表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/72

第65話 珍獣? その18

 「まあ、いいよ。そういうことにしておくよ」

 

 俺は本来の目的を優先するために、アホな演技に乗ってやることにした。


 「こいつを見てくれ」


 そういうと、首に巻きついていたムチャをゆっくりほどいて、部屋の中央にあったテーブルの上に乗せた。ムチャは下から不安そうに俺の顔を見上げる。時折、婆さんの方をチラチラ見ながら、その小さな両手で俺の服を掴んでいる。


 「なんだい?」

 

 婆さんは目を細めていぶかしげに、俺の方を見ている。

 

 「こいつはあるところで偶然拾ったんだ。でも俺はこういった魔物に関してまったく知識が無く、詳しい知り合いもいない。まあこいつは、俺の言葉はある程度わかるみたいだし、俺と同じもんを普通に食っているから死ぬことは無いだろうが、今後の事もあるから、いろいろ知りたいと思ったんだ。それで、知り合いに、ここなら何かわかるんじゃないかと教えられてきた」


 俺は正直に今思っていることをそのまま話した。はじめて会った人に対して素直に自分の考えを述べることは、時と場合によっては大きな不利益をこうむるかも知れない。しかし、腰に下げている魔法の杖を作った婆さんの姉妹であれば、信用に足るのではないかと直感的に思い、自分の目を信じることにした。


 「ほぉ……。どうやら嘘を言っている様子は無いみたいだね」


 婆さんは、視線を部屋の中を飛んでいる光に目をやり、右の口角を上げてニヤリと笑った。部屋の中を飛んでいた紫色の光は、いつの間にか青色に変わっておりあれっ? と俺は不思議に思った。


 「……気づいたかい。意外と勘がいいね。こいつらはそういう使い道もあるということさ」


 婆さんは、俺の表情の変化を見て心を読んできた。


 「気に入ったよ! 良いだろう。レリーズの客だしね、話を聞こうじゃないか。それで、具体的にはまず何が知りたいんだい?」


 婆さんはテーブルの椅子を引いて座り、俺の前にある椅子を指差して座るように示唆した。俺はその指示に素直に従い、ムチャを中心に相対する感じとなった。


 「そうだな、えっと、まずこいつは何という魔物なんだ?」


 俺はムチャを指差す。


 「そうさね。わたしも始めて見るやつだね。たぶんだが、ナーガ種をベースにしたキメラじゃろう。ナーガにこんな真っ黒な奴はおらんし、ましてや羽根なんて生えてはおらん」


 そう言うと、婆さんはつんつんとムチャの羽根を棒で突いた。ムチャは羽根をキュッと折りたたみシャーと警戒音を出している。


 「ナーガ種? キメラ? 悪いが俺はそのあたりのことからよくわかってないんで教えてもらいたいんだけど……」


 俺がそう言うと婆さんはおもむろに椅子から立ち上がり、部屋の奥にあった開き戸付きの棚を開ける。そして、その棚から一冊の本を持って来るとぺらぺらとめくり、あるページを開いて俺の方に見せた。


 「ナーガは半人半蛇の魔物だよ。大きさは人と同じくらいだ。沼地に群れを作って住み、領域を侵すものに対しては容赦の無い攻撃を行う。人と同じ程度の知能があり、独自の言葉を用いて集団戦をし、場合によっては魔法も使う」


 俺はその説明を聞きながら、描かれているイラストをまじまじと見る。そして本を手にとって裏返してみると、見慣れた背表紙があった。


 「あっ!? やっぱり」


 それはエルド・ミラーの魔物本の7巻だった。本を手にとって全ページをパラパラとめくり、ざっと中身を見る。


 「なんだい、その本を知っているのかい? ちょっと乱暴に扱うんじゃないよ。返しな!」


 俺が本をペラペラとめくり、ちょっと危ない感じの顔をしていたためか、婆さんは思いのほか強い力で本を引っ張り、バッと取り上げられてしまった。

 

 「あぁぁ~、もうちょっと!」


 俺は名残惜しそうな表情で婆さんの手にある目の前の本をじーっと見つめた。


 「あっ、駄目だよ! こりゃ私の商売道具なんだからね。その目はよしとくれ」


 「チッ!」


 俺は軽く舌打ちし、目を細めて斜め上を見る。婆さんは本をそそくさと棚に戻し、開き戸を閉めて厳重に鍵をかけた。戸を閉める際に、よーく目を凝らしてみると棚にはズラッと本が並んでいる。すべて同じ背表紙の本だ。


