(1-EX)
今回はクリス視点でお送りします。
*途中でおかしな部分があったので手直ししており、投稿が遅れました。
お待たせして申し訳ありません!
魔導人形から見た異世界人(クリステル視点)
主人であるメルト様にお仕えして早千年……口にしてしまえば簡単なですが、千年もの間様々なことがございましたが、今にして思えばどれもいい思い出と言えます。
その中でも最も衝撃的だったのはやはり、坊ちゃまとの出会いでしょうか。
ご主人様が連れ帰った捨て子と思われる可愛らしい赤ん坊……
ですが、その赤ん坊にはこの世界とは異なる世界で生を終えた人の魂が宿っていたのです。
異世界と言う概念は知っていましたが、まさか実際に異世界は存在し、そこで生きた人の魂を宿す方に出会うとは思ってもいませんでした。
これに勝る出来事などもう起きないだろうと思っていましたが、起きてしまいました。
そしてそれは、突然やってきました。
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「っ!?」
坊ちゃまが屋敷を出てからと言うもの、ご主人様は一日の大半を自堕落に過ごしており、この時も下着姿と言うあられもない姿をしておりました。
そんな恰好で書斎の椅子にもたれ掛っていたご主人様が、突然弾かれるように飛び起きるように立ち上がると、窓へと詰め寄りました。
「ご主人様?どうされたですか?」
そばに控えていたわたくしは、お仕えしてからあまり見たことのないご主人様の行動に驚きを隠せず、そっと様子を伺い言葉を失いました。
ご主人様の顔に、焦りの色が浮かんでいたからです。
わたくしたちが住むセリアにおいて、ご主人様が属するドラゴン族は世界最強の種族と言われるほどの強力な力を持った種族で、ご主人様自身もお世辞抜きで強い力をお持ちだというのに……
「一体どこから現れたの?……って移動し始め…ちょっ?!こっちに来てる!?嘘でしょ!?」
そんなご主人様が狼狽し冷や汗を流している状況に、わたくしは何かとてつもない存在が出現し屋敷に向かっていることを察しました。
「すぐそこまで来てるけど、攻めてくる気配が無い?どういうこと……?」
気配を察知する機能がダウンしているわたくしには、突如現れたという謎の存在を感じることは出来ませんが、ご主人様の言葉で、すぐそこまで来ていることが分かり、わたくしはご主人様にある申し出をしました。
「ご主人様、わたくしが様子を見てまいります。もしもの場合は、わたくしごと……」
そこまで申すと、ご主人様は大きく息を吐きだし「頼むわ」と一言口にしました。
お仕えして千年……碌に調整も出来ない状況で身体の機能の大半が止まっているわたくしには、出来ることなど殆どないかもしれません。
ここで破壊される恐れもある中、それでも最後までご主人様のお役に立たなければと、わたくしは自らを奮い立たせ、屋敷の外へと出て行きました。
正面玄関を出ると、遠くにある敷地と外を区切る鉄柵にもたれ掛る人影を見つけました。
人間?
一瞬そう思いましたが、ご主人さまが最大限警戒する存在だということを思い出し、疑念を振り払うように警戒しながら人影へと歩いて行きました。
そしてすぐそばまで来たわたくしは、その姿を驚きを禁じ得ませんでした。
茶色がかった肩までの長さのウェーブのついた黒髪に、黒い瞳が印象的なクリっとした大きな目。あまり背は高くなく、幼さを残した顔立ちと相まって、わたくしには女性と言うより少女に見えた。
そこに立っていたのは、可憐で可愛らしいお嬢さんだったのです。
少し前に坊ちゃまの弟子だと言う女性が坊ちゃまと共に訪ねてきた際に見せて頂いた「ブレザー」に似た恰好で、何故か靴と靴下を脱いでいましたが、すぐに靴づれで足に怪我をしてることに気が付きました。
わたくしを見たその少女は、大きな目をさらに大きくし何故か固まっていました。
どうすればいいのでしょうか?
