【赤銅の国】鰻道
私は赤銅の国を旅する途中、ポンコとコンタの二人組のお供をすることになった。
ポンコには未来を見通す力があるらしく、なんでも未来に見た絶景を探し旅をしているということだ。それは語るに尽くせない場所で、それほどの絶景ならば誰かが噂にし絵画にしているだろうというわけで各地を巡っているらしい。
道中で三叉路に差し掛かった。左右の道はどちらも次の街につながる道で、左は平坦だけど回り道で日数がかかる、右は短いが険しい山道となっている。
「お姉さん、私は平坦な道を進んだ方がいいと思います」
「オレは山道を通ってさっさと抜けた方がいいと思うぜ」
ポンコとコンタは正反対のことを言い、お互いに敵愾心を燃やしながら私の方を見た。
『どっち!!』
二人は意見が対立するとすぐ私に判定を求めてくるのだ。出発前に饂飩と蕎麦の店に寄った時もそう。コンタは饂飩をポンコは蕎麦を推し私に勝敗の判定をさせるのだ。その時はたまたま品書きにあった油麺を頼むことで丸く収まったのだが、彼等に別々のものを頼むという発想はないものか。
「えーと、二人とも相談してどっちかに絞ることはできない?」
『お姉さんの意見がまだです/だ!』
「そだね」
私はどちらから行くべきか考えたが、答えは出ない。それは単純に二人のどちらが信用に足るかという評価を付け直したばかりだというのもある。コンタは手癖の悪い小童で、ポンコは減らず口が達者な小童なのだ。道はどちらを進んでも構わないと思うけれど、ポンコとコンタからどちらかを選んでしまうのはためらわれた。
ひよった私は¬棒〔かぎぼう〕を取り出し、解答を金属器にゆだねることにした。
¬棒を地面に突き立て、手を離す。平衡を失った棒がどちらかの道へ倒れるという単純な仕掛けだ。私の目論見通り棒はひとりでに倒れ私達の行くべき道が示される。
「あ……」
「お姉さんもしかして」
「この期に及んで戻るとか言い出さないよな」
棒の倒れた先は先ほどまで私達が歩いてきた道のりだ。
「待って、誰か来る」
道の先から走ってくる双角の飛脚は肩に棒を担ぎ、その両端に結び付けられた桶を天秤のように釣り合わせている。桶の中には水が張られ、細長い蛇のような魚が泳いでいた。
鰻〔うなぎ〕だ。
「えっさほっさ」
飛脚が近付くと¬棒が震えた。私の直感が告げている、金属器が反応しているのは道ではなくこの男だ。つまりこの男の行く先か――。
「おおっと!」
飛脚が私達を横切ろうとしたその時、彼の体が大きく揺らいだ。石に躓いたのだ。
「しまった、鰻が桶からこぼれちまう!」
「ここは私に任せて」
私は鰻を捕まえようとするが、この魚の胴はぬめっていてなかなか捕まえられない。両手で紐を手繰り寄せるように掴もうとする。だがそのたびに鰻はするりと抜け出してしまう。
「おっとっと」
鰻を追っているうちに私は藪に足を突っ込む。
なんとか方向転換するものの、鰻はまた別の向きへ体をひねって逃げ出してしまう。
「おっとっとっと」
「ちょっとお姉さん、どこに行くんですか!」
ポンコとコンタが私の足をがっしりと掴んだ。
「そっちは空だよ!」
気が付けば私の足は地から離れ宙を浮いていた。
しかし私だってこちらに行きたくて進んでいるわけではない。鰻が空の方へ逃げるのがいけないのだ。
「私だって知らないよ! 行き先が知りたきゃこの鰻に聞いてちょうだい!」