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神曲  作者: 不肖。
2/2

後書きにも続きます。


自殺。

神が定めた最も酷い悪行。

自殺した者は現世の行いに関わらず地獄の底"常闇"にて永久にその痛みを繰り替えしてゆく。



「由香里さんは貴方を失った喪失感から、投身自殺をしてしまいました。今は地獄の底で永久に投身を続けています」

天使が溜息混じりに言う。


優太は耳を疑い、自らの不運を呪った。

まさか自分に対する由香里の愛情が裏目に出て罪人と成ってしまうとは。

優太の頬に一筋の涙が流れた。


「地獄に行った者への酌量は無理です。あちらへ行かれた方を連れて来るのも勿論、不可能」

絶対の直中に倒れ込む優太を見下ろしながら天使は言った。




それから後、優太は天国の中で一番大きな悲しみを抱えた男になった。

優太の由香里に対する愛情は本物である。

彼女が今も汚され、自分だけが純白な天国に暮らしている事がどうしても我慢出来なかったのだ。

神様や天使達も彼の悲痛な叫びに胸を痛めていたのだが、どうする事も出来なかった。



「由香里さんに会う方法があります」

そう言ったのは、優太に由香里の死を告げた天使だった。

彼女は自分が由香里の死を伝えた事への罪悪感を感じていたのだ。


「地獄と天国を繋ぐ穴があります。しかし、墜ちたら最後。二度と天国に戻る事は叶わず、貴方は地獄の淵を永久に彷徨う事になります」


神様と相談した苦肉の策だった。


しかし、優太は彼女の言葉に恐怖は一切抱かず、逆に由香里に会える可能性を示してくれた事に感謝を述べた。


「何故、貴方はそこまでして由香里さんを求めるのですか?」

 

 

「愛する妻との離別は不幸。この苦しみを抱いたままの彼女と逢えない永久の安らぎに、私は少しの魅力も感じない」


「ですが、由香里さんが貴方を認識する事は出来ません。貴方が彼女に話しかけたとしても、それは離別と何等変りの無いものではありませんか?」


優太は言う。



「愛する女を守れなかった私に、何故天国に止まる資格があるのか」



その時天使は気付いた。

最早彼は優太ではなく、"由香里の夫"だったのだ。

彼が並べたのは妻に対する罪悪感と愛情、そして自らへの憤りだったのだ。



「愛する女ひとり守れなくて、何が男だ」

もう一度優太は呟き、地獄に続く穴に身を投じた。



後に神はこう語る。

「何故彼が天国を捨てたのか、私には分らない」


「しかし、彼は偉大である。彼の内なる何かは確かに天国と地獄の境を越えた」



「自らの幸福を捨てた究極の自己犠牲であった」と。




後に天使はこう語る。

「彼の彼女に対する愛は余りに脆く、死によって阻まれた」


「しかし、それはとても美しかった。そして同時に純真で、とても強い光だった」と。




優太は自らの幸福を捨て、由香里を想った。


後に人々はこう語る。

「誰かを想う気持ちが人を越えた」と。

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