第7話 トロールとの死闘
俺とガルとキーアはトロールに気づかれないように身をかがめて近づいている。
作戦はこうだ。
まず、俺が岩にもたれかかっている奴の目を弓で精確に射抜く。
そして、すぐさまガルが剣で盾を叩いて寝ている奴を起こし、同時にキーアが矢を放って更に挑発する。
その後、目の見える奴を2人で付かず離れずの状態で引っ張り、俺の矢で目が見えなくなっている奴から離す。
しっかり離したところで、後ろに回りこみ背中におもっいきりナイフを投げつけ突き刺す。
ナイフの柄を足がかりに背中に張り付いて首筋の筋肉が一番薄い部分の背骨をナイフでざくざく切り裂いて倒し、すぐに同じように2人がひき付けた奴も同様に倒す。
三人とも配置に就いた。
俺はすばやくステータス画面を開き、筋力+5器用さ+10にして弓を引く。
ヒュンという音とともに、油断していたトロールの目にざっくり矢が刺さる。
「ぐぎゃーーー」
一体が耳をつんざくほどの馬鹿でかい声でいななく。
もう一体がびっくりして上体を起こしたところで、ガルが盾を剣で叩き音を出して注意を引き、キーアが棍棒を持っている右手に集中して矢を放ってダメージを与える。
「ぐぉーーー」
という叫び声とともに、地面に寝そべっていた奴がガルとキーアに向かって走り出した。
「遅っ」
俺が思っていたよりはるかにトロールはトロかった。
あれなら2人はうまく距離をとりつつ何とかするだろう。
俺は、とりあえずもう一体の背中に回り、移動中に器用さに振ったポイントをそのままそっくり筋力にプラスする。
そして、十本のナイフを手に取り、目を押さえて棍棒を闇雲に振り回しているトロールになるべく近づき、思いっきり背中にナイフを投げつける。
的はデカイので外すことは無い。
ズブッとナイフが背中に突き刺さる。
十本中五本が根元までぶっすり突き刺さり、残りはナイフの回転のタイミング悪く柄が背中に当たって突き刺さらなかった。
しかし五本刺されば上々だ。
足元に落ちたナイフを回収し、トロールの動きが緩慢になった瞬間を狙って突き刺さったナイフを足場に背中に取り付く。
トロールはすぐに背中に何かが取り付いたのか分かり、手で払いのけようとするが背中に手が届かない。
その間に、背中に突き刺さったナイフを順番につかんで上に登り、右手に持ったナイフで首筋あたりに思いっきりナイフを突き立てる。
「ぐぉーーー」
という叫びとともに、トロールは体を大きくゆすり始めた。
俺は足を踏み外し、トロールの背中に刺さったナイフ一本をつかんだ左手のみで体を支える。
更にトロールは大きく体をゆすり、ブンブン体を振り回されたが、筋力+15になった腕力は伊達じゃあない。
背中に刺さったナイフを左手でしっかり握り、振り飛ばされないように腕に力を込めた。
何とか左腕一本で全体重を支えて、トロールの動きが鈍くなったところで再度ナイフの柄に足をかけ、右手にあるナイフを思いっきり何度も何度も首筋の肉が盛りあがっている背骨のある部分にザクザク突き刺した。
とにかく何度も何度もナイフを突き立てた。
実際はその間の時間は数十秒か、数分か、短い時間だろう、しかし、しがみついている俺からすればもう必死だ。
トロールの体は人間に似ているから、背骨を切断できれば脳から全身への指令をカットできると頭では理解しているが、実際魔物の体の構造が本当に人間と同じであるかはやってみなければ分からない。
本音で言うとかなり不安だが、今出来ることはとにかく背骨にナイフを突き立てるだけだと思い直し、一心不乱にナイフを突きたてる。
「ぐぉーーーーーー」
トロールがそれまでになく大きな叫び声を上げると、それまでガチガチで岩のような背中の筋肉が急に弛緩した。
それと同時にトロールは顔面から倒れこみ、呻きながら体中をピクピク痙攣させてもがいている。
「よっしゃーぁ。成功だ」
俺はすぐにトロールの背中から立ち上がり、少し離れたところでトロールに追い掛け回されている2人に向かって駆け出し、そしてキーアに向かって叫んだ。
「キーア、目玉だ目玉を狙え!」
俺が叫びながら走って近づいてくるのを視認したキーアが、待っていたかのように、もう一体の目玉をすぐに射抜いて目を潰した。
そして俺が近づいていくと、ガルが大声と盾を叩いてトロールを挑発して引きつけ、俺の目の前に背中が向くようにうまく誘導した。
俺は先ほどと同じように、目いっぱいの力でナイフをトロールの背中に突き立て、今度は余裕を持って背中を登りナイフで背骨を切断した。
うつ伏せに倒れて動けなくなったトロール達は、ガルがトロールの背中に立ち心臓に狙いを定めて全体重を剣に乗せて突き刺してとどめをさした。
正直俺は、2体のトロールを動けなくした時点で両手の握力が無くなってしまって、そのまま座って休憩しその様子を見ていた。
その間にキーアが白煙灯をたいて、商隊に進行の合図を送っていた。
「やったなー」
「やりましたね」
「やったー」
三人とも歓喜の雄たけびを上げていた。
商隊が到着する間、三人で交互に抱き合い、お互いの無事を確認しあった。
ただ、ガルはトロールの攻撃を何度かよけ損なって、腕を骨折していた。
しかし戦いのさなかは興奮していてまったく気づかなかったらしい。
トロールに止めを刺して安心した瞬間に、脂汗が出て激痛で呻き始めた。
すぐに俺は回復魔法スキルのヒールをONにしてガルにヒールをかけて治してやった。
30分して商隊が到着し、マーレさんは残骸となった商隊の馬車の荷を確認した。
「やっぱりな。今の時期あいつらじゃないかと思ったんだ。悪い予想はあたるもんだなぁ。くそっ!」
マーレさんたちの確認の結果、やはり馬車は商隊で、マーレさんの知り合いのものだった。
周囲を確認したところ、あちこち欠損した遺体が複数あり、残念ながら誰も生き残りはいなかった。
遺体の装備から商隊にも8人の護衛はいたと思われるが、不意をつかれ作戦もなく正面から戦いを挑めばトロール2体は非常に難敵であることが分かる。
正直、ガル達だけでは同じ有様だったに違いない。
しかし、鷹の目で相手を先に見つけることで先制する事ができ、頭を使って弱点を突けば恐れることはないということだ。
初心者レベルが闇雲にただ力押しで戦っても全滅するだけだ。
俺たちはトロールの死骸を道の上から動かして、死骸を食いに別の魔物が来ないようにするため、死骸を燃やして土に埋めて、次の村へと移動を始めた。