【白銀の国/異界/戦闘】失我界(4/8)
ファヴォニウス王のお触れで行われた水やり大会によって、私は魔術の才を見出された。
魔術というのは金属器があれば誰でも使えるというわけではなく、人によって資質が異なる。その強さが何によって増すかはわかっていないが、一つの魔術が強力な者ならば大体他の魔術でも才覚を発揮するらしい。
ファヴォニウスの屋敷には行列が出来ており、一人ずつ呼ばれていった。領主に呼ばれた者は館の二階にあがり窓から庭の土に向かって如雨露の水をかける。
土の中には種が埋められており、それに水がかかれば種がすぐに芽吹く。力があれば苗はそのまま成長して若木となる。そうして一度に大きな木を育成した者が、魔術の力を持つとわかるのだ。
私が呼ばれた時には既に庭先には大小様々な木の苗が転がっていた。それらは全て水やり大会で使われた種が成長し、投棄されたものだった。
私の番、如雨露は水も入っていない空の金属器であったが、私が口を下に注ぐと下の軟土目がけて雨が降り注いだ。土からは双葉が芽吹き、それは幹と枝を伸ばしながら苗木に成長し、それからも枝を増やし葉をつけ芽をつけ、小さな花が咲いたところでその成長は止まった。私の資質で作れる木は身の丈の倍といったところだ。
私が育てた木は二番目に大きかったもので、一番の木は館の三階を貫く背丈であった。しかし、領主に呼ばれたのは私一人。
ファヴォニウス王アリテルーヴは毛のない皺だらけの顔を持つ犬面の壮男で、片目に透明な金属器の眼鏡をかけていた。
「私より優れた者もいたようだけど、どうして私が一番に選ばれたの」
「物事には常に正しい尺というものがある。それを計り間違えず、正しく算〔かぞ〕え、適当な先に当てはめれば、必ずよい結果へと導いてくれるものだ。そしてわしの計算ではかの者は尺より大きすぎ、君が適任だったということだよ」
私の質問にアリテルーヴはそう返した。
彼の頼みというのは失我界〔シツガカイ〕という異界への探索行。
失我界は巨大な生きた迷宮で、飲み込まれたものは我を失い迷宮の一部となるという。
アリテルーヴの娘バリトレイが失我界に入ったという報せが来たことがこの探索計画のきっかけであり、彼はそこから娘を連れ帰すことが目的だと語った。しかし、それが困難な場所であり、生死の確認だけでも出来れば上々のようだ。
一度入っ出てきたものはいないという話だが、私の魔道士としての資質があればそれも克服できると彼は続けた。
「君に期待することは、今日屋敷で見せてくれたように種を樹に育てること。園芸魔道士としての振る舞いさえこなしてくれればいい。後のことは全て随伴する別のものがやる」
「同行者はもう決まっているの?」
会話の間を縫ってノックが響いた。
「入れ」
「アリテルーヴ様、甥様より返事です」
「ああーーっ! あんたが何でここに……」
書簡を運んできたのは巨体の男だった。背の開いた服に、そこから突き出た黒い背ヒレ。私はこの男を知っている。
「カルオの知り合いか?」
「いや……知らねえっす」
「あれっ」
下男の姿は確かに私の知るザフォールの部下だったが、名前は違っていた。他人の空似だったというのか。
「人違い……かな」
「そうか。同行者については今しがた決まったところだ」
アリテルーヴは書簡の文面を読み終え、めくった獣皮を板に被せ直した。
「君を入れて八名、この場では私とそこのカルオも一緒だ」
「僕もっすか?」
カルオは呆けた顔を見せた。
アリテルーヴはというと、私に対して笑顔を作った。奥の牙を剥くからだろうか、犬面の笑顔というものは怒りに似て恐ろしい。
「ところでそろそろ解答を聞かせてもらえるかな。失我界の探索に君は不可欠な存在だ。受けてくれるかい」
「園芸魔道士の話だっけ……いいよ。受けるよ」
