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3話-8 I stand by you

良い曲や思いますね。「ノーダウト」や「イエスタデイ」と同じくらい好き。

ー1ー


連れてこられたのは、町の郊外にある森の入り口だった。

そこは商業施設どころか住宅もなく、月に1度役人が来る以外には人気(ひとけ)一つないような場所だ。ここに何があるというのか。

陽子は睨むように目を細め、彼に説明を求めた。

「あー…言いたいことは分かるが、少し待ってろ。」

彼はそう言って、森の奥を見つめると、突然大声で叫び始めた。


「おーい、始祖!話があるんだ!こっちへ来てくれ!」


声は木霊のように奥へと響いていく。

だが、何処かで誰かが聞いているような様子はない。

そもそも人気がないのだ。

「なあ、おい。そろそろ教えてくれよ。ここに何があるって…」

とうとう堪えきれず彼女が彼を問い詰めたその時、


突如、背中に悪寒が走った。

すぐさま後ろを振り向く。

すると何もなかった、何もいなかったはずの森の中から、


何処からともなく矢が飛んできた。

「な!?」

陽子は思わず声を上げる。

動揺のあまり、何か行動を起こすことができない。

彼女1人だったなら、そこで終わっていただろう。

しかし、この場にはもう1人いる。

一方の彼はその矢を冷静に目で追いかけて、


涼しい顔でキャッチした。

そして、彼はその矢を見せびらかすように二つに折り、矢が飛んできた方へ向け声を張り上げた。


「おーい!挨拶はいいからさ!とっとと降りてこいよ!」


挑発混じりに彼がそう言う。

すると、その言葉に反応してか、一人の女性が木から降りてきた。

「…何のようだ、狼。」

まるでこの世のものではないような美しさだ。

女はこちらには目もくれず、ただ彼を睨みつけている。

「言っておくが、以前のままの私だと思うなよ。」

そう言って女は短剣に持ち直しながら、


「今度は森の仲間も夜乃もまとめて守ってみせる。」


そう彼に向かって宣言した。

女なりの気合いの入れ方だったのだろう。

だが、陽子には女のとあるワードだけが頭に残った。


「え?待って。今『夜乃』って…」


夜乃というのは特徴的な名前だ。

同一人物がいるとは考えにくい。

しかし、目の前の女と何か関係があるとはもっと考えにくい。

そして、陽子は女を問いただそうとして、


「白!今、狼男が現れたって聞いたんだけど…」


横の茂みから突然現れた乱入者に言葉を失った。

相手もこちらを見て唖然としている。

先に言葉を発したのは、相手の方だった。

「…陽子?」

「…夜乃こそ、何でこんなところに。」

そう言いながらも陽子はゆっくりと後ろへ退いていた。

顔がひきつる。何て声をかけるべきか分からない。

「ねえ、陽子。私さ…」

そこから先の言葉は聞こえなかった。

その続きを聞くより前に、


陽子はその場を逃げ出した。


ー2ー


「待って!待ってよ、陽子!」

後ろで夜乃が喚くのが聞こえる。

しかし、聞こえていないふりをした。

怖かった。私が夜乃を傷つけた。

何を言っても夜乃を傷つけるだけだ。

今は、今だけは、何を言っても…


「そうやって逃げんのか?」


そんな言葉と共に、彼女を襲った浮遊感。

彼に襟を掴まれた。

「さっきと言ってたことが違うじゃねえか。逃げねえんじゃなかったのかよ。」

視線が突き刺さる。

「それとこれとは話が…」

「違わねえよ。」

陽子の言い訳を彼は遮った。

どうあっても自分をここから逃さないつもりらしい。

だが、彼の前でそう啖呵を切ったのも事実だ。

今日で全部終わらせる。

改めて、その言葉に意味を吟味して、


彼女は後ろを振り向いた。

彼らが話し合っている間に、夜乃はこちらへ追いついていた。


ー3ー


「夜乃…」

夜乃を見ても、陽子はそれ以上に言葉を重ねられなかった。

