【プロローグ】
ある秋の日の夕暮れ、私はアルバイトを始めるべく履歴書を鞄に入れ近所のコンビニへ向かった。
残暑はとうになくなり冬の訪れが感じられる頃である。同時に、私にとっては高校三年生となって半年以上がすぎ、他の同級生は大学入試に躍起になっている、そんな時期である。周りの友人らは自らの模試の判定を見て、釣り上げられた魚のような目をしている。私には少しでもいい大学にとピチピチもがく彼らを理解することはできなかった。馬鹿が見栄を張ってどうするというのだ。そもそも大学に進学する高校生は全国で5割ほどだ。そしていい大学を卒業したところで理想となる企業に就職できるとも限らない。立派な実力をもっていたとしてもこれを伝える能力に乏しければ意味がない。東大を出ても過労死する人物だって存在している。要は大学を含め今までの経験の積み重ねであり、今更躍起になったところで結局は付け焼刃である。馬鹿は馬鹿なりに馬鹿な大学に行けばいいのだ。呪うなら今まで遊び呆けていた自分を呪うといい。もちろん口にはしなかったがそんなことを考えていた。
そうは思いつつも必死になる彼らを尊敬もしていた。彼らには向上心がある。見上げたものではないか。当の私は特にやりたいこともないので早々にAO入試で就職に強そうな大学に決めた。もちろん褒められたような名のある大学ではない。私はこのような妥協の連続だから馬鹿なのだ。他人より賢い選択を試み続け、スポーツ、芸術、学問、恋愛、その他あらゆる分野を「ここは私の専門分野ではない」とゴミにした私に何が残っただろうか。屍である。今現在立っている私の足元には妥協の数と同じ屍が転がっているのだ。
テレビをボーっと眺めながら深い自己嫌悪に浸っていると、早くもコタツを出す準備をする母からアルバイトをしないかという提案を受けた。なんでも母の知人が店長をしているしているコンビニが近所にあるらしく、大学進学までの少しの間でも手伝って欲しいと頼まれたらしい。魚のような目をしている友人たちを遊びに誘うほどの図々しさは持ち合わせておらず、部活動も引退し、暇をしていたところである、アルバイトといえどこの経験が何かの役に立つかも知れぬ。その上、母の紹介とあればある程度の働きやすさが保証されている。これはいい機会だ。そう思い足元の屍たちに健闘を誓い母の提案を快く承諾した。
面接は一応するということだったので履歴書の作成に取り掛かった。文章を書くのには自信があった。なにせ私は勉強も部活もろくにせず小説ばかり読んできたのだ。私の青春は活字の海に沈められたと言えるだろう。下書きもせず流暢な調子で書き上げた。特技・趣味の欄には今まで妥協してきたことを書いた。バスケットボール、ギター、美術鑑賞。屍もたまには役に立つではないかと思った。顔写真は入試の際に撮ったものを使った。間抜けな面構えである。満年齢を間違えて書いてしまったが大丈夫だろう。
かくして完成した履歴書を持ちコンビニに向かった。途中、はしゃぐ小学生に追い越され、サラリーマンとすれ違った。私ももうすぐ働けるようになるのだ。思い返せば私ももう18歳である。小学生の頃は18歳はオトナに思えたが今はそうは思えない。親の希望する大学を受けることすらせず、自分のやりたいことすら見つけられず。一体いつから私はオトナだと自信をもって言えるようになるだろうか。いやいや、今の自分は新しく取り組むべきことを見つけたのだ。そんなことはそのうち分かるさ。そんなことを考えるうちに目的地のコンビニについた。
忙しいから続き書けるかわからんけども感想もらえると嬉しいです