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コウタとリサのある日の日常  作者: のだ おぶなが
2/7

『うたわれるもの』後編

ゲーム「うたわれるもの」についてのネタバレがありますのでご注意ください。

「それで両足は治ったの?」


「その話まだ続いてたのかよ!」


 もうとっくに終わってると思ったらまだ続ける気なのか。


「さっきも言ったけど僕の両足はこの通りピンピンしてるよ」


 僕はそう言って道に転がっている小石を軽く蹴っ飛ばした。思ったよりも飛んでいって車道に飛んでいくんじゃないかと少し心配になった。


「え、ナニがビンビンだって?」


「……いま君は『なに』を『ナニ』って言ったね。それじゃあまるっきり意味が変わってくるし、それに僕はビンビンじゃなくてピンピンって言ったんだ。そういう文字じゃパット見分かりづらい小ボケはやめてもらおうか」


「文字じゃ分かりづらいって、私は今こうして君とお話しているわけだから問題ないと思うな」


「リサなら所かまわずやりそうだから言ってるんだよ。実際にやってそうだし」


「そんな、私を痴女みたいに言わないでよ。まだれっきとした処女なんだから」


「痴女と処女は別に対義語じゃないんだから、その理屈はおかしいと思うな。それに君は痴女だろ」


 てか、リサってまだ処女だったのか。痴女ってことは知ってたけど。少し驚きだな。高校入ってから彼氏出来たことないとか言ってたけど本当だったのか。


「ちょっと。いま君変な事考えていたでしょ。私は君のすべてをお見通しなんだからやましいこととか考えたらいけないんだぞ」


 リサはそう言って僕のことを指さしてくる。


「へえーなんか神様みたいだな」


「そうよ。私は君の神様なのだ。なんでも言ってみるがよい。すべて当ててみせようぞ」


 なんか喋り方がちょっとおかしい気もするが。なんでもねぇ。面白いからちょっとつきあってみるか。


「じゃあまず手始めに僕の誕生日は?」


「………… 」


 リサがどんどん焦っていくのが見ているだけで分かる。

 おい。まさかあんだけ大口叩いといて最初の問題すら分かんないなんてことはないよな。いやまさかな。ないだろ、確か前に教えたはずだし。


「……。……五月三日」


「ええー!? 嘘だろ! この後の問題とかも考えてたのに。なんかこっちがお世辞を真に受けちゃった痛い人みたいになってるじゃねーか」


 僕がそう言うと、リサは「あっ」っと言って、


「ああ、そうそう。九月五日だっけ。ごめんごめんド忘れしちゃってさ」


 さらに罪を重ねるのだった。

 あてずっぽうで当てようとしているのがより質が悪い。


「ちげーよ!! でも九月があってるのが何とも言えねーよ! てか忘れたなら忘れたって言えよ! お前はクイズ番組で答えを見た後にああそれかー、とか言うタレントか」


「ちょっと!? それって君がこの世で世界一嫌いで、肥溜めの中で窒息死すればいいのにとか言ってた人のこと!?」


「いや、そこまでは言ってねーよ! たしかにあいつらはむかつくけどそこまではじゃねーよ! てかなんだよ。僕はそいつらに親でも殺されたのか!!」


「え、ちがったっけ?」


「違うっての!! もしそうだとしたら日本やばすぎだろ。殺人者がのうのうとクイズ番組出て答えを見た後にああそれかー、とか言って知ったかぶりしてるなんて怖すぎだろ! はぁはぁ」


 こいつにつきあってたらマジで疲れるな。もうわざととしか思えないな。……もしかして、


「おいリサ。もしかしてお前、わざと話そらして俺の誕生日忘れたこと無かったことにしようとしてないか?」


 リサがビクッとしたのを僕は見逃さなかった。


「やっぱりか。お前はほんとずる賢いというかなんというかさぁ。忘れたら素直に忘れましたって言って土下座しろよ。そしたら許してやらんこともないから」


 リサの顔はよく見えないが、恐らくまだ言い訳をしようとなにか考えているのだろう。こんな意味の分かんないことを言ったんだからさすがにツッコまずにはいられないだろ。


「…………。……ごめん、なさい」


 え? いまなんて言った。もしかしてごめんなさいって言ったのか? リサが? あのリサが? しかもこの謝り方ガチなやつじゃん。いたずらした子供が親に怒られて謝るときのやつじゃん。イヤホン難聴が進化してイヤホン幻聴が聞こえただけだよな。


