4話-14 2つの謎
2つの謎がここで解明されます。謎解きをしている人は今一度推理を整理してみてください。
カレンダーは×2年を2020年として設定しています。
ー15ー
ファストフード店の店内はいつも騒がしい。店員は忙しなく動き、客は目の前のものを摘みながら世間話に華を咲かせている。この騒音に何とも思わないのは我々が現代人であるからだろうか。
そんな思考に夜乃がふけっていたところで、その向かいで宝物でも探すかのようにポテトの山に手を突っ込んだ陽子は、焦げ目のついたカリカリポテトを満足そうに噛み砕いて言った。
「それにしても、あんまり変わった話もなかったよな。」
「うん、まあそうだね。ちょっと『神隠し』の内容が変わったぐらいだったかな。」
そう返事を返して、夜乃もポテトの山に手を伸ばした。
取材によって得た情報は、前の主婦の話と比べて大きな違いはなかった。
内部は少し変わっているようで山の中を歩いたりもしたようだが、出てきたのは少女は一人で、人相から見ても夜乃が見た者とさして変わっていない。同一人物と考えて問題ないだろう。
動機も一緒だ。どうやらこの町は最初の犠牲者が出ていただけあって、早い段階から『神隠し』の噂が広まっていたらしい。最も『神隠し』の実害が出てから河西神社は立ち入り禁止になったようだが。被害者の数が少ないのもそういうわけだろう。
体験した感想もさして変わっていない。ただ一言、「怖かった」とだけ話していた。
実りがなかった訳ではない。ここまで「同じ」ということは、すなわち自分の予想が正しいということを示している。
だが、新しい情報が得られなかったことも事実だ。
まあそれに関しては、次で何とか…
と、そこまで続いた思考は突如起こった揺れによって途切れた。
「おい、そこは私の領域だろうが。呆けてんじゃねえよ。」
陽子が何かにキレている。下に目を移すと、自分の右手が向かいのトレーにまで伸びていることに気付いた。どうやら無意識にポテトをつまんでいるうちに陽子の分にまで手を伸ばしてしまったようだ。
「ごめんごめん。陽子の食い意地を忘れてた。」
「そういう話じゃねえだろ!」
反論する陽子の顔が薄らと赤みを帯びる。白はその問答があまりに面白かったのか、横で笑みを見せていた。
「そ…そんなことよりだ。」
分が悪いと見たのか陽子が話を変える。
「どうだ?夜乃。お前のことだから何か『神隠し』について掴んでんじゃねえのか?」
この言葉に驚いたのは夜乃の方であった。陽子のくせになかなか的を得たことを言うじゃないかと。
「何か今、心の中で馬鹿にされた気がするんだが?」
「気のせい気のせい。」
だが、ここまできて隠しておく必要もあるまい。むしろ白や陽子と情報を共有したいと思っていたところだ。
夜乃はポテトで乾いた口をジュースで潤してから声を発する。
「とりあえず、現時点で推測できるのは2つかな。」
「本当ですか⁉︎」
白が驚きと喜びの声を上げる。
「おお、流石だな。それで?何と何だ?」
そして続く陽子の言葉を受けて、夜乃は言葉を続けた。
「『神隠しの出現時期』と『その突入条件』かな。」
ー16ー
「まず、出現条件についてなんだけどね。河北神社における『神隠し』の被害日時を見て欲しいの。」
そう言って、夜乃は調査資料を机の上に広げる。
『河北神社
×2年 1/23 16:18 川野 悟(9)
1/30 7:05 川野 良子(35)
6/4 0:00 出光 夜乃(15)
河西神社
×0年 2/7 20:59 神野 由香里(6)
×1年 12/18 17:39 西木野 理恵(8)
河南神社
×2年 4/6 13:39 箱庭 幸子(15)』
「…別に。何か規則性があるようには見えねえけど。」
「私もそう思います。」
予想通りの返答が返ってくる。夜乃は二人に諭すように語りかけた。
「ヒントは川野親子の被害時期が7日おきってことなんだ。」
「えっと…それにどう関係が?………!!」
白は何かに気づいたように目を丸くする。
「なあ、周りくどい言い方せずにストレートに言ってくれよ。」
一方の陽子は最初から思考を放棄していた。
「はあ…まあ、陽子らしいけど。じゃあここにある情報を付け足すと…」
そう言って、夜乃はアンケートの横に立てかけてあったペンで紙に何かを付け足す。
「……へえ、なるほど。」
夜乃の書き跡を見て、陽子もようやく意味を理解したようだ。
『河北神社
×2年 1/23(木) 16:18 川野 悟(9)
1/30(木) 7:05 川野 良子(35)
6/4(木) 0:00 出光 夜乃(15)
河西神社
×0年 2/7(金) 20:59 神野 由香里(6)
×1年 12/18(金) 17:39 西木野 理恵(8)
河南神社
×2年 4/6(月) 13:39 箱庭 幸子(15)』