元より断るつもりもなかったが、カルオという男は決断の最後の一押しになった。もしザフォールの部下がとぼけているだけであれば奴の情報を吐かせればいい。そして、彼等と関係なかったとしても、彼等と故郷を同じくしていればこの大陸をむやみに探しまわる必要がなくなるのだ。
***
失我界への編成はアリテルーヴ=ケン=ファヴォニウス王、彼の甥であるルベド=ノトス、犬面の戦士の男が四人、荷駄のカルオ、それに魔道士の私。合計八名の大所帯だ。
異界までの道のりは二頭の犬が引く犬轌〔いぬそり〕に乗り合い進んだ。轌〔そり〕は二人まで座れる御者台と大量の積み荷を積める荷台とで構成されており、荷台の方は麻布製の屋根に覆われている。轌〔そり〕を引く犬は騎乗用にも使われる一般的な大型犬、吐くブレスが熱気の奴だ。
犬は四人の戦士が二人ずつ交代で操り、残りの人員は轌〔そり〕の中で待機する。戦士たちは四人とも古くからファヴォニウス領に居を持つアリテルーヴの忠臣で、斥候、伝令、御者などの用も一通りこなすことが出来る技能者だ。
アリテルーヴは轌〔そり〕に座って腕組みしたまま、落ち着かない表情を浮かべていた。何かをずっと思い悩み、眉間に皺を寄せている。バリトレイの安否がわからない今、不安になるというのも仕方のないことだ。
ルベドは黒地に斑〔ぶち〕のついた顔をにやつかせながら、彼が節々楽しんできた貴族のパーティと賭博の華やかな思い出を矢継ぎ早に披露し、この探索行で得るであろう宝とともに待つ華やかな未来を夢想して語っていた。白銀の国の貴族の華やぎというのは私の範疇にはなかったもので、ルベドが私と似たような齢だというのに彼の語るもの全てが異界の一かけらのように見えた。住む世界が異なるというのはこういうことを言うのだろう。
カルオははじめルベドの囃子役に徹していたが、ルベドが先に飽きて会話の輪から外れていた。私がそのことに気付くとカルオは別の話を切り出した。
「魔道士さんは僕に似た知り合いがいたんですよね」
「知り合いというほどではないけどね」
「その話、聞かせて貰えませんか」
「およそ四月前、私の村に船がついた。そこから出てきた海の民三人は一晩だけ滞在したんだ。それがカルオさん、あなたに似ていたというわけ」
「もういいっす」
「へ? そんなに深い話でもないけれど、まだ話し始めたばかりだよ」
「僕は……その先を知るのが怖い……」
「聞かせてって言ってきたのはあんたじゃないか、それを――」
「園芸魔道士殿」
アリテルーヴが遮った。
「カルオには事情がある。彼はおよそ二月前まで、それ以前の記憶がなくてな。自分の名前すら思い出せぬ状態で内海の付近を彷徨っていたのだ。それを私が見つけ、仮の名と働き口を与えたのだよ」
「そう、僕には記憶がないんす。園芸魔道士さんの知る人はかつての僕かもしれないし、赤の他人かもしれない。それで過去の自分を思い出す手がかりを得てしまうのかと……僕は怖れている」
「思い出すことが怖いってこと?」
「魔道士さんは怖くないのか」
「怖くないよ。たとえ異なる思考で動いていたとしても、それは同じ自分じゃないか」
「…………」
「新しいことに気付くたび、周りの環境が変わるたび、自分の考えなんて変わるもの。昔の自分が今と同じかなんて比べることが馬鹿馬鹿しいよ。私は私」
「僕にはそういう考え、やっぱ出来ないっす。自分の記憶の始まり以前は何もない空白で、そこに記憶を当てはめることそのものが異質なんだ。他人に偽りの記憶を植え付けられるような恐怖……ずっとそれが頭の中を巡っているんすよ」
「恐怖……ね」
私はそこで話を切った。
当てが外れた。奴らに関する情報を一切得られないとは。
アリテルーヴがこの男を同行させたのは私のためではなく、彼のためだったということか。しかし、その計らいもうまくいったとは言えまい。
辛気臭い話は終わり、その後はルベドの傲慢で貪欲なお喋りで満ちる。
失我界は近い。
