3話-10 西の果てにて
「そうか…ハイデルが死んだか…。」
男は椅子に腰掛けながら、落胆の息をついた。
対極の位置にいる兵士は、膝をつきながら報告を続ける。
「はい。例の狼男との交戦に敗れ、死を偽装して潜伏したものの、援軍要請を送ったところで始祖に勘づかれて、そのまま自害した模様です。」
男はその報告に暫し目と口を閉ざしたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「亡骸は回収できるか?」
「…駐在員がその数十倍の亡骸を積み上げれば何とか。」
「ならば要らん。無理に回収しようとするなと伝えておけ。」
「はっ!」
そう言って、兵士はその場を立ち去った。
「……敵の戦力を読み違えたか。」
一方で、残された男は誰もいない部屋で物思いにふけった。
見積もりが甘かった。
始祖の目を掻い潜ろうとするあまり、戦力を小さくしすぎたのだ。
「我もまだまだ甘いな。」
男は自らを嘲るように笑った。
そして、そのまま徐ろに席をたち、壁に埋め込まれた石碑の前に立つと、そのまま指で石を削るように文字を書きなぐった。
『Hidel ハイデル』
死者の名前。
書かれているのはそれだけではない。
その周りに刻まれた無数の文字。
自分のために死んでいった者達。
それらを前に再び決意を固めるため、男は宣誓する形で彼らとの誓いを語った。
「今日、ついに幹部に死者が出た。我が詰めを誤ったせいだ。」
「だが、我は諸君の…いや、諸君らの死を無駄にはしない。」
「我は誓おう。」
「ここに我々のユートピア、完全に独立した『国』を作る。何者にも虐げられることのない『世界』を実現する。諸君らの屍の上に立つこの『国』は、諸君らが守ろうとした『人々』の恒久的な安全を保障する。」
西の果てに生まれた壮大な野望。
それを抱いた男とその光に身を寄せた者。
男の目には、確かに同じ夢を持った仲間の姿が映っていた。
「…故に、その日が来ることをどうか陰から見守っていてくれ、我が同志達よ。」
彼の名前はロード。
最強たる吸血鬼の王にして、
やがて人類史を大きく揺るがすことになる王国の建国者である。
次回で3話は終わりです。
…マジで長かった。




