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女神をさがして―家に帰るため、わたし冒険者になります!―  作者: 仁 尚
第一章 異世界に来ちゃいました!
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(1-3)

「わたし、異世界から来ました!お願いです、この世界のことを教えてください!」


 メルトさんに何者か問われ、わたしは正直に自分の身の上に起きたことを話し、今いる世界の情報を求めた。


 捲し立てるように答えたせいかはたまた緊張のせいか、喉が渇いたわたしはクリスさんが淹れてくれたお茶の入ったカップを手に取り、口に運んだ。


 そのお茶を淹れてくれたクリスさんはわたしの説明を聞いて目を大きくして驚いていたけど、何故かメルトさんは目に見えて表情を変えていなかった。


「なるほどねぇ〜異世界か…貴女の話を聞いて色々納得できたわ」


 むしろ腑に落ちたといった感じで、一人納得したように何度も頷いていた。


「…あの、信じてくれるんですか?わたしが異世界人ってことを」

 正直、色々と言われるだろうなと覚悟してたんだけど、メルトさんの反応に肩透かしを食らった感じになったわたしが首をかしげると、メルトさんは驚いたような顔をした。


「え?なら、貴女は嘘をついたっていうの?」

「えっ?!そ、そんなことないですよ!?」

 メルトさんのまさかの返しに、正直に話したにも拘わらずわたしはワタワタと慌ててしまう。


 おおおお落ち着けわたし!ここで下手に慌てたら不審がられる!


 そんな動揺を隠そうと悪戦苦闘しているわたしを見て、メルトさんが「ぷっ」と噴き出した。 


「あはははは〜!冗談よ、冗談!そんなに慌てないでちょうだいな」

 声をあげて笑うメルトさんを見てわたしは何が何やらと訳が分からなかったが、少しして「あ、もしかしてわたし…からかられた?」と気が付き、慌てた自分が恥ずかしくなる。


 そうだよねぇ〜…いきなり下着姿で登場するぐらいの人だもんね〜…うん、絶対メルトさんは茶目っ気たっぷりな人なんだ、きっと……

 

 わたしの予想を裏付けるように、後ろに控えているクリスさんが申し訳なさそうな表情を浮かべて「ご主人様の悪乗りを許してあげてください」と頭を下げていた。

 

「まぁ、冗談はさておき。私が貴女の言葉を信じた理由だけど…先にこの世界のことを教えてあげた方が説明しやすいわね」


 そういうとメルトさんの表情が真剣なものへと変わり、わたしが辿り着いた世界がどんな所か教えてくれた。



 わたしが辿り着いた異世界の名は【セリア】…女神【アスタ】の加護によって護られている世界で、【原初の種族(オリジナル・ファイブ)】という女神が最初に生み出した五つの種族、【ドラゴン族】【ユニコーン族】【フェニックス族】【ライガー族】【タイタン族】を中心に人間含めた多種多様な生物が存在し、その全てが魔力を持っているという。


 この情報だけでもわたしにとっては驚くものだったけど、そんなのは序の口でこの後に続いた説明は驚愕の一言だった。


 なんと、メルトさんは最初に出た原初の種族の一角を占めるドラゴン族の出だったのだ!


 説明を聞く限り、ドラゴン族はその名の通り竜の姿をした種族らしくとても大きく長生きなんだとか。もちろんメルトさんの本来の姿も竜の姿らしいー年齢の方は聞きませんでした。だって怖くて聞けなかったんだもん!ーんだけど、人間社会の中で生きるのに竜の姿じゃ都合が悪いので人間の姿に変身して暮らしているそうだ。


 で、ドラゴン族の中でもメルトさんはかなり特殊な力を持っているらしく、その力のおかげで他人の魂を視ることが出来るんだって。

 その力を使ってわたしの魂を視たらセリアに住む人間とは魂の形が根本的に違い、ある存在(・・・・)によく似ていたことから、わたしの言葉を信じてくれたそうだ。


 その存在っていうのが……


「私の息子よ」


 メルトさんの口から「息子がいる」なんて言葉が出てくることは思ってもいなかったわたしは声を上げて驚いたー結構失礼だったと反省しておりますーけど、よくよく聞くと息子さんとは血の繋がりは無いらしく赤ん坊のころに近くの森で見つけて連れて帰ったそうだ。


 そんな息子さんの魂とわたしの魂が似ている理由っていうのが、実はメルトさんの息子さんは異世界からの転生者だったのだ!!


 セリアではここ数百年、人間の中だけに前世の記憶を持った子供が少なからず現れているらしい。

 大概は過去に活躍したと言われる偉人の記憶や知識を持って転生しているらしいんだけど、ごく稀にセリアには無い知識と常識では考えられない能力を持って生まれてくる者がいて、前者と区別するために異世界からの転生者はその能力と影響力から【超越者】と呼ばれているとか。


 メルトさんが息子さんを連れ帰った理由も「可哀想だったから」ではなく、赤ん坊の中の魂が見たこともない形をしていて昔聞いた超越者の話を思い出したメルトさんが、「もしかしたらこの赤ん坊って…超越者なのかしら?」と興味本位で連れて帰り育てたそうだ。


 メルトさんが本人に確認したのは息子さんが喋れるようになった二歳ぐらいの時らしく、「さて、もう会話もできるのだから、何で赤ん坊の中に成熟した大人の魂が入ってるのか説明してもらいましょうか」と問い詰めて聞き出したとか…いくら中身が前世の記憶を持つ大人であっても、一から育ててくれている人からいきなりそんなこと言われたら、息子さんはさぞ驚いただろう。


 わたしが知る限り、異世界転生モノで言葉も発せるか怪しい幼児の内から、親に転生者であることがバレてしまうなんて展開ーしかも、自分に落ち度は一切ないにも関わらずだーは聞いたことがない。



 わたしだったら、正体がバレた時点で親に見放されるかもって絶望してたかも……



 まぁメルトさん曰く、その一件以来二人は親子というより親友のような関係になったそうだから、いい方に転んだってことなのかな?