「と、まあこんな感じで。恐らく曜日ごとに各神社を周ってるんだろうね。」
日にちの横に曜日の欄を付け足して、夜乃は得意げにそう言った。
気づいたのは、最初の聞き込みの時にゴミ捨ての話題が出たからだ。あの地区のゴミの日は毎週月と木。自分も『神隠し』の日についでにゴミを捨てていたという記憶が、この結論を導いたのだ。
「…っていうことは、だ。木曜日に河北神社に行けば、『神隠し』に遭えるってことか?」
「うん、そういうことだね。」
多分、とは言わない。同一神社で同じ曜日に『神隠し』が起こっていること、そして隣の地区ではその翌日の金曜日に起きているという事実が夜乃に確信をもたらした。
「なんだ。じゃあもう終わりでいいな。」
陽子は笑いながらそう言う。確かに条件がそれだけなら、これで終わりになるだろう。だが、しかし……
「え?でも、待ってください。それなら数が少な過ぎませんか?」
案の定そこに白が待ったをかける。
「そんな緩い条件ならもっと被害者がいるはずです。6人だけというのは流石に…」
「少なすぎる…よね。」
そうだ。木曜日に河北神社にいた人なんて、3人だけの訳がない。依頼者の数え漏れというのもあるかもしれないが、それにしたってこの数は少なすぎるのだ。
そう、少なすぎる。だから…
「だから、ここに2つ目の『突入条件』が絡んでくるんだ。」
夜乃はそう白に切り返した。
「突入条件?」
白は疑問符を浮かべながら、夜乃に意図を尋ねる。
「そう。『神隠し』に入るためには、時期以外に入る人にも条件があるんだ。」
それに対し、夜乃はより噛み砕いた表現で答えた。
ここに辿り着いた発端は「『神隠し』に遭った人間がもう一度『神隠し』に遭うことはない」という少女の発言であった。もちろんそれ自体、「二度『神隠し』に遭うことはない」という事象自体が条件となっている可能性もある。だが、それだと自分は二度と『神隠し』に入れないということになる。よって、その推測は夜乃個人の希望的観測から始まった。
だが、取材を重ねていくごとに自分の憶測があながち間違いでもないということに夜乃は気づき始めた。そして、少女の性格もこの推測によく噛み合っていることにも。
「それでね、その条件っていうのが…」
続く言葉を白と陽子が固唾を飲んで見守っている。夜乃は彼女らに向かって語りかけるようにして言った。
「『神隠し』に入りたいって思ってることだと思うの。」
一瞬の静寂が場を支配する。
「……は?」
開口一番、あがったのは陽子の呆れ声だった。白も唖然とした表情で夜乃を見つめている。
「…えっと、分かり難かった?」
「いや。そういうわけじゃないんだ。これ以上なく分かりやすい答えだった。だが、そういう話しじゃないんだ。」
陽子は頭を抱えながらも言葉を続けた。
「それってつまり、『神隠し』は自分で入りたいと思ってる奴だけ入れてる…ってことか?」
陽子は困惑した表情でそう夜乃に問う。場はなおも静寂に包まれるが、その静寂は何事もなかったかのように周りの騒音に掻き消されていった。
結果、広がっていた緊張の波紋は逆再生されるかのように一点に収束し、夜乃達の囲むテーブルのみがその効果を享受する。
だが、夜乃はそのプレッシャーに真っ正面から言い放った。
「…うん、そうだよ。『神隠し』の主はとんだお人好しだ。」
「『そうだよ』じゃねえよ!」
陽子はたまらず声を荒げる。
「分かってんのか⁉︎相手は人間を別次元にワープさせられて、自分の好きなように世界を作れるような、いわば『神様』みてえな奴なんだぞ。それが、まるで人間に配慮するような都合の良い存在なわけ…」
「それでも、だよ。」
しかし、なおも夜乃は退かなかった。
夜乃の強情さに遂に陽子は口を閉ざす。傍目で見ていた白は場の緊迫感におろおろとするばかりであったが、しかし夜乃から一歩離れた位置に座っていた。
「ただ、確かな証拠がないのも事実ではあるんだ。」
その様子を見た夜乃は、歩み寄る態度を見せる。
「…はい。正直なところ私も夜乃の言うことが信じられません。」
白はそれに同意を返す。陽子も口は開かないが、こちらをチラチラと伺っていた。
2人の注目が向いている。ここぞとばかりに夜乃は言葉を繰り出した。
「だから、次の調査が今回の鍵なんだ。」
言うと同時に指される指。その先は広げられた調査資料の一点に向けられていた。
『河西神社
×0年 2/7(金) 20:59 神野 由香里(6)』
「これって…」
白が思わず声を漏らす。
夜乃は畳み掛けるように言葉を並べた。
「そう。最初に起こった『神隠し』の事件でなおかつ…」
「被害者が生還していない唯一の事件だ。」
その言葉に陽子は唖然とする。
白は予想していたのか驚きの表情こそ見せなかったが、その表情にはどこか緊迫したものが残されていた。
瞬間、風が吹き込んだ。
そして本は閉じられた。




