チーターvs突然の帰還
まったくなんてこった。
昨日は嫌なバグにあってしまった。いきなり目の前がブラックアウトしたかと思うとなぜかベッドの上に寝ている。
そして横には医療用の器具.......。
「ここって......俺の部屋だよな.......?」
間違えるはずがない。大量のラノベと漫画が綺麗に整頓してある本棚。モニターを3枚用意したゲーミングパソコン。高校になって新調したベッド。天井には、アニメ『フレーム☆チャンス』のヒロインが......
いや待て、俺はあんなポスター天井に貼った覚えがない!
「うっ!」
起き上がろうと思っても全く力が入らない。約半年は寝たきりだったのだから仕方ないことなのかもしれないが。
「はいるのですよ?」
可愛らしい....とは言いたくないが、声が聞こえた。俺の部屋に入ってこようとするのがわかる。
特に理由はないが寝たふりをする。
「って言っても返事は返ってこないのです......」
神崎由紀、10歳。我が自慢にもなりそうにない妹だ。なぜ妹なのに苗字が同じではない理由は.......察してくれ。
由紀はとても良い子.......だと思う。普通にしていれば可愛いと思うのだが、一言で言えば少しぶっ飛んでいる。
今日だってそうだ。
「お兄ちゃんが居なくなって1年が経っちゃいましたです.....」
まだそんなに経ってない。今日の日付は9月3日だから逆算すれば8ヶ月と17日だ。
「取り敢えずいつもみたいにお線香あげておくです」
嘘?いつもみたいにって毎日お線香あげてるの?俺はまだ死んでないんだけど......。
そこで由紀が取り出したのは......お菓子のプリッツだった。
プリッツにライターで火を着けようとしている。
「火がつかないです.....」
まぁ....頑張れば着くこともない訳ではないが......。
いや、ついた所でどうするんだよ.....。
「なんで毎回着かないんです?お姉ちゃんがやった時にはちゃんと着くです.....」
うん。それ騙されてるわ。あの姉貴だもんな。
てか、普通気づくだろう!毎日プリッツに火着けようとしてたら。
「仕方ないです......」
すると何を思ったのかプリッツの先っぽを口に咥え、俺の顔に近づいてくる。
「おにいひゃんといっひょにはえうえふ....」
何言ってるかさっぱり分からん。
でもヤバいドキドキしてきた。妹にドキドキするのもどうかと思うが......仕方ないよね!だって!男の子だもん☆
由紀が何気ない動作だが片耳に少し垂れていた髪をかける。まじでアニメっぽい。これが世に言うプリッツゲームなるものか!素晴らしい!!
ここまでは......。
よく考えてみろ。俺は唇を閉じて、歯も閉じているため口の中にプリッツが入ることは到底ありえない。
口が開いていたとしても、喉にそのまま突き刺さるはずだ。
すると結果的にはこうなる訳だ。
「いってぇぇぇぇぇっ!」
右鼻の穴に入った。ズッポリと。非常に痛い。
由紀は俺の声に反応したのかプリッツを口に咥えたまま後ろに飛び去る。
俺は常時枕元に置いてあるティッシュ......枕元に常時置いてある理由は......察してくれ。
それを数枚取り、一気に鼻をかむ。赤い何かも一緒にでた。
「鼻がぁ!まじで痛えぇえぇぇ!」
「おおおおおおお兄ちゃんがぁ!お兄ちゃんが!!」
俺も俺で半発狂状態だし、由紀も由紀であわあわしていて何がなんだか分からなくなってきた。
「うるせぇな.......あれ?生き返ってんじゃん。」
「まだ死んだわけじゃねーだろ!」
ここで俺の部屋にもう一人乱入者参上!
ショートカットの髪を赤に染めているジャージ......一見して男に見えるがこいつが俺の姉、岡田勇気だ。23歳独身。名前と容姿からして兄に見えるかもしれないが、姉だ。 これでも務めている会社ではそれなりに人気がある。
女性からのみだが。
「いやーまさかこんな早く帰ってくるとわね〜.......ってあんた、なーに鼻血なんか出しちゃってんのよ。」
「いや......いろいろわけがあってだな......」
「ふーん......」
うわー。すっごいジト目!
「でもあんたが復帰してるってことは当然他のプレイヤーも復帰してるんじゃねぇの?そういう報道一切聞いてないけど。」
「たぶん違う.....もしかしたらリアルに返されたのは俺だけかもしれないかな。」
あの時クリアしてたエリアは36エリアまでだ。クリアまで全然程遠い。
「で、でも!良かったのです!お兄ちゃんが帰ってきて!もう目覚めないって聞いた時はびっくりしたです!」
「それ、誰から聞いた?」
「お姉ちゃんです....ってあれ?いなくなっちゃったです。」
いつのまにか姉貴は居なくなっていた。
「とりあえずご飯にするです!!今日はお兄ちゃんと久々に食べれるからいつもよりがんばって作るです!!」
そう言うと階段降りて下へ行ってしまった。
「怪我.......しないといいな......」
「いやぁー行ったかー。」
姉貴が俺のクローゼット中から出てくる。
「あいつに説教されるのだけまじで勘弁だからなー。」
「お前.....!俺のクローゼット!」
「ん?あー......。まぁ.......あれだ......お前のクローゼットの中に入ってたちょーーーっとエッチはゲーム達には全く目もくれてないから安心しとけー。」
「見てるんじゃねぇか!」
「いや!これは少し前にあの天井に貼り付けてあるのをゲットするためにだな!」
「やっぱあれ貼ったの姉貴かよ!」
ふざけんなよ!あんな風に貼り付けたら.....なんだ.......そのー......
あのキャラが可哀想だろ!
「そんなことはどうでもいいだろ!本題だよ。ほ・ん・だ・い。」
「いや......結構大切なことだと.......」
「まず、なぜ現実世界に戻ってこれたかだ。」
こいつ.....人の話を聞かないタイプだな。知ってたけど!
「戻ってこれたんじゃなくて追い出されたんだ。」
「追い出されたってことはBANか?」
「まぁそうだろうな.......」
BANか......確かにそうだな。いきなり視界が真っ暗になるのがVRMMOでのBANなのかも知れない。今までVRMMOでもBANをされた事が無かったので全くわからなかった。
「運営にチートがばれたか?ヘッタクソだなーお前。」
「いや、ばれたも何も実際にGMに会った。」
「へぇー。実際にGMも入ってんだ。」
「うん。でもあの時にペナルティは受けたはずなんだけど.......」
俺一人じゃなくて、全プレイヤーが受けたけど。
「ふーん.......」
またジト目かよ
「ま、正直なところあんたがBANされた経緯なんてどうでも良いんだよな。問題は、お前がどうしたいかだ。」
「どうしたいかって言うと?」
姉貴は少し考えたうえでこう言った。
「俺の弟なら自分で察しろ。」
そう言うと姉貴も部屋を出て行ってしまった。
「察しろって言われてもな.......」
我が家では「察しろ」で何でも通るので、面倒くさい回答は全て「察しろ」で終わらせている。
あの世界に戻るか、戻らないか。だろうなー。
でも一旦入っちゃうとクリアするまで出られない訳だし。
「まずアカウントがBANされてる筈だから戻ろうにも戻れないだよなー。」
今は午前9時36分14秒少し過ぎた所か。
「動けるかな?」
ベッドから起き、立ち上がってみる。
「立つことに関しては問題ないな。」
別にそこまで痩せほそってしまった訳ではないので普通に歩くこともできた。
「ちょっと.....外にでも行ってみようかな......」
由紀に昼までには戻ってくることを伝え、俺は外へ出掛ける事にした。