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4話-9 微睡の後で

ー2ー


ここはどこだろうか。黄土色の景色が上にも下にも広がっている。「神隠し」にまた遭ったのだろうか。

いや。でも、どこか違う。理由はないが、夜乃はそう感じた。

「君は夜乃かい?」

何処からか声が聞こえる。何故か懐かしさを覚えるような声だ。

「はい…。」

私は素直にそう答えた。

「そうか。じゃあ、「神隠し」について覚えているかな?」

「はい…。」

「そこで出会った少女に何かされたかい?」

「…いいえ。」

「精神的には?」

「全く…。」

声の質問に、私は淡々と答えていた。口を動かしている感覚はない。勝手に体が動いているようだ。

「じゃあ、なぜ君はそこまで「神隠し」に執着しているんだい?」

だが、その質問を機に何かが変わった。

「それは…」

体がゆっくりと目を覚ます。

瞼の裏に、少女の寂しそうな顔が浮かんだ。


「彼女が寂しそうだったから。」

だから、あの表情を見て、私が助けなければいけないと思った。

「なるほど。」

声もその返答に一部納得したらしい。

「でも、それは君じゃなくても良いんじゃないのかい?」

しかし、声は続けてそう尋ねた。

確かにそうかもしれない。

私じゃなくても、誰かが助けてくれるかもしれない。

でも…

「…みんながそう思ってしまったせいで、あの子はあそこに取り残されてしまいました。私も…その1人です。」

そうだ。そのせいで、私は少女を悲しませた。

だから、だからこそ…

「私は…」


「私はあの子を助けたい!」


言葉に気迫がこもった。微睡(まどろみ)の中で、体に力が戻った。

「…そっか、分かった。」

一方で、声は呆れたように、ただ何処か安心したようにそう言った。それと同時に体がゆっくりと浮き上がっていく。

夜乃は既視感を覚えた。

「この感覚…何処かで…」

何か思い出しそうな気がする。

だが、確信を得る前に声は言った。

「じゃあ戻っておいで。君の勇気を形にして見せてくれよ、夜乃。」

その声と共に、体は何かに引き寄せられるように上へと昇っていった。


そこで夜乃は気づいた。なぜこの声に懐かしさを覚えたのか。既視感の正体。



そうだ。この声は…この感覚は……。






ー3ー


「………はっ!」

唐突に意識が戻った。それと同時に膝が折れる。

「夜乃っ!」

白は即座に横に駆け寄った。だが、触れている手が小刻みに震えているのを、夜乃は確かに感じていた。


そして、白の様子を見て、夜乃は既視感の正体に確信がついた。

視線を前へと向ける。

吸血鬼は笑っていた。

「先生…」

夜乃はただ一言、そう呟いた。

既視感の正体。それは吸血鬼との最初の出会いで、一度死んだ時のことだ。あの時、夜乃は自分の体に引き寄せられて目が覚めたのである。


今回、自分が襲われた感覚は当時のものに似ている。

つまり、今さっき私を襲った微睡の仕掛け人は、吸血鬼だ。白が彼女に怯えているのを見て、推測は確信へと変わった。

では、なぜ彼女はこんなことをしたのだろうか。依頼の内容は私が触れてはいけないものだったのか。

夜は一層更けこんでいく。

「夜乃…」

吸血鬼が口を開いた。



「全く心配させないでくれよ。君が洗脳されたのかと心配しちゃったじゃないか。」



「……はい?」

思わず、素っ頓狂な声が出てしまった。

吸血鬼は笑いながら、話を続ける。

「いや、だって夜乃が唐突に依頼の内容に触れてくるんだぜ。『神隠し』で何かあったんじゃないかって思うじゃないか。」

彼女の顔に怒りの表情は見受けられない。どうやら、今言っていることは本当のようだ。

「え?…ですが、夜乃は突然、意識を失ったみたいに棒立ちして…てっきり吸血鬼を怒らせたのかと。」

白が反論する。

だが、吸血鬼は特に詰まることもなくケロっとした顔で言った。

「おいおい、何で僕が夜乃に怒らなくちゃならないのさ。僕が催眠を施したのは別に苛ついてたからじゃないぜ。単にこうした方が早かったからさ。それに…」

そして、彼女はさも当然かのようにこう言い放った。


「洗脳されてたら、僕が上書きしちゃえば良いだけだからね。」

「そんな訳あるかああああああああ!!」


夜乃の叫び声が夜の森に響き渡る。

吸血鬼は遅ればせながら、自分が夜乃の逆鱗に触れたことを悟った。

咄嗟に助けを求めて、白に目配せする。

しかし、これから夜乃による人間的常識についての熱血指導が始まることは想像に難くなく、メラメラと燃え盛る火の手がこちらに飛び火する前に白はこっそりと部屋を後にした。


推理は何処に?

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