「変な嘘ついてごめんなさい。まさか君がそんなに怒るなんて思わなかったから……」


「い、いや。別に怒っては無いぞ。ただちょっとだけきつく言い過ぎったていうか、興奮しすぎたっていうか、調子に乗ったっていうか」


「………… 」


 ん? なんかおかしくないか。別に僕悪くないよな。きつく言ったっていってもこれぐらい毎日やってるじゃないか。土下座とかリアルで要求するわけないじゃん。いつもなら、土下座なんて半沢直樹でしか見たことないよ、とか言いそうなのに今日に限ってやけにしおらしいじゃないか。


「……だって、わざわざ私の家まで来てくれるっていうのに。……誕生日忘れちゃったから」


 …………。それだけ? 誕生日忘れられたぐらいでキれないよ僕は……キレてるように見えたのかな? いや、でも。え? 本当にそれだけ?


「まさかリサは、僕が誕生日忘れられて不機嫌になったと思ってる? いつもは土下座なんて要求しないのにキレたから言ったと思ってる?」


 いや、土下座は関係ないか。

 しかしリサは何も言わずにうなずいた。


「……僕は女子かっ!! いじめっ子のリーダー格の女子か!」


 リサはさっきと違う意味でビクッとした。


「土下座はまあ言葉のあやっていうか。てか僕はそんなことじゃ怒らないよ。小学生のときだってうんこしてたら上からトイレ覗かれて、それでも怒らなかった僕がそんな些細なことで怒るわけないじゃないか」


 怒らなかったというよりただ単に怖くて何も言えなかっただけだけど……

 まあ場を和ませるためには小ボケも必要だからな。これで突っ込んでくれたらなお良し。一石二鳥だ。……でも待てよ、二兎追うものは一兎も得ずっていうぞ。うーん、でももう言っちゃったんだからいっか。どうとにでもなれ。


「…………」


 神様。僕は結局一兎も得られませんでした。


「ま、まあ。実はあの問題、上級編だったんだよ。答えられなくても仕方ないよなんたって上級編だからね」


 僕がそう言うとリサは意外にも反応を見せた。


「……ほんと?」


 リサは少し目を潤ませ上目遣いで聞いてくる。

 ぐはぁっ。くそっ、こんなのでやられるなんて僕もまだまだだな。


「もろちっ。ん、ん゛ん゛。もちろんじゃないか」


 危ない危ない。危うく噛んでもろちんって言うところだった。リサに限っては下ネタの方がいいのかもしれないけど、さすがにこの状況ではないだろ。


「ほんとにほんと?」


 リサは上目遣いのまま聞いてくる。


「ほんとだって。僕が君に嘘ついたことなんて数えるほどしかないだろ。だから安心しロッテ」千葉ロッテ、とまでは言わなかった。


 僕がそう言うとリサは両手で目をこすり、


「なーんだ心配して損しちゃった。てっきり嫌われちゃったかと思ったよ」


 なんだか可愛らしいことを言った。僕は正直可愛いと思った。


「嫌いになるなんて大袈裟だな。僕とリサの仲じゃないか。あんなことやこんなことまでしたんだからさ」


「そうだよね。君が私の顔にぶっかけたり、私が君にぶっかけたりした仲だもんね」


「いや、多分。去年行った海でのことを言っているんだろうけど、その言い方は誤解を生む。あれはただ単に青春っぽく水をかけあっただけなんだから」


「ほかにも私のお腹にたくさん出したでしょ。まさか忘れたとは言わせないよ」


 出したってなんだよ。なんでも卑猥な方向に持っていこうとするな。


「あれは本当に申し訳ないと思ってるよ。でもそれも飲んでた缶ジュースをリサにかけてしまったってだけだろ」


「あの後、なかなか生理が来なくて焦ったんだから」


「いやそれ僕関係ないよね! なんでジュースかけただけで妊娠するんだよ! てかさっき処女だって言ってたんだから心配いらないだろ」


「え? やっぱり私とは遊びだったの?」


 うわーんひどいよー、とリサはわざとらしくウソ泣きをした。


「いやどういうことだよ! 論理がぶっ飛びすぎてわけ分かんないよ! 五段位一気にすっ飛ばしただろ! もうリサの頭の中がどうなってるのか誰かに研究してほしいよ!」


「そうかな。私って結構単純だよ。単細胞生物の神って言われてるんだから」


 本人は気づいていないのかもしれないけど、単細胞生物の神ってそれ多分馬鹿にされてるぞ。


「かくゆう私も昔は、ってなに笑ってるのさ。まさか……この後てごめにする気なんじゃ!?」


「しないっつの」


 フフっ、まーた変な事言ってるよ。でもこれでいつも通りのリサに戻ってくれたな。あのままじゃあやりづらいったらありゃしなかったからな。

 それにしたってまさかあんなことで落ち込むとは思わなかったな。意外と気にしいだからな、っていってもあんなリサ初めて見たな。もうこの先見れないかもしれないししかっりと記憶に焼き付けるか。


