作戦会議
久々の娑婆だ。今まではゲーム世界という檻の中に閉じ込められていたが、今は開放感に満ち溢れている『リアル』にいるわけだ。
ゲーム好きなら誰でも思ったことだろう。この理不尽な『リアル』なんかで生きていくより、自分はゲームの世界でモンスターと対峙していたほうが幸せなんじゃないか!なんて.......。
「いざゲーム世界に囚われてみるとそうでもなかったんだよなぁ.......」
ゲーム世界というのも楽しかった。だけど向こうの世界は創り上げられた世界と思う意識が強く、親近感というものが持てない。
「やっぱりリアルが一番だよなー........」
今俺は家から1キロ程離れた公園に来ているが、何もかも昔のままだ。最後にここに来たのは2年前だが特に変わったという風景もない。
「かわってねーなー。なにもかも........」
ここでふとあの世界のことが頭をよぎる。リアルとは違い、たった8ヶ月程で俺たちに環境は劇的に変わっていた。
姉貴は戻ろうと思えば戻すことは出来ると言っていたが、もし戻れなかったらあいつらは順調にエリア攻略を出来るんだろうか.......。もし出来なかったらあいつらは一生この空気を吸うことができないのか.....。
「なんで俺は戻って来ちゃったんだろうかなー......」
思えば俺はあまり役に立ってなかった。攻略組に誘われたが入ることはせず、ただただ自分のレベル上げに勤しんでいた。俺は逃げていただけじゃないんだろうか?自分とは違うノーマルプレイヤー達から嫌われることを。チーターだとバレる事を。口では『バレても関係ない』と言っていたが心の中では『バレたくない』のほうが強かったはずだ。
俺の昔の夢は皆を救うヒーローになる事だった。
「いちいち考えていても仕方ないよなー。」
俺は公園を出て家に帰ることにした。
ボスレイドはチームやパーティーを組んで攻略するものだとばかり考えていたが、別に強制という事ではない。俺が一人で討伐しちまえば全部終わるじゃないか。ボスレイドは......
「いや待て。一々ゲームを攻略する必要なんてないじゃないか!」
そうだ。なぜ気づかなかったのだろうか。 俺はゲームをクリアしてみんなを救うという事だけにとらわれ過ぎていた。
「押してダメなら引いてみろ。ならぬ、中がダメなら外攻めろ。か.......」
いや、別に中が外がと言っているが、決して下ネタではないからな。うん。
外部からハッキングをすればいい。ゲーム自体をクリアに導くのではなく、全プレイヤーをゲームオーバーにさせれば良い。
良い作戦をおもいついてしまった。俺は家へと急ぐ。
「ただいまー。」
「おかえりです!」
由紀が出迎えてくれる。
「決心はついたか?」
「姉貴。俺、この世界に残る。」
姉貴に問いかけに即答する。
「それでこそ俺の弟.....ってちょっと待て!」
姉貴が言いかけた言葉を止める。
「お前は.......一人だけ逃げるのか......?」
やっぱそういう反応になっちゃうよな。
「別に逃げるわけじゃない。俺はあの世界には戻らないといっただけだ。
姉貴は困惑しているようなので、取り敢えず......
「由紀。一度席を外しててくれないか?」
「わかったです!」
由紀がキッチンへ戻り、俺と姉貴だけの状態になる。
しばらくすると姉貴が口を開いた。
「まぁ、まずは俺の作戦を説明しようか。」
「OK、よろしく。」
「もう準備はできているんだが、俺は今からロクサスノーツの運営システムにハッキンングして、俺のパソコン自体に運営権限を付与する。そんでもってお前のプレイヤーIDにかかってるBANを解除してその後は......」
「待って!そんなことをするなら俺の作戦のほうが簡単で効率が良い。」
姉貴は驚いているがそのまま続ける。
「姉貴がシステムにハッキンングするのはそのままだけど、運営権限解除後に全プレイヤーを一斉にBANにして欲しい。いちいち俺のBANを解除するより、先に他のプレイヤーも俺と同じ状態にするんだ。」
これが俺の考えた作戦。BANをくらった場合、強制的にリアルに戻される事を使った方法だ。
「だが、それでもしリアルに戻されなかったらどうする気だ?」
「その時はその時でまた考えればいい。」
「計画性がないな。」
「それでこそ俺の弟だ。だろ? 」
「それも.....そうだな。」
姉貴は苦笑いをしたかと思うと自分の部屋に帰っていった。
「さて、最終決戦といこうかゲームマスターさんよ。」