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4話-12 オカルト研究会の者です。

ー8ー


ピンポーンとチャイムの音が鳴る。少ししてからドアが開き、エプロンを着た女性が姿を現した。

「えっと…どちら様でしょうか?」

想定外の来客にそう尋ねる女性。

一方の夜乃は自然な…いや、むしろ自然すぎて逆に怪しい笑顔を見せながら言った。

「突然申し訳ありません。」


「私たち、開応高校オカルト研究会の者です。」


一切の躊躇なくそう言い切った夜乃。

その様子を後方で見ていた陽子は、呆れ顔で嘆息した。



ー9 少し前ー


「神隠しの調査?」

「そう、吸血鬼からのお願いでね。」

帰り道の途中、何の用かと尋ねてきた陽子に夜乃はそう答えた。

「やっぱり他人の見聞きだけじゃよく分かんないからさ。自分で確かめてみようかなって。」

「そんで寄り道って訳か。」

「そうそう。」

時刻は夕方の17時。以前なら夕日で空が赤く染まっていたものだが、6月になるとまだ明るいものである。住宅街ということもあってか、ご飯の香ばしい匂いが鼻腔をくすぐり、とうとう陽子の腹がぐーっと鳴いた。

「…しかし、初対面の人にそう簡単に『神隠し』のことなんて聞けるのか?なかなか話してくれないと思うんだが。」

そう言いながら、陽子は下腹部を手でなぞっている。腹が減ったから夜乃を帰らせようとしているのだろう。

だが、夜乃は退かなかった。

「その辺は安心してよ。ちゃんと考えてあるからさ。」

だから、陽子は後ろで待っててね、と言って夜乃はインターホンへと向かって行った。

どうやら知らないうちに目的地に着いていたらしい。陽子の視線はそのまま家の表札の方へと向いていった。


『川野』


おそらく河北神社で神隠しに遭遇した人なのだろう。

さて、夜乃はどう出るのか。陽子はその一挙手一投足を期待の目で見守っていた。 



…そして、すぐに期待したのを後悔した。


ー10ー


さて、場面戻って家の前。オカルト研究会と嘘の部活を名乗り出たは良いものの、嘘だとバレては意味がない。笑顔はうまく作れたはずだ。

バレるか?バレないか?

夜乃は心臓をバクバク言わせながら、女性の次の言葉に耳を傾けた。



「へえ、オカルト。それで?私に何の用かしら?」

そう言って、ニコニコと応対する女性。その表情に嘘がバレた様子はなかった。

夜乃は歓喜した。

…もちろん心の中で。

「あ、はい!実はこの辺りで『神隠し』が起きてるって噂を耳にしまして。その調査にご協力いただけたらと。」

そのまま夜乃はノンストップで『神隠し』の話題を切り出す。

良くそんなスラスラと嘘がつけるものだと、陽子は呆れを通り越してもはや感心していた。

「あら?『神隠し』を調査してるの?ならあなた達、運が良かったわね。私がその『神隠し』に遭遇したうちの1人よ。」

「え!本当ですか!いやー、今日はツイてるなあ。」

女性の言葉に、驚いた表情を見せる夜乃。

元々知ってたけどな!とは流石の陽子も口には出せない。

「じゃあ、ほんの少しだけお時間もらってよろしいですか?すぐ終わらせますので。」

「ええ。まだ夕御飯の支度をする前だったから、好きなだけどうぞ。」

その返事に、夜乃は即座にメモを用意する。

ここで一つでも多く謎のヒントを取ってやる。夜乃は熱意に燃えていた。


ー11ー


「まず神隠しについてですが、それに遭遇する以前から何か知っていたとかはありますか?」

「うーん、そうだねえ。実は息子の悟も私の1週間前に神隠しに遭っていてね。」

「え⁉︎息子さんまで!」

一応今の段階ではまだ知らない設定になっている。夜乃はきちんと驚いておくことを忘れなかった。

「そうそう、それで神社で『神隠し』に遭ったっていうからさ。私こう見えてオカルトってのに少し興味があってね。それで行ってみたら遭っちゃったわけ。」

「なるほど…。」

そそくさとメモを取る。

「息子さんも事前に知っていたとかは?」

「あーどうなんだろうね?でも噂は聞いてたみたいだよ。ほら、去年の河西神社で神隠しが起きたとか何とか。子どもの怪談話に最適だったんだろうね。あっという間に広がったんじゃないかな。

まあ大人はあんまり信じてないだろうけどね。」

河西神社の一件。確かに資料に書いてあった。思っていたより噂として広まってたみたいだ。

「ちなみに遭った時はどんな感じでしたか?」

「何とも言えないわね。ふわっと宙に浮いて、気づいたら全く違う世界にいたわ。あと、小さな少女に会ったわよ。」

「少女ですか。どんな様子で?」

「髪は黒髪で長かったかしら。和服を着ていたわ。赤くて長いの。息子も同じの見たって。」

一緒だ。『神隠し』ごとに違いはないのかもしれない。

「それで入ってみてどうでしたか?」

「どう…って聞かれてもねえ。まあでもやっぱり怖かったかしら。」

「怖い…ですか。少女が?」

「可愛い女の子だったんだけどね。やっぱり違う世界に引き摺り込まれたわけだから。化け物みたいに思っちゃうでしょ。」

この言葉に対して、『それもそうだ』と夜乃は思った。ある程度異形に慣れている夜乃でも怖かったのだ。異形を見たことのない人が『神隠し』に遭ったのなら怖くて当然だろう。


