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初の一人称視点作品!
「あれ?」
目が覚めると、見知らぬ森の中にいたわたし……さっきまで通学路の住宅街の中にいたはずなんだけど、これはどういうことですか?というか、何でわたしは森の中で寝てるの?
身体を起こし辺りを見渡しながら、わたしは今間違いなく森の中にいることを確認すると、さっきまでの行動を振り返る。
深夜アニメをハシゴしたせいで、睡眠時間三時間だったにも拘らず無理やりお母さんに起こされて、学校の準備を済ませて眠い目を擦りながら家を出た。すると、高校は別になったけど幼稚園から幼馴染の莉麻ちゃんが待っててくれて、いつものように二人で途中まで一緒に通学して、いつもの場所で別れたよね。
で、「やっぱり眠いなぁ、学校着いたら寝てよう」とか思って学校に向って歩いてたら、なんか目の前の空間?に亀裂が奔って孔が開いた気が……
「……あぁ、もしかしてあの孔に入ったせいで、異世界に来ちゃったとか?」
我ながら突飛な発想だけど、これが一番しっくりくる……
とりあえず、周囲の再確認。
右…誰に居ない。左…誰も居ない。更に前後も確認したけど、わたし以外に人影はない。
うん、どうやら召喚されたわけじゃなさそうだ。まぁ、召喚されたけど別の場所に出ちゃったって可能性もあるけど、今は横においておこう。
わたしは、傍に落ちていた通学用カバンからスマホを取り出すと、徐にロックを解除した。
「あ、やっぱり圏外だ」
多分そうだろうな、とは思ったけどものの見事に左上に圏外と表示されている。
召喚されたのか、事故で来たのかわかんないけど、おそらくわたしは異世界に来ている……はず!
なんて自分を納得させながら、とりあえずわたし奥苑星亜は、万感の思いを込めて声を上げた。
「異世界に…キタァーーーーー!!!」
とりあえず大声で叫んで気持ちが落ち着いたところで、わたしはこれからどうするかを考えた。
ここが異世界であることを前提として、最大の目標は元の世界…お父さんとお母さん…あとお兄ちゃんが待つあの世界に帰ることだよね。
残念ながら、わたしが通ったと思われる”孔”は既に消えているから、同じ方法では帰ることが出来ない。なので、別の帰る方法を探さないといけないんだけど、右も左も分からない今の状態では、何も出来ないし決められない……必要なのは情報。その情報を得るためには、人がいる町か村を探さないといけない……ここまでは間違ってないはず、うん。
と、ここまでの事がサラッと思いつけたのは、わたしが偏にライトノベルの愛読者であり無類のゲーム好きだから。それらから得た沢山の知識を頭の中に詰め込んでは、日々シミュレーションしていたからで……誰だってするよね?「もし異世界に行ったら、自分ならどうする!?」って空想。
とりあえず、やるべき事が決まったので、わたしは森を出る為に歩き出した。
*************
「ここ……何処?」
素人が森の中を歩き回るのは危険だって分かってた気でいたけど、理解できてなかった…歩き出して一時間経ったけど、辺りを見渡しても何処もおんなじ……同じ所グルグル周ってるみたい……ヤバイ、迷っちゃった……
小説じゃ、運良く森から出られたり誰かに助けられたりするけど、現実は甘くなかった。
よく考えれば、物語に入り込んだ訳じゃなくて、ここはあくまでも現実の世界。ご都合主義的な展開は、やっぱり起こらないか……あぁ、物語なら導入の段階でそんな事を思い知らされるなんてなぁ〜……
そんな風に、世知辛い現実に打ちひしがれていた時だった。
―ニジノホウコウ、セイブツハンノウアリ…
「?!」
突然聞こえた、と言うより頭に響いた声に驚き、わたしは辺りを見渡した。
「何、今の声?」
何処か機械的な声…天の声とかシステムアナウンスっていうのがしっくり来る感じの声だった気がするけど、今は横に置いておこう。気にするべきは、声の内容!
「二時の方向に生物反応…」
確かに、さっきの天の声(?)はそう言ってた。えっと、よく戦争モノで聞く言葉だけど、これってわたしの前を十二時、後ろを六時、みたいに時計に見立てて、方向を時間に当てはめるやつだよね?
つまり、二時ってことはわたしから見て、右斜め前方向ってことか?