犬轌〔いぬそり〕の中でみなが緊張と不安と恐怖を抱き探索行の準備をする中、年若き青年貴族の陽気な声がそれを柔らげていた。
***
失我界はファヴォニウス領の北方の森林を半分飲み込みながら蠢いていた。例えるなら山。あるいは血色の土煙。ファヴォニウスの都市よりも巨大で広漠な怪物だ。
私達が乗る犬轌〔いぬそり〕がそれに近付くにつれ細部が明らかになっていく。絶えず伸び続ける血色の壁が動き回りながら出口を作り、また塞いでいく。噂に違わぬ生きた迷路だった。
「ここでよいだろう。では園芸魔道士殿、あれを頼む」
「はい」
アリテルーヴの命令で私は大地に三つの種を撒き、如雨露をかざす。
三つの萌芽が螺旋を描いて絡み合い、一本の太い幹を造った。
「これを伐り戦槌〔いくさつい〕を作る」
「それならいいものがあるよ」
私は万力を取り出し、幹の根元に焦点を当てる。
「第四階梯なる天使シホの御力〔みか〕を集いて、かのものを絶ち割れ無彩の御手〔みて〕よ!」
ばつん!
幹の根元が弾けて出来たばかりの木が倒れた。
「おお、すげえ!」
感嘆の声をあげたのはルベドだ。
「よし、加工に移りなさい」
アリテルーヴの命令で戦士たちが動き出した。
ギザ骨の大刀を巧みに使って不要な枝を落とし、幹を摺り斬り、攻城槌の形へと近づけていく。
戦士でない私達四人はその様子を眺めながら休憩を取っている。
「魔道士殿、先ほどの怪力で疲れていないだろうか」
「すごい力を込めているように見えるけど、使う方は全く力を入れてないから安心して」
「ふむ……ならばいいのだが」
「伯父さん、あれ何に使うんだい」
「そうだな。そろそろ今回の異界攻略について説明しようではないか。失我界は絶えず伸び続ける壁が中に入った人を惑わせる世界。闇に包まれた道と延々と続く同じ風景、そして無数の袋小路が囚われた人々の脱出を阻み、心を砕き、世界の一部に取り込むのだ。それを攻略するための隠し種があの戦槌〔いくさつい〕だ。これで壁を壊して目的地まで直行する」
「目的地といってもあてはあるの」
「ああ、バリトレイに持たせた魔道具と私の持つこの魔道具は共鳴している。魔道具の針が示す方向が目的地だ」
アリテルーヴは円形の金属器を出した。その金属器の上半分は透明な金属で出来ており、中で棘が震え動いている。いや、棘が動いているように見えるのは金属器の器が動いているからで、棘は一定の姿勢を崩していない。指し示す方向は迷路の先。
「回しても棘はいつでも目当ての方向を向くんだねそれ」
「そういうことだ」
話をしているうちに攻城槌は完成した。
槌は四人がかりで抱える巨大なもので、先端は地を衝くよう平らに磨かれ、縄で縛りあげられた部分が持ち手となっている。これを持つのは当然のように戦士達だ。
「よし、行くぞ」
私達は荷をまとめて失我界の入口へ、そのまま出来たばかりの槌の試し打ちとなった。戦士達の両手は塞がってしまったものだから、荷運びはほぼカルオ一人となっている。私も手伝おうとしたが、アリテルーヴに制止される。「魔道士殿は体力を温存しておいてくれ」と、そればかりだ。貴族二人は当然荷運びなど手伝わない。私も王に従った。
***
失我界の壁は間近に見るとほとんど止まって見える。というのも、壁の最先端だけが伸び続けているだけなのだ。先端からは硬い石晶が樹の枝のように飛び出し、それらが重なり、一つの壁を形成していく。時には曲がり、分岐していくがその過程はそれほど早くなく、壁によっては途中で成長をやめてしまう。そうして出来た壁は一定の幅を保っており、誰かが手をかけて進める石の編み物のようであった。
遠目に動いて見えたのは、その先端部があるだけ見れたからに過ぎない。私達の立つ地上より上でもその営みが行われているのだが、近付いてしまえば二階より上は見えなくなってしまうわけだ。
「ここがいいな。やれ」
アリテルーヴの命令で、攻城槌が壁に激突した。
ずんっ! ずんっ! がんっ!
