4話-20 踏み出す足は同時だった
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日曜日の午後6時ごろ。人のごった返している神社を前に、吸血鬼は驚きの声をあげた。
「これは…凄いな。流石はここいら一帯の神社の本殿ってところかい?」
「いつもこうって訳じゃないと思いますよ。今日は祭りっていうだけです。」
見れば、人混みの中には着物を着た人もちらほらと見受けられる。鳥居から伸びる参道に沿って、色とりどりな屋台が所狭しと並んでいた。
「しかし、こうも楽しげな雰囲気に当てられるとさ。ちょっと寄り道したい気持ちが湧いてくるだろう?」
「迷子になっても探しませんからね。」
つれないなあ、と彼女は不満げに視線を向けてくる。夜乃はため息をついた。
「それよりどうですか?先生。何か変な雰囲気とかはありませんか?」
夜乃は唐突にそう尋ねた。話題を変える意味もあるのだろう。
「うーん…特に何も感じないなあ。」
彼女は端的にそう答える。
一見なんの変哲もない返事。
だが、夜乃は彼女の表情に現れた微妙な変化を見逃さなかった。
「それは単純に力が弱いということでしょうか?それとも…」
「強い力の持ち主が完璧に気配を隠してるか、だ。」
彼女は笑みとともにそう返答した。
思った通りだ。先生は確かに何かを感じとっていた。
そして、その顔に浮かべた笑みはきっと何が来ても大丈夫だという自信からくるものだろう。
そんな彼女の態度を見て、夜乃は少し気が休まる感じがした。
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それからしばらく歩き、人気の少ない神社の裏側に足を踏み入れてすぐ、吸血鬼はその進めていた足を止めた。口元へと手を持ってくる姿勢は、どこか笑いを堪えているような印象を夜乃に与えた。
「どうかしましたか?」
「いやさ、世の中完璧なものなんてないんだなって思ってね。」
そう言って彼女はとある一点を指差す。夜乃もそこへと目を向けたが、小さな木が一本立ってる以外の感想が夜乃の頭には浮かんでこなかった。
だが、彼女の目には恐らく自分とは違うものが見えているのだろう。
「あの木が入り口のようだね。」
吸血鬼は見えない夜乃に配慮する様にそう言った。
「用心しなよ、夜乃。君の言った条件が合っているなら、あと一歩踏み出した瞬間に世界が変わるぜ。」
吸血鬼はそう諭すように語りかけてくる。
「元より覚悟の上です。」
夜乃は躊躇なく言い切った。
「ははは、いいね。その意気だ。」
始祖は笑った。
夜乃も笑った。
「行こうか、夜乃。」
「行きましょう、先生。」
踏み出す足は同時だった。
いよいよ『神隠し』へ…!