 で、その息子さんも数十年前にこの屋敷を出たらしくそれ以来殆ど帰ってこず、時折思い出したかのように手紙を送って生きていることを知らせてくるだけだって。


 残念!息子さんにどんな世界から転生して、転生するってどんな感じなのか聞いてみたかったのに……

 

 転生者である息子さんに出会えなかったことを残念がっていたわたしだったけど、フッと大切なことを思い出した。



 そう、元の世界に帰る方法だ!


 少しとは言え今居る世界の情報を得られたんだから、いよいよ確信である帰る方を聞いてみよう……そう決意した矢先にわたしは視線を感じて、そちらへ目を向けるとメルトさんが真剣な表情でわたしを見ていた。



「さてと、私が貴女の言葉を信じた理由とこの世界に関して少し話した訳だけど……貴女に起きたことを聞いて、昔息子に聞いた前世の世界で流行ってたって物語の内容を思い出したわ。セアちゃんのように、異世界へと迷い込んじゃった主人公の物語をね」

「え?」

 突然のメルトさんの言葉にわたしはその真意が理解できず、ただ気の抜けた返事を返す。

 そんなわたしの様子を見て、メルトさんは一呼吸おいて口を開いた。


「だからこそ、今貴女の欲してるモノが私にはよく分かるわ。貴女が今一番知りたいこと……それは元の世界に帰る方法でしょ?」

 そう問われ、わたしは咄嗟に言葉が出なかった。


 まるで狙いすましたようなタイミングに、メルトさんは心の中が読み取れるんじゃないかと勘ぐったからだ。


 だけど、メルトさんから目的の話を振ってもらえたのはある意味で良かったと思い、わたしは必死に首を縦に振った。


 その直後、わたしは本当の意味での”現実”を知ることになる。

  

「やっぱりね……でも、貴女には酷なことを言うことになるわ。正直なところ、私も数千年間この世界で生きてきたけど、セアちゃんのように転移という形で異世界からやってきた存在を聞いたことがないの……だから、貴女が元の世界に帰るための方法は見当もつかないわ…クリス。貴女はどう?」

「残念ですが、わたくしも存じ上げておりません。セア様、お力になれず申し訳ありません」


 メルトさんに問いかけられ、クリスさんは申し訳なさそうに首を横に振るとわたしの方を見て頭を下げた。


「そ、そんな頭を上げてくださいクリスさん!大丈夫ですよ、いきなり帰る方法が判明するなんて思っていませんでいたし!」

「…はい?」

 力になれなかったことに泣きそうな顔をして謝るクリスさんに、わたしの方が申し訳ない気持ちになってつい余計なことを口走っていまい、クリスさんが呆けた顔でわたしを見る。


「いやっ、あのですね!わたしの世界にもさっきメルトさんが話した物語に似たシチュの話があって、わたしそういうの大好きで頭の中で妄想…じゃなくて!いつ自分の身に起こるかもしれないからシミュレーションして予習は万全だったっていうか、むしろどんと来い!っていうか……ですから、大丈夫ですよ!」


 

 なんかドツボに嵌って晒さなくていい恥を晒した気が……うぅ、メルトさんたち呆れてるだろうなぁ…


 

「セアちゃん…もういいわ」

「え?」


 何故か、メルトさんは呆れるどころか悲痛な顔でわたしを見ていた。


「セア様、無理しないでくださいませ……」


 クリスさんも同様だ。 


 何で二人はそんな顔を……?


「お二人とも、何を……」


 その理由はすぐに分かった…わたしの視界が相手の顔がぼやけるほど滲んだのだから。


「あ、あれ…?」


 その原因が自分が泣いているからと気が付くのにそう時間は掛からず、何度も拭うけど次から次に涙があふれてくる。


「あ、あれ?おかしいな……わたし、泣くつもりなんて……」


 何度も頭の中でシミュレーションしてすぐに帰れなかった時の心構えも出来ていて、自分は一ミリも動揺なんてしないと思っていた。


 でも現実は違った……わたしは何の変哲もないただの女子高生で、知り合って間もない二人が帰る方法を知らないと言うだけで、帰る方法が見つからないかもしれないという不安感にわたしは襲われた。

 

 それでもメルトさんたちに気を使わせられないと、「泣いちゃダメだ」と自分に言い聞かせながら慌てて涙を拭う。


 すると、メルトさんが立ち上がりわたしに歩み寄り抱きしめてくれた。


「……話の続きはまた明日。今日のところはゆっくり休みなさい」

「………はい」

 

 結局、メルトさんの決定でこの場はお開きとなり、わたしの異世界初日はただ泣くだけで終了となってしまったのだった。

 


次話更新は、五月二十七日午前一時です。

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