4話-11 ちょっと寄り道していい?
1ヶ月経っても、事件の概要すら触れられなかった推理編があるらしい。
ー6 翌日ー
夕方の教室、ホームルームに教壇から先生が何やら話をしている一方で、夜乃は机の上で頬杖をつきながら、紙とにらめっこしていた。
にらめっこの相手は先日吸血鬼に渡された「事前捜査資料」だ。
その中身は彼女の想像以上に子細に及んでいた。過去に起きたと思われる神隠しの発生場所と時刻、それぞれの被害者の名前と住所、聞き込みのデータまでもが事細かに書かれている。依頼者は自分に似て、細かい性格なのかもしれない。そう思うと自然と笑みが溢れた。
だが、事態はそこまで楽観視できない。夜乃は顔を引き締めてから、「神隠し」の発生場所のページをめくった。
『過去の類似事例は全部で6件。そのどれもが神社の境内で起こっている。しかし、全てが同じ神社で起きているわけではない。
河北神社
×2年 1/23 16:18 川野 悟(9)
1/30 7:05 川野 良子(35)
(6/4 0:00 出光 夜乃(15))
河西神社
×0年 2/7 20:59 神野 由香里(6)
×1年 12/18 17:39 西木野 理恵(8)
河南神社
×2年 4/6 13:39 箱庭 幸子(15)』
夜乃が遭った河北神社で起きたのは自分を含めて3件。隣の河西神社で2件。少し離れた河南神社で1件。時刻もバラバラで昼の時もあれば夜の時もある。日付に規則性もない。
被害者の年齢は割と若い子が目立つが、主婦が1人被害に遭っていることから小さい子のみという訳でもないようだ。
そこまで確認して、夜乃は次のページをめくる。
そこにはそれぞれの事件の詳細が書かれていた。
『全ての事件に共通しているのは、目撃者がいないということだ。特に日中に起きた事件では、友人が近くで一緒に遊んでいたそうだが、被害者が「神隠し」に遭ったことに全く気づかなかったらしい。』
やっぱりか、と夜乃は内心舌打ちした。恐らくどの事件でも、現実世界ではそこまで時間が経っていないのだろう。「神隠し」に遭った人はもれなく入ってすぐに現実へと帰ってくる。これでは周囲で噂になる程度で失踪事件に発展することはない。
一から捜査していたら全く被害者を見つけられていなかっただろう。改めて、事前に調査してくれた依頼人に夜乃は感謝した。
そうして次のページへ進もうかと、ページの端に手を伸ばして…
すんでのところでその手を止めた。
夜乃はその寸前に目に飛び込んできたテキストに目を移す。
『だが、ひとつだけ他と異なる事件が存在する。
それは河西神社で発生した最初の事件だ。この事件は他の事件と比べて時期が離れているだけではない。』
そして、その続く文に夜乃は強い衝撃を覚えた。
『この事件のみ被害者は行方不明である。』
ー7ー
キーンコーンカーンコーンと終業のチャイムが鳴り響く。一通り全てのページに目を通した夜乃は、紙の束を机に置いてぐーっと背筋を伸ばした。
結局有力そうな情報は最初の数ページほどであった。後は依頼人なりに事件の推理をしていたようだが、実際に体験していないせいか、さほど的を射ているようには感じられなかった。とくに最後のページの周辺7つの神社マップからは、依頼人の推理の手詰まり感がこれ以上なく伝わってきた。中央の本殿を囲むようにして並ぶ6つの神社という構図はその手の人から見れば珍しいのかもしれないが、生憎夜乃はその手の人でもなければ、それに興味を持つような人でもなかった。
事前捜査資料はあくまで他人のとったノートなのだ。概要を知るだけなら役に立つが、それ以上は自分の手でやるしかない。
さて、どうしたものか。そう夜乃が悩んでいると、背中をトントンと叩く何かに気付いた。
なんだろうと後ろを振り向く。
……頬に指が突き刺さった。
「やーい、引っかかったー。」
後ろで陽子がニヤニヤとこちらを見て笑っている。夜乃は物言いたげな目で陽子を見つめた。
「おいおい、そんなに怒んなって。ちょっとした悪戯じゃねえかよ。」
「別に…怒ってないし。」
わざと頬を膨らませる。
それを見た陽子は困った表情で頭を掻き、
「…ああ、分かったよ!帰りになんか奢ってやるから機嫌戻せって!」
嘆息しながらそういった。
すると、周りで騒いでいたギャラリーがわらわらとこちらに集まってきた。
「あ!委員長とヤンキーが買い食いの相談してる。」
「普段校則にうるさいくせに、ずるいんだー。」
やいのやいのと笑いながら野次を飛ばしてくる。
「うるせえ!先公にチクったらぶん殴るぞ。」
そう叫んで陽子が手を上げると、彼らはキャッキャキャッキャと笑みを浮かべながら散り散りにその場を離れていった。
入学当初の仲違いから、仲直りして早1ヶ月。最初は恐怖の対象だった陽子も、だんだんとクラスに馴染んできたようだ。
そして陽子自身、ピリピリしていた最初の頃とは違って、今では柔和なオーラを纏っている。
これならいけるかもしれない…
「……ボディーガードも必要だしね。」
夜乃はポツリと呟いた。
「ん?なんか言ったか?」
「ううん、何でもない。」
陽子の問いを、うまくはぐらかす。
だが帰り支度を終えたぐらいで、夜乃は話を切り出した。
「ところで、陽子。ものは相談なんだけどさ。」
「…ハーゲンダッツはなしだぞ。」
「そんなに食い意地はってないって!」
どうだかなあ、とため息をつく陽子。
夜乃は明らかな挑発を無視して話を進めた。
「帰り道なんだけどさ。」
「ちょっと寄り道していい?」
「……?」
質問の意図がつかめず、陽子は首を傾げた。
ちなみに陽子さんの以前の様子は1話-3で見られます。…思った以上に続いてるなあって笑




