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1話-2 君の…死についてだ。

ー6ー


吸血鬼とは西洋の妖怪だ。その伝承は長い年月を経て様々に変遷しているが、『人の血を吸う怪物』というのが共通の認識である。

日本語で『鬼』と書かれているように力は極めて強く、それでいて不老不死の体を持っている。最近は吸血によって仲間を増やせるなんていうトンデモ能力まで備わっているそうだ。

これらの長所の代わりに弱点が多く存在するが、そのほとんどが条件付きである。

十字架は吸血鬼本人がキリスト教信者でなければ効果がなく、心臓に杭を打ち込むのは吸血鬼を相手にあまりに非現実的だ。

日光という唯一にして最大の急所があるものの、夜に太陽は昇らない。


つまり何が言いたいかというと、私は死ぬということである。


ー7ー


「吸血鬼…ですか。」

とりあえず一度聞き直してみる。聞き間違えた可能性を考慮してのことだ。

「うん、そうだよ。」

即答だ。冗談であって欲しかった。このままでは目の前の彼女に無残に殺されてしまう。

だが、ここで死ぬわけにはいかないのだ。私にはまだやり残した使命がある。何でもいい。ここで助かる術はないものか。

何かないかと考えた結果、そういえばポケットに鉛筆が2本あったことを思い出した。

「つかぬことを聞きますが、キリスト教徒だったりしません?」

「へ?…特に信仰とかはないかな。」

鉛筆十字架は使えないらしい。ならば…

「鉛筆って杭扱いになりますかね?」

「杭…あれ?もしかして僕を殺そうとしてるの⁉︎」

何故か驚いている彼女に向かって鉛筆片手にジリジリと詰め寄っていく。

「よ…止してくれよ。僕は君に危害を加えるつもりなんて…」

「演技なんてすぐに見破れます。駆け引きはやめましょうよ。どうせ殺されるんです。ならばあなたに人間の最後の輝きってやつを見せてあげますよ。」

「いや待っ…!」

彼女の言葉を書くまでもない。片手を振り上げる。私は彼女の心音が聞こえる距離にまでもう迫っているのだ。後は杭を心臓に打ち込むだけ。

だがしかし、次の瞬間私の目の前にあったのは塗装された壁の青色であった。更に右手に握っていたはずの鉛筆もない。

さっと後ろを振り返ると、先程まで目の前にいたはずの彼女が窓の縁に腰掛けていた。私から奪った鉛筆を見せつけるように手に持ち、余裕の笑顔を見せている。

だが甘い。私は油断している彼女に急接近する。

「残念でしたね。鉛筆は1本だけじゃないんです。その油断が…」

「ていっ。」

チョップされた。

「痛い。」

「君が話を聞かないからだ。」

「いやでも、殴られる前に殴れって教えられたもので。」

「殴ろうとすらしてないからね⁉︎」

そういうことらしい。

「じゃあ私に何の話があるっていうんですか?」

そう聞くと彼女は口を閉ざしてしまった。だが意を決したのか彼女は私の目を見つめ、ゆっくりと口を開いた。


「君の…死についてだ。」


ー8ー


その言葉を、「死」の一文字を聞いた時、私が感じたのは見え見えなジョークへの嘲笑でもなく、縁起でもない冗談への怒りでもなかった。

強烈な既視感。いや正確にはデジャヴとは違うものだろうが、私は『私が死んだ』という事柄が事実であると何故か心の底から納得してしまったのだ。私の五感全てが『今ここに存在する自分』を指してその死を否定しようとしても、何か私の根幹にあるものが『私が死んだ』ことを確かな真実として認めてしまったのだ。

「私は…まだやり残して…死ぬ訳には…」

うわ言のようにそう呟きながら、しかしどこか冷静に自らの死を受け入れようとする私に彼女はそっと語りかけた。

「辛いだろうが事実なんだ。ここは納得してくれ。じゃないと君は更なる事実に耐えきれなくなる。」

更なる事実。私の思考が独断でその事実を暴き始めた。

私の死。目の前の吸血鬼。恩返し。先程見た謎の夢。そして今ここに存在する私。

「君は…」

私の理性が全力で止めろと叫ぶ。その先は地獄だ。それ以上考えてはならない。

だが止まらない。かつてアルキメデスがローマ軍の侵攻時にもその計算を止められなかったように。止められない。

いつしか問題を解く手が止まった。そして私がその紙上にある答えを認識するのと同時に彼女はその続きを話した。


「…吸血鬼になったんだ。」

私は発狂した。





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