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4話-3 絵巻物の世界

そこには風なんてものはなかった。生命の息吹はなく、ただ歴史の詰まった古めかしさだけが地平線の彼方まで飽きることなく広がっていた。どこまでも殺風景が広がっていた。景色は死んでいた。

故に夜乃が感じた違和感は一層大きかった。このような殺風景な場所に、なぜ命の象徴ともいうべき若さが存在するのか。

夜乃の視線は自然と前を先立って歩く小さな少女の方へと向けられる。童と呼ぶべきほどの幼さ。おどおどした言動と、時節隠れる場所を探すような動作がその幼さをより一層際立たせていた。

やはり疑問が浮き出てやまない。

なぜ彼女がこんな場所にいるのだろうか。


すると、後ろからの訝しむ目線を感じたのか、少女がこちらを振り返って言った。

「あ、あの…もしかして歩き疲れました、か?」

「ん?あ…いや、大丈夫。まだ歩けるから。」

「そう…ですか。も、もう少しで着くと思うので…その…頑張ってください。」

そう言ってキュッと胸の前に拳を作り、私を勇気づけるような仕草をしてから、また前を向いて歩を進めた。

彼女の表情は実に豊かだ。

時に怖々として、時にパッと明るくなる。

見慣れぬ相手に人見知りしながらも、久しぶりの来客に心明るくなるような心境だろうか。


しかし、どういうことだろう。歩けど歩けど人は来ず、建物も見えず、同じ景色だけが永遠と続いている。かれこれ2,30分は歩いているが、一切何かがある気配もない。

だが、目の前の少女は明確に何処かを目指して歩いている。この紙に貼り付けられたような風景の先に、何か変化があるというのだろうか。

夜乃は注意深く少女の表情に注意を向けた。

果たして、成果はすぐに現れた。少女はパッと顔を明るくすると、足を止めてこちらに微笑みかけた。

「あ!つ、着きましたよ!」

「へ?」

唐突なことに、素っ頓狂な声が出た。

変化の予兆もなかった。水平線を見渡しても、何一つ建物らしきものはなかったはずだ。

それがどういうことだ。


目の前に突如として小綺麗な一軒家が現れた。そう、突然出現した。そう表す以外に方法がなかった。


「あはは…まさに絵巻物の世界だなあ。」

あまりの驚きに、つい思ったことをそのまま口走ってしまう。小気味よく家へと向かっていた少女がその言葉に反応する。

「え?な、何か言いましたか?」

「ん?ううん。何でもない。」

「そ、そうですか?なら良いんですが…あっ、どうぞ、中へ入ってください。」

そう言って、少女は特に先ほどの言葉を気にすることなく中へと吸い込まれるように入っていった。


さて、絵巻物そのままの世界と称したが、異形としてその名の通り絵巻物の中には入り込んでいたとするならば、

この段階は物語でいう序章に過ぎないのだろう。


この物語の結末がハッピーエンドかバッドエンドかも分からぬまま、夜乃は物語の進行に身を任せねばならない。普通なら一早く脱出方法を考えねばならないところだ。


だが、こんな状況になっても夜乃はどこか危機感を覚えられずにいた。原因はこの絵巻物の主人公と思われる少女だ。彼女ののほほんとした様子に恐怖という感情はなぜか遠い幻想のようなものに思えてくる。


夜乃は直前、吸血鬼と話した内容を思い出していた。

『自分の見たものを信じなさい。』

彼女の言葉が強く頭に残っていた。

「…これで良いんですよね、先生。」

誰もいない地平線へと語りかける。返事は期待していなかった。


それから、夜乃もまた少女の跡を追うように開いたドアの中へと吸い込まれていった。


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