自分は酷く怯えた表情をしていたのだろう。

咄嗟に顔を見せないように俯く。

夜乃は何を言うべきか迷いながらも、何とか言葉を絞り出した。


「…ごめんね。私が弱いから、陽子を傷つけたんでしょ。」


何故、そんな言葉が出るのか。

どうして陽子が悪いと責めないのか。

どこまで自分を卑下するのか。

「何が悪かったか話してよ。私、頑張って直すから…」

未だにそんなことを言っている。

どれほど心細かったのだろう。今にも泣きそうな顔で、懇願するように話しかける夜乃を見て、

陽子は苛立った。

これ程までに夜乃を傷つけた、


自分に苛立った。


「違う…違うんだよ。お前が悪いんじゃないんだ。」

夜乃に甘えていた自分を戒めるように、一言一句はっきりと言葉を紡ぐ。


「悪いのは私の方だ。」


曖昧にしてはならない。

全て話そう。

陽子はそう決意した。



ー4ー


夜乃は何も言わなかった。

何を言っているのか問いただすことも、

自分の意見を貫くこともせず、

陽子の次の言葉に耳を傾けた。


一方の陽子は未だ俯いたまま、話を続けた。

「夜乃さ、医者を目指してるんだよな。」

「え?あ、うん。」

突然の質問に、夜乃が動揺する。

「昔、聞いたときは漠然としか分からなかったけどさ。高校に入ってからは、そうもいかねえだろ。医学部に入らなきゃなんねえもんな。」

「ああ、まあそうだね。」

本人には耳が痛い話なのだろう。

何とか話を流そうとする夜乃に、少し苦笑した。

「それでさ、この前、職員室に入った時に教師の会話を小耳に挟んだんだよ。」

「…?」

夜乃は首を傾げる。

陽子は話を続ける。

「なあ…」


「私といると、内申が下がるんじゃないか。」


今まで考えたこともなかった。

入試形式には推薦と呼ばれるものがある。

そこで重要視されるのが、普段の授業態度などを評価した内申点だ。

優等生で成績もいい夜乃なら、高い点数を維持できるだろうが、その印象を不良の私が阻害しているのではないか。

「優等生でも、不良とつるんでるんじゃあねえ。」

そんな言葉が頭の中を反芻した。


一方の夜乃は、意外な展開に驚きながらも、しかし明確に反論した。

「それは…そうだけど。でも、それは陽子のせいじゃないよ。悪いのは陽子じゃない。」

そう励ますように語りかける。

だが、違う。

やはりこれは私が悪いのだ。

しかし、


この続きを話すべきなのか。

ここまで来て、全て話すと決意までして、

陽子の心に迷いが生じた。

それ故にか、


彼女は無意識に横を振り向いた。


彼は何も言わなかった。


ただ静かに微笑んでいた。


そして私は、





その笑みに背中を押された気がして、





思い切って口を開いた。




「怖かったんだ!」




ー5ー


悲鳴のような叫びが、夜乃から言葉を奪った。

春風が止んだ。

木々が動きを止めた。


「…怖かったんだ。」


彼女の声だけが場を包んだ。

「今はまだ親友でいられるかもしれない。でも…」

夜乃には夢がある。

その夢へ向かう明確なビジョンもある。

だから、それ故に…

「いつか推薦入試の話を持ちかけられた時、夜乃がどうするのか私には分からなかった。その時、私は捨てられるかもって。」

陽子は友達が少ない訳ではない。

小・中を通して様々な出会いを経験し、その分だけ別れを経験してきた。

しかし、そんな彼女にも自分の片腕を任せられる親友は多くない。

そんな親友が自分から離れていく。

それがどれほどの衝撃か、陽子には考えもつかなかった。

だから怖かった。


「だから、逃げた。」


「どうせ、いつかは別れるんなら、そうなる前に別れようって。そうすれば幾分か楽になるだろうって。」

そうやって、適当な奴らとつるんで、

夜乃と距離を置いて、

それで救われると思い込んだ。

そう勘違いした。

親友に代替するものはないというのに。

