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女神をさがして―家に帰るため、わたし冒険者になります!―  作者: 仁 尚
第一章 異世界に来ちゃいました!
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(1-5)

 落ち着いて話をするため、クリスさんが朝食の片付けを始めた食堂をあとにしたわたしとメルトさんは、昨日と同じ応接室へと向かった。


 昨日と同じ場所に座ると、メルトさんが妖艶な笑みを浮かべた。


「さぁ、一晩経って気持ちに整理が付いたみたいだし、何やら聞きたいことがたくさんあるのよね?昨日と同様に私が答えられる事は答えてあげるわ」


 色々とやってもらった身の上でこう言うと心が引けるんだけど…正直、何でメルトさんがここまで協力的なのか目的が見えない。


 でも、メルトさんにどんな思惑があろうとも、異世界人であるわたしに今頼れるのは目の前の女性だけ。


 だから今は、深く考えないでおこう……


 

「では、遠慮なく……昨日、メルトさんとクリスさんはわたしが元の世界に帰る方法は知らないと言った…それは言い換えれば『世界間を移動する方法』を知らないってことですよね?」

「えぇ、そうなるわね」

「じゃあ、メルトさん…誰か知っていそうな方をご存じありませんか?」


 わたしの問いに、メルトさんは思案顔になった。


 そう…メルトさんたちが知らないのなら、知っている人を探せばいい。


 そのことをわたしは頭では理解していたけど、昨日はすぐに帰れないことに対するショックが大きすぎて取り乱してしまった。


 けど、まだ帰れないと決まった訳じゃない。


 可能性を全部潰して、それでも帰る方法が見つからないと分かるまでわたしは諦めない!

 

「……そうね。私が思いつく限り、異なる世界の転移なんて方法知ってるだろう存在は一つしかないわ」

「誰ですか?!」

「女神アスター、あの方ならご存知でしょうね」

 メルトさんの答えに、わたしは驚いた。


 もちろん、世界を管理している女神アスターが異世界転移の方法を知っていそうな存在最有力ではあるけど、わたしが驚いたのはそこじゃなかった。


 メルトさんの言い方が、「それならご近所のおばあちゃんが知ってるわよ」的な軽いノリだったからだ。


 それはまるですぐに会えるような気軽さを含んでいたようにわたしには思え、恐る恐る口を開いた。


「…え?神様って会えるものなんですか?」 

「会えるわよ、あの方は結構気軽に降臨されてるもの。私も何度かお会いしたことあるし」

 女神さまに会った数の指折り数えるメルトさんを見て、わたしは一人遠い目をしていた。


 何だろう、神様が急にいつでも会えるアイドルみたいに思えてしまった……


 やはり世界が違えば神様の在り様も違うのだろうか、とわたしが放心しているとメルトさんの様子が変わった。


「…ただね、会うこと自体は簡単なんだけど、会いに行くまでが大変なのよ。セアちゃんの場合は」

「はい?」

 メルトさんの言葉の意味が理解出来ず、わたしは首をかしげる。


「女神さまと会うこと自体は誰でもできるの。会うために特別な資格とかも必要なし。それに降臨する神殿と周辺は古より神域に指定され何人も占有することは許されてないから関所なんて無粋なものも存在しない……何だけど、ただ場所がねぇ……」


 そういうと、メルトさんは一枚の紙を取り出した。


 それは、手書きと思われる地図だった。


 地図には地球の北米大陸とユーラシア大陸をそのままくっつけた様な形をした大陸だけが描かれている。

 宇宙から観測して製図された地球の地図を知るわたしから見れば随分お粗末なつくりだけど、この世界ではこれが一般的なんだろうなと納得する。


 わたしが地図をのぞき込んでいると、メルトさんが手にしたペンで地図の中…東側大陸の東海岸に近い場所に丸印を書きこんだ。


「ここが今私たちがいる【ポタ大森林】。で、女神様が降臨される神殿がある場所が……」


 更にメルトさんが丸を書き足していき、六つ書き込んだところでメルトさんの手が止まった。


「女神様が降臨する神殿は全部で六つ…で、見てもらって分かると思うけど、女神様の降臨する神殿って全部西大陸にしかないのよ」

 メルトさんが書き込んだ神殿の位置は、彼女の言う通り西側のユーラシア大陸に似た形の大陸に集中していた。

 一番近い神殿でさえ、今居る場所から北西に向かって大陸を横断し北側の細い陸地を通って西側の大陸に入ったすぐにしかないのだ。


 この地図、縮尺がついてないからどのくらいの面積があるか判らないけど、もし地球と同じ広さなら飛行機でも使わないととんでもない距離を徒歩で移動しないといけないんじゃ……


 目の前に広がる地図に恐れ戦いていたわたしに、メルトさんが更なる追い討ちをかけた。


「しかも、何処の神殿に降臨されるかは直前の神託でしか判らないから、狙った神殿に来るとは限らない。さらに、道中も安全とは言い難いわ。このポタ大森林周辺は私のテリトリー(・・・・・・・)だから比較的に安全だけど、ここを一歩出てしまうと人間にとっては結構危険が溢れてるのよ。最低限、自分の身を護る術を持ってないとすぐに死んじゃうわね」


 異世界のお約束というか何というか、メルトさん曰くセリアにもモンスターに似た生き物が存在するらしい。


 野獣(ビースト)と呼ばれるそれは、その殆どが元を辿れば原初の種族を祖としているそうで、何かしらの理由で世代を重ねるうちに知性を失ってしまった個体が野生化・繁殖したそうだ。

 ただ、知性を失い能力も衰えているので人間であってもかなわない相手ではないらしいけど、超大型の野獣ともなれば人間にとっては国の存亡にも関わるような脅威なんだとかーまぁ、そうそう現れることはないそうだけどー。