「えいっ」


 僕が両目を閉じ脳に記憶を焼き付けていると、リサが割りと強めにわき腹を突っついてきた。


「Ohh!? っておいなにすんだよ」


 なぜか外人みたくなってしまったがこの際関係ないだろ。


「君が良からぬことを考えていたからだよ。悪は成敗しなきゃね」


 リサはジト目でこちらを見つめながら言う。


「良からぬことってなんだよ。ただ今日の晩御飯はなにかなーって考えてただけだよ」


「いーや嘘だね。私が落ち込んでた時のこと忘れないようにしてたんでしょ。私って滅多に落ち込まないからさ」


 こいつ僕の基本情報は知らないくせに、心の中は読めるのか。もしかしてエスパーかもしれないな。頭いいし、人当たりもいいし、ちょっと変わってるし。……適当に言ったけど案外ありえそうで怖いな。ちょっと聞いてみるか。


「リサってもしかしてエスパー?」


 僕がそう言うと、リサは目を見開きこちらを見てきた。

 嘘だろ? 本当にエスパーなの? てかもう俺がエスパーなんじゃないの?


「君ってアホの子なんだね。どうしたら今の会話から私がエスパーだという結論に至るの?」


 ああ、そっちね。大暴投したことに驚いていたのか。


「場を和ませるためだよ。和んだろ?」


 苦しい過ぎる言い訳は最早言い訳にすらならなかった。

 でもリサはとても優しそうな目をしている。


「うん。そうだね。確かに和んだね。君はすごいな」


 リサはうんうん頷きながら拍手している。


「やめろ。同情するんじゃない。その憐れみの視線は人を殺すことも出来るんだ。だから、同情するなら蔑んでくれ。僕にはそっちの方がいいから。いや、むしろそうしてくれ」


「君は一度死んだ方がいいのかもしれないね。そこまで性格が捻じ曲がるなんて私の責任でもあるんだから。だから一緒に死のう」


「いや、なんで二人で死ななきゃいけないんだよ! この会話だけ見たら完全に無理心中する前の親子だよ! ここだけ聞かれたら絶対に勘違いされるよ! てか死ぬなら僕一人で死ぬよ! ……死なないけどね!」


 リサは僕を見つめていたが、しばらくするとなぜか僕に対して敬礼した。


「いや、なんで敬礼してるの! 死なないからね、僕まだ死なないからね! まだやりたいこともあるんだから!」


「へえー、なにやりたいの。赤ちゃんプレイとか?」


 さっきまでの話との落差がひどいな。耳キーンなるわ。


「やりたいことかぁ。とりあえず話したいよ『うたわれるもの』について」


「そういえば君その話をするためにこっまで来たんでしょ。ほんと君っておっちょこちょいだなぁ」


 お前が話を盛大にずらしたからだろーが、とは決して口に出さない。言ったら絶対にまた話がそれるから。


「いやー、僕ってばほんとおっちょこちょいだなー。リサが言ってくれなきゃ忘れちゃうところだった」


 棒読みっぽくなってしまったが僕の演技力ではこれが限界だった。


「自分で自分をおっちょこちょいだっていう人って大体信用できないよね」


 リサはそう言って嫌味ったらしく下からのぞき込んできる。


「それに演技力。もうちょいつけたほうがいいんじゃない? 私みたいに」


 !?まさかこの女、さっきまで落ち込んでたりしてたのも演技だったというのか。そんな馬鹿な。あの上目遣いは完璧だった。あれが嘘だなんて信じられるものか。……いや待てよ。完璧、過ぎるんじゃないか? あのシチュエーションであの上目遣い。あれでドキッとしない男はいないだろう。でも、ああなることを見越してやっていたとしたら……