「でも、だんだん沈んでいく夜乃を見て、何か間違っているって気づいた。でも、何が間違いかは分からなかった。」

頭脳は昔から夜乃に任せていた。

それを突然、全部自分でやろうとして、

空回って転んだ。

「そして、とうとう休学しちまった。」

その時になって、ようやく自分がつるんで奴らが、夜乃に度を越した制裁を加えていたと知った。

怒りに身を震わせたが、手を上げてもどうしようもないと知った。


私はいつから間違ってたのか。

「私は…」


…どうするべきだったのか。


そう言おうとして、


開いた口は、




横からの強い衝撃に潰された。





ー6ー


最初、何が起きたか分からなかった。

分からないままに、腫れた頬を指でなぞる。

そして、そのほのかな温かみに、

自分が殴られたのだと知って、


陽子は前を向いた。


「ふざけないでよ!」

罵声は上からとんできた。

夜乃だった。

目は赤く滲んでいた。

右手が赤く染まっていた。

「一人で考えたってどうしようもないじゃん!陽子、馬鹿なんだから!」

「いや、馬鹿って…」

「馬鹿だよ!!」

勢いのままに襟首を掴まれる。

親友の見たこともない態度に、陽子はされるがままに茫然としていた。

「大体、陽子が何か考えたことなんてないでしょ!テスト勉強も喧嘩の作戦も、私が考えて立案してたじゃん!」

「それは…そうだけど。」

「推薦入試?要らないよ!その分、勉強するもん!陽子はそんなこと考えなくて良いの!そんな下らないことで…」


「そんなつまんないことで、私から親友を奪らないでよ!!」


そして夜乃は、そのまま体を預けて倒れ込んだ。

涙で力が緩んだのか、掴んでいた手はするっと襟から落ちた。

大の字で下敷きになった陽子は、上で泣きじゃくる夜乃を見て、


そっと胸に抱きかかえた。


「…ごめんな、夜乃。」

「うん。」

夜乃は胸に顔を埋めながら小さく返事した。

「明日から、私も学校行くからさ。」

「…うん。」


「久しぶりに一緒に行こうぜ。」


「………うん。」


それからしばらく、二人は動かなかった。

失った時間を取り戻すように、二人は鼓動を確かめあった。





ー7ー


「めでたしめでたし、ですか?」

「そうなんじゃないか?」

少し離れた位置で、狼と守護者は話していた。

「しかし、あなたがこんなことする人だとは思いませんでした。」

「あ?おいおい、勘違いすんなよ。俺は陽子を追い出すために仕組んだであってだな…」

「そういうの本で読んだことあります。ツンデレっていうんですよね。」

彼が照れ隠しに拳を突き出す。

白は難なく躱した。

「しかし結局のところ、何がいけなかったんでしょうね。」

「んー、まあ理想を求めすぎたんじゃないか。」

「理想…ですか。」

「そうそう、初めから完成形を見てると現実との差が辛くなるだろ。だから、目の前だけ見とけば良いのさ。」

彼はそう言って、陽子の様子を微笑ましく見つめていた。


『どんなに凄い本や映画より、色褪せない不滅の日々を重ねて歩きたい。』


そんな言葉を体現する2人の仲に、


彼は自分と『彼女』を重ね合わせた。










“そう言えば、狼男と陽子ってどういう関係なの?”

“あー、ちょっと訳あってな。泊めてもらってたんだ。”

“え?もしかしてそういう関係?”

“は⁉︎馬鹿、ちげえよ。お前ほんとそういう話題に目がないよな。”


「あちらの話に関して、どう思いますか?」

「…ノーコメント。」

彼は思わず目を逸らした。






「ちなみに私は、夜乃とそういう関係になりたいです。」

「え?お前、そういうキャラなの!?」

今日一番の衝撃が彼を襲った。


サブテーマがもうちょっとだけ続きます。始祖は一体、どこへ行ったんでしょうか?

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