 「変なことを考えんじゃないよ!」

 

 席に戻るなり婆さんは釘を刺してきた。


 「やだな~ぁ。そこまで馬鹿じゃないよ」


 俺はそう言うとニヤリと笑った。


 「はぁ、どうだかねぇ? でも珍しいね、エルド子爵の本を知っている物好きがいるとはねぇ」


 「ん、俺も数冊だが同じものを持っているんだ。あれは実に良く書かれている良い物だ。一日中眺めていても飽きないシロモンだよ。実際、冒険者としてあの情報には、助けられているからなぁ」


 つい先日の、コボルトとの戦闘を思い出す。


 「ほぉ、あの本のすばらしさを良くわかっているじゃないか。あー、でも、売ったりしないよ。さっきも言ったとおり、ありゃぁ私の重要な商売道具だからね」

 

 そう言うと婆さんは眉間にしわを寄せて、いやな顔をした。


 「いやいや、どのみち今の俺の所持金で全部をそろえることは不可能だから、地道に金を貯めて1つ1つ買い集めるさ」

 

 そうは言ったが、内心は違っており俺はテーブルを見ながら無意識に右人差し指で一箇所を擦っていた。そのなか、ムチャが右手にペタと抱きついてちょっと心配そうな顔で見てきたのでハタと思い直し顔を上げた。

 

 「それで、ナーガについてはある程度わかったけど、キメラとはなんだ」


 「ああ、そうさね。キメラは魔法を使って作り出した魔物だよ。特殊な条件の下で膨大な量の魔法と複数の道具を使って、複数の魔物を組み合わせる技術だ。とはいっても誰もが出来るといる代物じゃぁなく、実際のところ、誰がどのようにして作り出しているのかはよくわかっておらん」


 「へぇ、こいつはそんなに貴重なもんなのかぁ」


 俺はそういいながら、ムチャの尻尾の部分を撫でてやると気持ちよさそうにグルグルと喉を鳴らしている。


 「私ら魔物使いは、いろいろな方法を使って魔物を使役するが、その中でもキメラ式は卵で簡単に使役することが出来るようになっておる。で、一度主人を決めるとその主従関係は非常に強固なものとなるんじゃ」

 

 「へぇ、そうなんだ。ふーん……あっ、あと、こいつそういえば魔法を使ったんだが」


 「それは私もわからないねぇ。私は魔法はつかえるが、あまり専門じゃないからねぇ。正直キメラはいろんな意味で特殊で、一般的な魔物の常識は通用せん。詳細は作り出した者に直接聞くしかわからんよ」

 

 そういって、婆さんは両掌を上に向け肩をすぼめてお手上げだというしぐさをした。


 「うーん、そうか。それじゃこれ以上は、わからないということだな。確か、こいつは箱に入っていたんだが、そこには卵しかなかった。なにか説明するようなものは何もなかったからなぁ」


 俺は腕を組んでその時の事を思い出すが、手がかりになりそうなものは無い。 


 「私にわかるのは一般的なナーガの扱いの方法だね。といっても特別なことは特に無い。基本的には下半身が蛇というだけで、人間とほとんど同じという感じだよ」


 「そうか、わかった。いろいろありがとう。今日はこのくらいにしておくよ」


 かなりの時間婆さんと話し込んでおり、店に客が数人入ってきていた。なにやら話が終わるのを待っている様子なため俺は話を切り上げることにした。


 「そいつ以外に何かほしい魔物がいればきな。いろいろ安くしてやるよ」


 婆さんはそう言って、親指と人差し指で丸を作って軽く手を振っている。


 「ああ、わかったよ。その時はよろしく」


 そう言うと、俺は席を立った。結局、今回はムチャについて特別なことはよくわからなかった。しかし、俺的には十分過ぎる収穫があった。今後、この店には頻繁に足を運ぶことになるだろう。なんせ、店の奥の戸棚には魔物大百科が鎮座しているのだから……。


 俺はニヤリと笑いながら、店を出ようとしたが、思い出したかのように店に戻る。


 「あっ、そうだ。この店の名前はなんていうんだ」


 「ここはレイテシア魔物商さ。なぜなら私の名前がレイテシアだからね」


 そう言うと、なぜか婆さんはクルッとその場で回ってウインクをしてきた。


 「うぇぇぇ……」


 俺はそれを見て、胸がムカムカしてきたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