 僕は色々とさらなる意味もあるのではないかと疑い、リサのほうをチラッと見た。


 なっ!?!? 笑っている!? あの笑みはただ馬鹿にしているのではなくもっと深い意味がある。それは――あら、今頃気付いたの? やっぱ君って鈍感だね。だ。

 そういう意味があるに違いない。これは僕の思い込みなんかではない。なんかの本で見たことあるんだ。……やっぱりないかもしれないけど。


「そんなに考え込んでないで早く続きを話してよ。獣人が住んでるってとこまで話したはずだから」


 そんな僕を尻目にリサは能天気に言う。

 考えいても仕方ないか。それより今は『うたわれるもの』だ。


「獣人って、別に見た目は普通の人間でそれに動物っぽい耳や尻尾が生えてるだけだよ。だから獣人とまではいかないんじゃないかな」


「ああ、そうだったの。ちょっと勘違いしてたかな」


「かな、といえば『偽りの仮面』に出てくるヒロインの口癖が、~かな。なんだよね。それがもう可愛いんだよ。声優さんの声も可愛くてさ僕声フェチだからもう癒されまくりだったね」


 いやーほんと、特にカミュの声なんて可愛すぎて飛ばさないで全部聞いてたもんな。僕が記憶に思い出を馳せていると、リサが茶々を入れて来た。


「真っ赤なリンゴ。とかアルカナ、とか?」


 意味不明だ。


「どうして文末じゃなくて、単語の中に入れたのかは分からないけどそうじゃないよ。それに真っ赤なリンゴが口癖のヒロインはどうかと思うけどな」


「個性的でいいんじゃない。お前もこの真っ赤なリンゴのように握りつぶすぞ、みたいな」


「そんな個性ならつけないほうがましだよ。確かにあの世界の住人は現代人よりも強いって設定だけど、あくまで身体的にであって精神までは凶暴化してないよ」


「ならあながち間違ってないじゃん」


「根本が違うんだから間違ってるよ」


 あきれ顔の僕をよそにリサは話を続ける。


「でもそういう嫌なキャラもいるんでしょ? 力をひけらかして色々やってくるやつ」


「そうそういるんだよ。とびっきりのウザいキャラが。デコポンコっていうんだけどまじでむかつくんだ。才能もないくせに役職だけは八柱将っていうすごい役職についているから、勘違いして自分が偉いと思い込んでいるんだ。製作者的にはそれが狙いなんだろうけど、あいつはまじで嫌いだね」


「でもそんな無能なら、どうして八柱将になんてなれたの?」


 む。そこに気が付くとは鋭いな。


「お父さんがすごい人だったんだよ。でね、死ぬ前に帝に自分が死んだら息子を八柱将にしてくれって頼んだんだ。その頼みようが余りにも必死だったから帝も断れずにデコポンコを八柱将にしたってわけなんだ」


 リサは少し感心してるように見えた。


「意外と深いんだね。君が楽しめたっていうからてっきり脳みそ停止させても楽しめるゲームなんだと思ってたよ」


 言い方が。言い方がいちいちひどいんだよリサは。もっとオブラートに包んで小学生でも理解出来るゲームとか言って欲しいな。……いやそれはそれで傷つくか。


「他にも魅力的なキャラがいっぱいいるんだよ。仮面の者(アクルトゥルカ)っていって帝から仮面アクルカを与えられた人達で、全部で四人いるんだけど『二人の白皇』ではハク、ああハクは主人公の名前ね。がそのアクルトゥルカになるんだ。その経緯がまた泣けるんだよ。」


「へえー。ちょっとだけ興味が出て来たかも」


「よく今まで、ちょっとも興味無い話を聞いてくれたな」


「君と話していると楽しいからね」


 僕の話がじゃなくて僕をいじるのが楽しいってことなんだろうな。


「それは光栄だね。で、そのアクルカの力を開放するにはそれぞれ決まり文句を言うんだけど、ハクは、アクルカよ扉となりて根源への道を開放せよ、って言うんだ。かっこよくない?」


「うん。中二病っぽいけど、確かにかっこいいね」


「さすがリサは分かってるなあ。このかっこよさが分かるのと分からないのじゃゲームを楽しめる度合いが全然違うからね」


「男の子はみんな好きそうだよねそのセリフ。……なにもしかして家でそのセリフとか練習したりしたの?」


 リサがにやけながらこっちを見てくる。図星なだけに否定しづらい。


「まあ多少はね。リサだって小さいころとかプリキュアの真似とかしたんじゃないか?」


「確かにしてたけど、あれは幼稚園とかそのぐらいだっただけであって。高校生にもなってやってるのは多分君くらいだよ」


 そんなことないだろ。絶対隠してるだけでもっといるはずだね。でも好きなセリフとかついつい口に出して言ってみたくなるんだよな。


「それは置いといてだよ。アクルカってのは命を削って力を手に入れるものなんだ。だからあんまり使いすぎると死んでしまうんだよ」


「じゃあ、ハクがアクルカの力を使って死にそうね。なんかありきたりじゃない?」


「……そうだけどさ。そうだけれどもさ。そこに至るまでが感動するんだよ。もう言っちゃうけど、最後にハクはラスボスを倒すためにアクルカに自分の命を全部捧げてすごい力を手に入れるんだ。でもその代償にハクは死んでしまうんだけど、ここもまた泣けるんだよ!

