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4話-8 神の随意に 推理編

ここから推理編に入ります。

ー1ー


森の館。吸血鬼の住む屋敷。その部屋の一角で、ペラペラと紙をめくる音が、1人孤独に響いていた。

「ふむ…なるほど…。やはり「神隠し」は実在していたみたいだね。」

報告書に目を通しながら、吸血鬼は静かにそう言った。


あの後、夜乃はあの場で起きたことを紙に書き、書類にして纏めていた。当然、「神隠し」で出会った少女のこともだ。


それから暫くして、トンという小気味良い音を合図に、吸血鬼が顔を起こした。

「うん、ご苦労様。僕の想像以上の結果だよ。やはり君達に任せて正解だったね。夜乃、白。」

そう言って彼女は、優しく夜乃達に微笑みかける。それは喜びの笑みであり、かつ安堵の笑みだったのだろう。まだ経験の浅い2人に仕事を任せるというのは、たとえ吸血鬼であっても心配するものなのだ。

だが一方で夜乃と白は、彼女の労いの言葉に笑顔を見せることはなかった。

「ん?どうしたんだい?依頼は終わったんだぜ。緊張することなんてないだろう?」

彼女は、夜乃達にそう尋ねる。

「ええ、そうですね。」

夜乃はその言葉に、ひとまず肯定の意を返す。

「そうだろう。だからもっと気楽に…」

だが、吸血鬼が返しの言葉を言い切る前に、夜乃がそれを遮った。

「これで…」


「本当に依頼が終わったのなら、です。」


瞬間、辺りに緊張が走った。吸血鬼の目つきが変わる。静かだった部屋は、唾を飲む音が響くほどにより一層静まりかえった。

「よ…夜乃…。」

白は心配そうに夜乃に語りかける。

だが、夜乃は白に答えることなく、吸血鬼に向かって言葉を続けた。

「どこの誰かは知りませんが、『始祖』と呼ばれた吸血鬼に依頼を頼んでおいて、その内容が「神隠し」が実在するかどうかだなんて…そんなことあるんでしょうか?」

夜乃はあえて強気に、高圧的な言葉を選んだ。

「へえ…何が言いたいんだい?」

返しの言葉は、先ほどと比べて声のトーンが下がっている。それを聞いた白は、横でわなわなと震えだしていた。時節チラチラと夜乃の様子を伺っている。

もちろん、夜乃とて全く何も感じないわけではない。蛇に睨まれたカエルなんて優しい代物ではない。獅子に睨まれた兎だ。圧倒的強者から脅しの利いた声をかけられて、恐怖を感じない生き物などいない。

今立っている地面が崩れるような錯覚がする。身体中の汗がねっとりと体を蝕んでいる。息は今にも途切れそうだ。


だが、それでも。今の夜乃にはそれを耐えられる勇気がある。耐える必要がある。耐えねばならない理由がある。

緊張を相手に感じさせてはいけない。自分の有利を維持しなければ、ただでさえ不利な状況で勝つことはできない。故に、自分にボロが出る前に畳みかけねばならないのだ。

夜乃は今にも閉じそうな口を強引に開いた。


「本当の依頼は、「神隠し」の『消失』ではないんですか?」


切った。これがこちらの切り札だ。

何を隠しているのかも分からない。そんな状況で出した、推測の域を出ない答えだ。

「神隠し」の実在を確かめるなんて、自分のような高校生にだって可能なことだ。それを、吸血鬼の最高峰にいる『始祖』に頼むだろうか。それも『始祖』に頼めるほどのコネクションを持つ人物が、である。『始祖』以外の誰か、それこそ狼男のような人間に協力的な異形に頼めば良いはずなのだ。わざわざ『始祖』に依頼する意味などない。

ならば、何を『始祖』に依頼するか。それは彼女の能力を見れば分かる。絶対に死ぬことがなく、同じ吸血鬼を難なく殺せるほどの強大な力の持ち主。そんな彼女に頼むことなど、恐らく一つしかない。


「神隠し」の『消失』。

それが夜乃の出した答えだった。

当然、完璧ではない。安全を期した結果かもしれないし、近所のママさん達の噂話にひょいと興味を持ったかもしれない。

でも、だからこそ…


夜乃は吸血鬼の表情に注目した。


表情の些細な変化は、その人の心の内を表す大きな証左だ。自分の答えが彼女の図星をつけたかどうか、夜乃は彼女の表情を確認する。



目と目があった。




そして、





それを最後に、












全てが止まった。


















Game over……?

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