さて、ここまで質問に答えてもらったわけだが、夜乃はあまりその答えに満足していなかった。というのもどれも既出なのだ。

これに関しては同じ人間に質問しているわけだから当たり前なのだが、やはり新しい情報が欲しい。

夜乃は藁にもすがるような思いで質問した。

「他に気になった点とかは?」

「気になった点?そんなこと言われてもねえ…」

女性は頭を抱えて考えている。当然だ。こんな質問にうまく答えろという方が難しいだろう。授業で同じように聞かれても誰も手を上げないのと一緒だ。

仕方ない、最後の質問に移るか。そう思って夜乃が沈黙を破ろうとしたその時。

「あっ…。」

女性が何かを思い出したような声をあげた。

「何か思い出したんですか?」

思いがけない幸運に、夜乃も思わず前のめりになる。運良くヒットした魚だ。逃してはならない。

「いや、些細なことなんだけど。」

「構いません。何でも話してください。」

「そう?じゃあ話すけどね。実は…『神隠し』に遭う前になんだけど。一回あの神社に行ったことがあるのよ。」

来た。聞いたことのない情報だ。

「あの神社というと、河北神社にですか?」

「そうそう。確かあれは息子が『神隠し』に遭った翌日だったかしら。悟がえらく怖がってるもんだからさ、ちょっと行ってみたのよ。」

「そこで『神隠し』には。」

「ええ、遭わなかったわ。」

彼女はキッパリとそう言い切った。これは『神隠し』の発生条件に何か関係があるのかもしれない。

女性はなおも話を続ける。

「ただ、それでも私自身諦めきれなくてね。ゴミを出しに行くついでに、もう一回あの神社に行ってみたのよ。」

「その時に『神隠し』に遭ったと。」

「そうなの。」

見れば、女性の手が小刻みに震えている。未だにトラウマは消えていないのだろう。怖い思いをさせてしまっているようだ。

たが、得た情報は大きい。今の情報は間違いなく『神隠し』の仕組みを知る上で欠かせないものだったのだろう。

しかし、いまいち発生条件がつかめない。何かはあるはずなのだ。だが、それが何かは分からない。


すぐそこにあるはずなのだ。

何か…

共通点が……


………





「あ!」

その時、唐突に陽子が声をあげた。

「何か分かったの⁉︎」

夜乃が期待の眼差しで陽子を見つめる。

「え?あ、ごめん。全く関係ない話。」

「えぇ……」

だが、期待はすぐに失望に変わった。

「いやー、今日ゴミ出し頼まれてたんだけどさ。よく考えてみれば今日ってプラスチックゴミだったんだよな。間違って燃えるゴミ出しちまった。」

「あらまあ、燃えるゴミは木曜日なのに。でも、良くやっちゃうわよねえ。」

あははは、と笑い合う陽子と主婦。

人が悩んでる時に呑気に話しやがって、と夜乃は辟易した。

だが、言われてみればあの日も夜乃はゴミ出しに行っていた。

あの日とは自分が『神隠し』に遭った日だ。神社に行ったとき、ついでだと思って燃えるゴミを出しておいたのである。

あまり感心できることではないが、どうせ8時に出すのなら深夜のうちに出しても良いかと思って……




「あ、そっか。」

唐突に、今度は夜乃は声をあげた。

「え?何が?」

何事かと陽子が声をかける。

「いや、何でもない。」

だが、夜乃は素直に答えなかった。

そのまま女性に向かって一礼する。

「すみません、突然の訪問に時間とってもらって。おかげで良い記事が書けそうです。」

「あらそう?それなら良かったわ。」

女性は温和な対応でそう答えた。

「最後に一つだけ良いですか?」

「ええ、何?」

「『神隠し』に遭った時なんですけれど…」

夜乃はメモのページをめくってから、言葉を続けた。


「少女以外に誰か見かけませんでしたか?」


そのまま女性の返答に注意を払う。

「いいえ、特に見なかったわ。息子も、小さな女の子と会ったとしか。」

だが、返ってきた返事はさほど有益なものではなかった。

「そうですか。」

しかし、その答えに特に落胆することはなかった。河北神社での『神隠し』は、夜乃の体験したものと同じもののはずだ。その質問に夜乃もあまり期待してはいなかった。

「ごめんなさいねえ。あまり参考にならなかったでしょう?」

「いえいえ、十分です。」

そう言って夜乃はメモを閉じ、ニコッと笑顔を見せる。

「今日はご協力ありがとうございました。」

そして最後にまた深々と頭を下げ、夜乃はその場を後にした。


ー12ー


それからの帰り道。下校中の生徒もおらず人気(ひとけ)の少なくなった道の途上を陽子と夜乃は歩いていた。

「それで?何か分かったのか?」

陽子はそう尋ねる。

「まあ、ある程度ね。」

夜乃は上機嫌にそう答えた。

「おお!流石だな。それで?何が分かったんだ?」

「…言わない。まだ確証を得てないし、それに…」

夜乃は皮肉な笑みを浮かべた。


「陽子じゃ理解できないでしょ。」


「あ!言ったな、お前!」

陽子が夜乃の頭をわしゃわしゃとかき乱す。

「あ!ちょ、待っ!!」

夜乃は抵抗しようとするが、陽子の力になす術なくされるがままになっていた。




今日の取材では重要な証拠を得られた。

この手法に間違いはない。

明日は土曜日だ。休みを使えば、遠くの方まで行けるだろう。


「待っててね。もうすぐ会いに行くから。」

やられたままの態勢で夜乃はそう呟く。

その声は誰に聞かれるわけでもなく、風に乗って何処かへ運ばれていった。




空で星が瞬いた。

伏線散りばめるのってかなり難しい(小並感)。辻褄が合わなくなって修正する場合はTwitterで報告しますので、そちらもご覧ください。

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