 言ってなかったけどハクにはみんなに黙ってた秘密があるんだ、でも最後の最後でその秘密がみんなにバレるんだよ。しかもそこで初代PSP版のED曲が流れるわけなんだよ、そこで僕の涙腺は崩壊したね。あれはもう天才の所業としか言いようがないぐらいに完璧だったね。僕もあんな風に人を感動させられたらなって思ったよ」


「君の話じゃいまいち感動出来そうにないけどなんとなく面白いんだなってことは伝わったかな」


「って、僕の頑張り全否定かいっ!」


 今日一のツッコミだった。思わず左手も動いてしまう。

 まあ、確かに伝わりにくかっただろうけども、もう少し誉めて欲しかったな。


「いやでも、君がそんなになにかについて熱く語っているところなんて見たことなかったから、なんだか貴重なものが見れた気分だよ。それより、わざわざ送ってもっらてわるいなぁ」


 どうやらリサの家まで着いたらしい。周りにも家が建っていていかにも住宅街という感じだった。近くにコンビニなんかも建っていて便利だなーと思った。


「これはなんかお礼をしないと、私の気持ちがおさまらないなぁー」 


 そう言うとリサは、あらかじめ考えていたかのようにはきはきと言った。


「そうだ! 明日お弁当作ってきてあげようか? うん。そうだ。そうしよう」


 リサは僕の同意なしに勝手に決めてしまった。いや、もちろん作ってもらうのは嬉しいのだが、僕なんかのためにいいのだろうか。

 リサの隠れファンクラブなんてものがあると聞いたことがあるし、意外と人気高いからな。男子からも女子からも。


「んん~。なんか悩んでるようだけど。まさか(‘ ‘ ‘)、この私が君のためにお弁当を作ってあげようと言っているのにいらないとか言わないよね?」


 リサの背後からは何かしらのオーラが出ているように見えた。

 それにしても威圧感がすごいな。こんなのいらないなんて言えないじゃないか。いや何度も言うけど欲しいことは欲しいんだからね。


「そんなこと言わないよ。でも普段のお弁当ってお母さんに作ってもらってなかったっけ?」


「さ、最近は自分でも作るようになったんだよ」


 なぜそこでどもる。


「ちなみに得意料理は?」


「と、得意料理!? そうだなー、目玉焼きかな」


 多分目玉焼きを弁当箱に入れたら他のおかずが黄身まみれになると思うんだが。


「目玉焼きって。お弁当に目玉焼き入れてるやつなんて見たことないぞ」


「違うよ! 卵焼きはいま練習中なだけで、もう少しで完璧なんだから!」


 ……俺は明日完璧ではない卵焼きを食べなければならないのか。少し不安になってきたぞ。


「……そんな不安そうな顔しないでよ。大丈夫だから。卵焼きなんて失敗しようがないんだから」


 そうだよな、卵焼き作るの失敗したなんて聞いたことないもんな。失敗しろってほうが難しいレベルだろ。


「……いざとなればお母さんに作ってもらえばいいし」


「え?」


「いやいや、なんでもないから。大丈夫。大丈夫だって。明日楽しみにしててって」


 明日学校休もうか。いや、そんなことしたら次会ったときになにされるかわかったもんじゃないからな。ここは覚悟を決めるしかないだろ。いまこそ男を見せるんだ、コウタ!


「ああ、楽しみにしてるよ。で、胃腸薬はついてくるの? って痛いな、なにすんだよ!」


 いきなり殴るのは反則だろ。拳が見えなかったぞ。


「それじゃあおやすみね! ばいばい!」


 そう言うと、リサは速足で家の中に入ってしまった。


「……そんな怒んなくてもいいじゃないか」


 そんなつぶやきは、誰にも聞こえないほど小さいものだった。もちろん僕以外誰にも聞こえることは無かっただろう。

 あ、そういえば誕生日教えとけばよかったな。ま、いっか。



 次の日、約束通り作ってきてくれたお弁当はオカズがとても色とりどりにきれいに入っていた。少し焦げ付いて黒くなっている卵焼きを除いて。

 でも僕はそんな不格好で見た目もお世辞にはいいと言えないけれど、一生懸命さは伝わってくる卵焼きの味が一番好きだった。



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