 

 さらに、これも異世界のお約束だけど、盗賊や人さらいなんかも結構出没していて、例え大きな街道であっても油断してたら襲われる可能性があるみたい。


 まぁ、つまりは外を出歩けば結構な確率で危険に遭遇するということだ。


 メルトさんの説明を聞いて、先ほどの「会うのは簡単だけど、会うまでが大変」という言葉の意味がよく理解できたわたしは、あまりのお約束な展開に頭を抱えたくなる。


 女神様に会うには今居る場所から大陸を横断して隣の大陸に行かないとダメで、しかも最低限身を護る術が無ければ外を出歩くことすら絶望的……なんというか、わたしって運があるのか無いのか……はぁ〜……



「私の見立てじゃセアちゃん、身を護る術なんて何もないでしょ?どうする?諦める?」


 メルトさんが挑発するような言葉を投げかけてきた。


 諦める?……元の世界に帰る方法を探すためには、女神に会わなきゃいけないことに変わりはない。

 

 ……こうなったらお約束(・・・)を、トコトン楽しんでやろうじゃない!

 わたしはできうる限り自信を漲らせるように笑みを浮かべた。


「諦めません」

 

 わたしの頑張りが功を奏したのか、メルトさんは驚いた表情をしたけど、すぐに妖艶な笑みを浮かべて頷いた。

「本当に、本気みたいね……いいわ、身を護る術を教えてあげる」


 メルトさんの言葉に、わたしは「よっしゃあ!」と心の内で叫びながらガッツポーズする。

 すると、メルトさんが腕を組んで唸りだした。


「ん〜……とは言っても今から剣術とか教えるのは現実的じゃないわね…となると、やっぱり魔術(・・)かしら」

「……え?魔術?…使えるんですか?わたしが?」

 メルトさんが言った魔術という言葉に、わたしは挙動不審になってしまう。

 いやだって、魔術ですよ?使うためには間違いなく魔力が必要だろうし、異世界人であるわたしが魔力を持ってるかわたし自身が判らないんだもん。


 半信半疑という体のわたしに、メルトさんが溜息を洩らした。 

「当たり前でしょ。だってセアちゃん、魔力を持ってるんだから…それとも、剣術とかの方がよかった?」 

「いいえ!わたし体動かすのが苦手で、武器を使ったのは無理だと思いますので、魔術でお願いします!」

 

「そう…なら魔術、より先に魔力の使い方を教えなきゃダメそうね」

「お、お願いします!」

「えぇ。ただし……」

「遅くなってしまい申し訳ありません。すぐに「教えるのはクリスだけどね」…はい?」


 朝食の片づけを終えて応接室へと入ったと同時に声を掛けられたクリスさんは、状況が飲み込めないようで困惑した表情で首を傾げた。


 困惑してるクリスさんにメルトさんが呼び寄せて説明を始めた。


「……なるほど、そういうことでしたか。セア様、このクリステル微力ながらご協力させていただきます」


 説明を聞いたクリスさんは、わたしに微笑み協力を承諾してくれた。


 というか、何故にクリスさん?


 頭の上に疑問符を浮かべていたわたしに、メルトさんが肩をすくめた。


「私たち原初の種族と、人間とじゃ魔力の()が全く違うのよ。だから私に人間の使う魔術は使えない…あ、心配しなくていいわよ、愚息に魔術を教えたのはクリスだからね」

 メルトさんがわたしに魔術を教えることが出来ない理由を聞いて疑問が解けたが、わたしが抱えていたもう一つの疑問も解消できた。

「…てことは、クリスさんは人間なんですね」

 メルトさんが人間じゃないって聞いた時、クリスさんも別の種族なのかと思っていたのだけど、魔術が使えるってことを知り、わたしの思い違いだったのか…と、思ったらクリスさんが首を横に振った。

 

「いいえ。魔術を使えますが、わたくしは人間ではございません」

「はい?」

 微笑んだまま否定するクリスさんに、わたしは首を傾げる。


 魔術は使えるけど、人間じゃない?え?どゆこと?


 ますます困惑するわたしに、クリスさんは「少し、わたくしの身の上をお話ししましょう」と言って、居住まいを正した。


「わたくしは、およそ千年前に隆盛を極め、そして滅んでしまった魔導文明の技術によって生み出された、魂を持つ魔導人形なのです」

 衝撃的なカミングアウトに、わたしは声が出なかった。


 魔導人形って、SFモノだとアンドロイドとかカテゴライズされるアレ?ファンタジーモノでも、魔法技術とかが異常に発展している世界設定で出てくるけど、実際にあるんだ……


 とクリスさんの正体に驚きつつ、一方でわたしはクリスさんの説明に耳を傾けていた。


 クリスさんを創った人は、魔導学者の中でも天才と言われた人で、「無から魂を創造する」という研究の集大成としてクリスさんが誕生したそうだ。

 で、そんなクリスさんがメルトさんの所にいる理由が、メルトさんとその学者さんが親しい友人だったらしく、学者さんが亡くなるときに託されたそうで、それ以降メルトさんの従者として一緒にいるという。


 とても人間のようにしかみえません、と伝えると、長い間稼働してきたことで今では人間と見分けがつかないようになったけど、緊急を要する事態に遭遇すると化けの皮がはがれてしまうと、クリスさんは恥ずかしそうに話してくれた。


 クリスさんの話を聞いてわたしは「なるほど。だから最初に会った時、クリスさんが人形みたいにみえたのか」と納得した。


「まぁ、わたくしの話はこのくらいにして、早速はじめましょう」

「お願いします、先生!」


 こうして、わたしの魔術習得訓練が始まった。


次話更新は、五月二十七日午後二時です。

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