じ位置から、悠然と夜乃たちを見下ろしていた。

「随分余裕そうじゃないか、神様。」

軽口を叩く始祖。だが、それが空元気であることは夜乃に十分伝わっていた。

何も言えなかった。無力感に苛まれながら、しかし何とか気力は保とうとひたすら天上に向けて視線を放った。

それが虚勢に過ぎないと知りながら…。


『そう己を悲観するな。』

神はそんな夜乃の内面を見透かすかのようにそう言った。

『妾とて(すんで)のところで回避できたにすぎない。あと少し反応が遅れていれば無事には済まなかっただろう。』

そう言いながら彼女は何かを掬うかのように掌を上へと向ける。


『だから、これは敬意だ。』


手の中に火が灯った。それが何なのかは分からない。ただ漠然とあれに当たってはならないことだけは分かった。

ふと肩の重みが消えた。始祖は何も言わず、夜乃を庇うように前へと足を踏み出した。

それを見届けて、神は炎を握りしめた。



『さらばだ。夜の徒とその従者よ。』




別れの言葉が告げられる。




夜乃は咄嗟に目を閉じた。




……







…………










ー13ー


それは刹那の間に起こった。



何処からか不意に現れた少女が両腕を広げて争いを止めに入ったのだ。



完全たるはずの神はその目を疑い、

始祖はその行為に感嘆の意を示した。





3人目の目撃者は何を思うだろうか?



まもなく彼女が目を開ける。





ー14ー


夜乃は疑問に思った。

天上の神が手に纏っていた火は、(まぶた)の薄い壁を超えて私に死の瞬間の光を届けるだろう。しかし、いつまで経っても瞼の裏は暗いままだった。

試しに手を動かしてみる。ちゃんと動く。まだ腕は胴体とお別れしていないらしい。

では、今目の前で何が起きているのだろうか。




夜乃は意を決して目を開けた。





最初に映ったのは、五体満足で腰に手を当てる始祖の姿。



目を見開いたまま動かない天照の姿。  



そして……









…両者の間に割って入る少女の姿だった。





「………っ!」




言葉はなかった。




何かを叫ぶ前に身体が走り出していた。







足音に気づいた少女は後ろを振り向く。





夜乃はそのまま少女を抱き抱えると、





彼女を庇うかのように少女に覆い被さった。





「お……お姉さん……!」

「………!!」



戸惑う少女に夜乃は何も言えなかった。いつ来るかも分からない天照の炎に今更ながら恐怖を覚えたのだ。

しかし夜乃は恐怖を感じながらも、少女を抱くその腕を決して離そうとはしなかった。少女を守らなければならないというその意思を決して捨てようとはしなかった。

夜乃の思惑は自分を包むその腕から少女へ十分に伝わっていた。少女はその優しさを受け止めるべく、腕にそっと添えるように小さな手を当てた。



夜乃は終始女神の大炎を恐れていたが、結局その火が夜乃の上に降り注ぐことはなかった。

いつしか手にあった火は消え、神はふらふらと引き寄せられるように地上へと降りていった。少し赤くなったその顔は、少女と夜乃の交じらいを羨む心とその恥ずかしさを表していた。

天照はしばらく2人の抱擁を見ていたが、ついに恥ずかしくなったのか他方に目を背けた。

ふと目があった始祖は笑みを投げかけた。




「僕『たち』の負けみたいだね。」




神はその言葉に反論を返そうとしたが、もう一度少女らを見て考えを改めた。



「…そうかもね。」



その声に先ほどのような威厳はなかった。

長らくお待たせいたしました。4話も残り4,5本です。

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