鈍い音を立てて壁を叩いた槌は、三度目で失我界の壁を突き崩した。
血色の石晶はがらがらと崩れ、槌を引き抜いた隙間からどろりと液体が漏れて水溜まりを作った。
「ふむ……」
アリテルーヴは壁に近づくと、片眼から光を壁の穴に向けて照らした。あれはずっと目に嵌めていた金属器の力か。
「中も見えているな……。やはり報告通り壁は薄いようだな。では計画通り、これより失我界の探索を開始する」
ここからは同じことの繰り返しだ。戦士達が攻城槌で壁を崩し、人が通れる広さになったら進む。アリテルーヴの金属器が先を照らして、また壁に当たったら攻城槌で壊していく。無数に開かれた脇道は一切無視して私達は直進した。
隊列は概ねアリテルーヴと戦士達が前を進み、中にルベドと私、殿〔しんがり〕がカルオとなっていた。光源はアリテルーヴの他はルベドとカルオが松明を持ち歩いており、後ろの方がやや明るくなっている。
ちなみにこれらの松明は槌を作るときに残った枝に、ストリゲスの燃える水を吸わせた獣皮を巻いて、火をつけたものだ。二、三刻は保つだろう。
ルベドは始めは無言で行軍に着いていったが、壁を壊すときにしばらく待つものだから退屈になったのだろう、脇道を照らしたり踏み出したりといった奇行が目立ち始めた。
「宝はないかー! 人はいないかー!」
光も音もなく、奇妙な壁の臭いに包まれた迷路の中にルベドの声が響く。
これに対して前方の壁を壊し続ける五人は先に進むことだけに執心している。
私は足止めしてその脇道を気にかけるが、後ろのカルオは気にせず先へ進む。
「ちょっと……勝手にいなくなっているけど大丈夫なの?」
「甥さまなら問題ないっすよ。明かりもあるし身軽だ、それにああ見えて臆病っすから何かあればすぐに戻ってきますよ。あと後ろ……壊れた壁も一直線にずっと続いているみたいっすから迷っても戻るのは簡単でしょう」
「うわーっ!」
ルベドは叫び声をあげながら戻ってきた。
「影の化け物だ!」
ルベドの指す脇道から音もなく影が現れた。それは首がなく頭と胴体が一繋ぎになっていることを除けば概ね人の外形をなぞっており、頭には二つの白く光る石の瞳がついている。そいつらは目以外は半透明な墨で満たされた濁り水のようであり、ぶよぶよと外観を変えながら近づいてきた。
「こちらもだ」
前の方では壁と天井の角で水膨れが大きくなり、頭と両手を下にだらりと下げながら、似たような影の化け物が落ちてきた。地に落ちた影は水溜まりを作った後でせり上がり、人の形を取った。
影の化け物は前に五体、後ろに四体。
「どうやら囲まれてしまったようだな」
冷静に語るアリテルーヴの横で、戦士達が攻城槌を投げ出して骨剣や陶槍を構えた。「俺達の出番だな」とか「久々に暴れられるぜ」などの戦士達の活気づいた声が飛び交い、辺りが一気に騒がしくなった。
後ろの方ではルベドとカルオが影人と対峙して私を隊列の中央へ下げる。二人は松明を影人へ向けて警戒しながら、ルベドは短刀を、カルオは石斧を準備した。
私も懐から投石紐を取り出して身構えた。足元の手頃な石を探すが、使えそうなものは壁を作っていた石晶くらいで、血色の液体でべとべとになっているものばかりだ。
影の化け物達は私達を囲むように位置したまま、体を震えさせた。
影の胴体は木の洞〔うろ〕のように穴となり、その表が波打ち低い音を奏でてくる。
『ワタシハ……ダレダ……』
それは化け物達の嘆きに聞こえた。
「あれは影人〔カゲビト〕、この失我界に取り込まれてしまった人間の成れの果てだ。我々も同じようになりたくなければ切り抜けるしかない! いくぞ!」