動きを見せない相手に対し、わたくしはどうすればいいのか、ご主人様に問い合わせようとした時でした。
「あ……」
少女がわたくしに声を掛けようとした瞬間、不意に身体が傾きまるで魔力の切れた魔導人形のようにその場に倒れてしまったのです。
突然の出来事に、わたくしは呆気にとられましたがすぐさま少女へと駆け寄りました。
今にして思えば、相手の演技だった可能性も考えられ軽率な行動だったと思いますが、それ以上にわたくしは彼女の倒れ方に危険を感じ、助けなければという考えがこの時は先行していました。
幸い、彼女は頭など打っておらず呼吸もしっかりしていたので、大事には至らないだろうとわたくしは胸を撫で下ろしました。
ただ、年頃の御嬢さんをこのまま地面に寝かしたままと言うのは心苦しく、わたくしは少女とその荷物を抱えると独断で屋敷の中へと戻り、使われていない客間へと入ると少女の身体をベッドの上へと下ろしました。
そして、回復魔術の紋章が刻まれた宝石を使い足の怪我を治すと、わたくしはご主人様に説明するため再びご主人様のいる書斎へと戻りました。
「ちょっと、突然気配が消えたんだけど、どうなってるの?」
困惑するご主人様に事の次第を説明し、客間で寝かせていることを伝えました。
わたくしの説明を聞いて溜息をもらすご主人様でしたが、「それなら、丁度いいから目が覚めたら話を聞いてみましょうか」と少女との面会を希望し、わたくしに対する叱責などもありませんでした。
「わたし、異世界から来ました!」
セアと名乗ったその少女は、自分が異世界から来たと言い助けを求めてきました。
これにはわたくしだけでなく、ご主人様も大いに驚いていました。
坊ちゃまを始めとした異世界から転生した方を何人か存じてはいましたが、まさか生きたまま世界を超えてくる方がいるとは思いもしませんでした。
ただ、セア様の話を聞く限り、自発的ではなく偶発的にこちらの世界にやってきてしまったようで、どうにかして帰る方法を知りたいと言われました。
ですが、わたくしもご主人様も異世界人を元の世界に帰す方法など知る由もなく、そのことを伝えるとセア様は泣き出してしまい、その日はそこで話は終わりました。
今思っても、あのような言い方しか出来なかった自分の不甲斐なさに怒りを覚えます!…戻れるなら自分を叱責したいぐらいに!
次の日、ご主人様がこの世界を管理する女神様なら、異世界人を元の世界に戻す手立てを知っているかもしれないと言い、その日からセア様は女神さまに会いに行くための準備を始めました。
そこからのセア様は目を見張るものでした。
自衛手段として習得した魔術…今の時代古代魔術と言われる魔術を習得するとものすごい勢いで極め始め、かつて魔導文明において一般の術士が十年近くかかる魔術の改良を、セア様はたった数日で行ってしまったのです。
いくら”マイスターの遺産”というアドバンテージがあったと言っても、これは異常としか言えないのですが、わたくしにはそれだけセア様が必死なのだと思えて仕方ありませんでした。
そして極めつけは、突然訪ねてきたご主人様の甥を名乗るドラゴン族の青年を、あっさり撃退してしまったことです。
先にも述べた通り、ドラゴン族は原初の種族最強であり、いくら若いドラゴンであっても種族最弱の人間が圧倒できるはずがありません。
ですが、セア様はそれをやってのけ、セア様を見下していた青年…アズラクさんにその実力を認めさせたのです。
ここまでくれば、セア様が目的を見事に果たすと確信をもっていうことができます。
おそらく、一月もしない内にセア様は旅へと出られることでしょう。
その前に、わたくしにはセア様にお願いしなければならないことがあります。
少し前に頼みに行った際ははぐらかされてしまいましたが、今回は泣きついてでも聞いて頂かなければ……
何故なら、このお願いはセア様にしか出来ないことなのだから。
これにて第一章は終了です。
第一章の登場人物紹介回を挟んで第二章になります。
次の更新は、第二章を書き終えたら順次更新します。




