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4話-5 やっぱり…あった。

空は薄らと黒く、夜への移り変わりを始めていた。少女の心象風景を映し出しているのだろうか。それと同時に夜乃は、ある仮説に辿り着いた。

だが、それを口にすることはなかった。

「どうしてそう思ったの?」

夜乃はなるべく優しい口調で、少女に話しかける。

少女は服の裾を掴み、俯きながら口を開いた。

「み、みんな…そうでした。どんなに楽しそうにしてても、結局は怖がって、か、帰ろうとするんです。」

その言葉を聞いて、夜乃は少女の言葉の意味を理解した。

きっとここには自分以外にも様々な人がやって来たのだろう。それが偶然神隠しに巻き込まれたのかどうかは分からないが、とにかく彼らは皆一様にこの現象の奇妙さに恐怖を抱いて去っていったのだ。

「お、お姉さんは、いつもの人達とは違うからって、か、勝手に思い込んで…でも、きっとお姉さんも一緒で、か、帰りたいんじゃ、な、ないかなって…」

ならば少女は神隠しにあまり恐怖を抱かない自分に、何かしら希望を抱いていたのではないか。夜乃なら自分を置いて去ることはないと考えていたのではないか。少女は過去の人々のことを忘れ、一際の安心感に浸っていたのではないか。

だが、「ここに誰か来たのか」というセリフによって、少女は現実へと引き戻された。

日は隠れ、夜の闇が辺りを覆った。


「でも…もう『終わり』なんですね。」

底冷えする程の冷たい声だった。今までの声とは全く違う、相手に恐怖を抱かせるための…


魔の声だった。


少女はゆっくりと、手を前へ突き出す。


視線が夜乃の体を捉えた。


体が硬直して動かない。


夜が更に深みを増す。


額から汗が滲む。


心臓が高鳴る。





そして、少女は私を指差した。

それが何を意味するのかは分からない。ただ自分の中の「理性」だけは全力で逃げろと叫んでいた。


だが、


それでも…


……


………






それでも、夜乃は目を背けなかった。




一方の少女は指を指したままこちらを見つめ、


微かに笑みを見せた。


「……やっぱり…あった。」


その声は先ほどと違い、いつもの優しい声で、その声と共に夜乃の体の硬直はまるで最初から無かったかのように、一切の痕跡を残さず消え失せた。

少女は精一杯の笑顔で、だが隠しきれない悲しみを滲ませながらこちらを見ていた。

夜乃はその目を見て、

そのどこか諦観した態度を見て、


そっと後ろを振り返った。


そして少女が指さしていたものを認識し、そのあまりのスケールに言葉を失った。

「な……何…これ…?」

あったのは黒い穴だった。それもただの穴ではない。人一人がすっぽり入るほどの、ブラックホールのような穴が空中に浮かんでいたのだ。

「出口、だと…思います。」

「これが…出口?」

「はい。ここに来た人は、みんな…そこを通って行きました、から…。」

少女の声のトーンは次第に低くなる。

だが、夜乃はその様子を見てはいなかった。

彼女の目はただ一点、


出口と呼ばれた大きな穴だけに注目していた。


右手がゆっくりと穴の方に伸びていく。

意識してのことではない。ただブラックホールに吸い込まれるように、吸引力など皆無な穴に向けてゆっくりと右手が吸い込まれていくのだ。

おそらくは一種の防衛本能が働いているのだろう。

一刻も早くここを離れたいと願う心の奥底の感情がこの腕を突き動かしているのだ。

そして、それを夜乃の自身もそれを止めようとはしなかった。

そうしてゆっくりゆっくりと右手の先端は穴の方へと伸びて行き、やがて穴の表面に触れようとしたところで、


後ろから声が聞こえた。


「…さようなら、お姉さん。」


それはあまりにか細く、風が吹けば折れてしまいそうな声で、


「お元気で。」


夜乃を正気に戻すには十分なものであった。

次で終わりじゃなかったかって?…記憶にございません。

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