アリテルーヴの喚声を皮切りに戦士たちがまず動いた。
「おらあっ!」
槍が影人の腹を貫いた。
「なっ、こいつ……手ごたえがない!」
貫かれた影人は動じず、手を蔦のように伸ばし飛び込んできた戦士を掴もうとする。
「下がれ! 俺がやる!」
一人目の戦士は下がり、入れ替わりに二人目が前に出ると影人の腕を剣で薙ぎ払った。影人の手は真っ二つになり、胴に繋がっていない方は零れ落ちた水のように地へ落ちて黒い水溜りとなった。
「剣を振るだけで簡単に切れるぞ!」
「これならどうだ!」
別の戦士が槍を払い打撃する。しかし、その一撃は影人の体に弾き返された。
「くっ……槍で対処するのは厳しいぞ」
「突くのも叩くのも駄目となれば、斬るのが一番。一刀両断!」
跳躍した戦士が影人の一体を左右真っ二つに切り裂く。その一閃で影人の胴体が崩れて水溜りとなった。
「うおらああああ!! 俺だってやってやるあああ!!」
ルベドは後ろの影人に飛びかかった。短刀は影人の額を貫く。
しかし、影人はその程度の傷意に介さず、両手を伸ばしてルベドを捕らえた。
「うわ、くそ、離せ!」
ルベドは影人に持ち上げられながら暴れる。
「ルベドくん!」
これは黙ってみているわけにはいかない。
私はべたべたの石晶を拾い投石紐に装填し、ぶんぶんと振り回し始めた。そして、投石紐を振り回しながら詠唱を加える。
「燃えろ燃えろ燃えろ、我が体に流れる炎の生気を吸いて路傍の石よ燃えさかれ。私が手ならば、おまえは爪よ、切り離された主を顧みてその気性おまえの体に焼き付けろ」
私の言霊が回り続ける石に移り、石は炎を帯びる。
「――焼〔あぶりや〕け!」
最後の一言とともに私は紐を影人に向けて放った。
勢いよく飛び出した石晶は炎を纏い影人に飛んでいき、そして胴体に命中した。すると影人の体は燃える水のように勢いよく燃えさかった。胴体は炎の勢いと共に溶けていき、ルベドを掴んでいた腕は火が燃え移る前に崩れて黒い水溜りとなった。
ルベドは四足になりながら素早くその影人から離れた。
「魔道士殿やめろ! 貴方は何もしないで見ていなさい!」
突然飛んだ声に、後ろの三人は目を見開いた。ルベドが私に軽い礼をしようと振り向いた時、アリテルーヴが叫んだのだ。
なんだなんだ。なんだというのだ。
「あなたの園芸魔道士としての力がこの探索の要だと最初に説明したはずだ。徒〔いたずら〕に体力を消耗するな。……ここは我々だけで十分だ」
「むむむー……」
「こいつらは僕らに任せて魔道士さんは見ていてください」
カルオは気休めの言葉をかけて、影人を斧で両断した。剣によって斬られた時と同じように影人は水溜りになる。
カルオも戦士並みの力を持つということか。
それからは一方的だった。
前では戦士たちは剣を、後ろではカルオが斧を振るい、次々に影人を切り裂いて濁水に還していった。
数の差があったというのにこれほど危機感が少なく終わったのは、影人が戦うことを知らない風で私達の攻撃に対して緩慢な動きを続けていたからというのもある。
本当に戦う必要があったのだろうか。いや、影人に好意的に迫られてもそれに応えて取り込まれてしまったらそこでおしまいか。その辺りの答えは犬面達の間では既に出ていることだ。私は考えることをやめた。
私達は一息ついた後、また一直線に迷宮の進軍を始めるのだった。
[May. 3, 2016]
続きを追加。失我界突入~戦闘まで。
終わりまでの予定シーンはあと四つくらいです。