「向こうに、生物反応かぁ…う〜ん」
わたしは、二時の方向を見ながら考え込む。生物反応って事は、生き物がいるってことなんだろうけど、それが人間って確証は無い。もしかしたら動物や、怪物の可能性だって考えられるけど……
「…うん!背に腹は代えられない、行こう!」
覚悟を決め、わたしは天の声(?)が示した方向へと歩き出した。
言葉を信じ、わたしは只管に突き進んだ。
慣れない森の中で何度も躓き、何処までも続く森の中を歩きながら、「やっぱり引き返そうか」とも思い始めたときだ。
木々の間から光が漏れていたのが見えたんだ。
「!?」
それに気が付いたわたしは無我夢中で走り、徐々に森の中が明るくなり始めると、期待で胸が一杯になる。
そして、森を抜けた瞬間光に包まれ、わたしはまぶしさで目を瞑った。
すぐに目が慣れ、ゆっくりと目を開けたわたしの前には、鉄柵に囲まれた大きなお屋敷が静かに佇んでいた。
「……やったぁーーーー!!」
目の前に広がる光景に、わたしは大声で叫んだ。
ありがとう、天の声(仮)!あれから一度も聞こえないから、異世界特有のものなのかわたしに芽生えた能力なのかは分からないけど、おかげで何とかなりそうだよ!!
嬉しさに小躍りしながら、何処からか中に入れないか鉄柵沿いに歩き出した。
柵の外にいるからお屋敷までまだ距離があったけど、建物自体は大分年季が入っている感じ。でも、手入れは欠かしていないというのは何となく分かった。お屋敷の周りにある庭も荒れている様子も無い……間違いなく、誰か住んでいる。わたしはそう確信した。
「あ!門だ!!」
少し歩いていると、正門と思われる場所にたどり着いた。
「さて、どうしよっかな……とその前に、さすがに足が限界」
森の中を歩き回ったせいで靴ズレしたのか、足の痛みに我慢の限界に来てしまったので、鉄柵に身体を預けながら靴を脱いで足の状態を確認しようとした時だ。
お屋敷の方から、”ガチャッ”と扉が開く音が聞こえた。
わたしは慌てて振り返ると、正面の扉…多分玄関と思われる扉から人が出てきて、真っ直ぐこっちに歩いてくるのが見えた。
「やったぁ、人に出会え…!?」
と喜んでいたわたしだったけど、すぐにその喜びは何処かへ吹き飛んでしまった。
何故なら、メイドさんがこっち向って歩いてきているから!
いや、ほんの少しは期待してましたよ?ここは恐らく異世界だし、あんなおっきなお屋敷なら本職の美人なメイドさんが一人や二人はいるだろうなぁ〜て……でも、こっち向ってくるその女は、わたしの想像がいかに貧相なものだったかを、これでもか!と教えてくれた。
門扉を挟んでメイドさんと対峙したわたしは、無意識に喉を鳴らした。
空の青さにも負けない澄んだ長く青い髪に、瞳は虹色に輝き、透き通る磁器ような白い肌。母性溢れる穏やかな笑みを浮かべ、わたしを見つめるメイドさんはまるで女性の理想像を体現しているようにも思えた。
でもわたしには、女性が何故か精巧に出来た人形の様に見え顔に浮かんだ笑みも作り物に見えてしまい、少し怖かった。
そ、そんなことない!!
わたしは自分の頭に過った考えを振り払うように首を振り、女性に声をかけようとした。
「あ………」
でも、わたしが言葉を発することなく、直後に身体がわたしの意思に反してパチっと音を立て電源が落ちたように脱力し、わたしはその場に倒れてしまった。
あれ?…わたし……どうなったの?
何が起きたのか解らず、呆然と地面を見つめるわたし。
『…!……!!』
柵の向こうにいる女性が何か叫びながらやってくるのが見える。
それがわたしが見た最後の光景で、すぐに目の前が真っ黒に塗りつぶされてしまった。
――ジ…ジジッ……新…のサー……へのアク…を確……。要…により必…なシス…のダウ……を開……。
主人公の名前を見て「おや?」っと思った方もいるかも。
何のことか分からない方は、「創造神たちの傭兵」をチェックしてみてください。
次話投稿は、五月二十五日午前一時予定です。