第61話 珍獣? その14
次の日の昼頃、高い熱を出していた商人の意識が戻った。
俺たちはすぐに、商人が寝ている部屋に向かう。
「話をすることは出来そうですか?」
看病していた村長の奥さんに商人の容態をうかがう。
「熱ァ、まだありますけぇ、ほどほどにしとった方が・・・」
あまり無理をさせない方がいい、と言いたげな表情だ。
俺は手短に済ますため、要点をまとめて聞くことにする。
「キツイところすみません。俺はコボルト討伐でこの村に来ているバレスのギルドに所属している冒険者です。少しでいいので事情をきかせてください」
「ゴホッゴホッ、あ、あなたは私に回復魔法をかけてくれた方! 私に協力出来ることがあれば・・・」
商人の顔はどす黒く、非常にしんどい様子だが、なんとか答えられそうだ。
「手短に済ませます。聞きたいことは主に3点です。1つ目は襲撃してきたコボルトのおよその数。2つ目は赤い毛並みの大型のコボルトの有無。3つ目はコボルトをおびき寄せるために、商隊の荷馬車の利用と改造の許可が頂きたい」
「改造?」
「ええ、コボルトは商隊を専門に狙っているので、そのためにあなたの荷馬車を囮として使わせて欲しいのです」
「・・・わかりました。仲間の仇をとってくれるのであれば自由に使ってください。ゴホッゴホ、・・・あとコボルトは多分20匹前後でした。その中で、一匹だけ大型で赤毛のタイプが森近くからこちらの様子を見ていました」
「そうですか。わかりました。ありがとうございます」
俺は必要な情報はすべて得ることができた。
「あの、どうか仇を取ってください。・・・俺達商隊のみんなの・・・ゴホッゴホッ」
「わかりました。必ず倒します。あなたは安静にして傷を治してください」
「・・・ありがとうございます」
商人は涙を流し、涙を見せまいと顔を反対側に向ける。
俺達はその部屋を出て、村長の元に向かった。
◇◆◇◆◇◆
「村長、お願いがあります」
「なんですかぁ?」
「猟師を6人ほど、討伐のためにお借りしたい」
あれこれ悩んで回りくどい言い方をしてもダメだと思い、単刀直入に聞くことした。
「そりゃまた、どういうことで?」
「作戦はこうです。コボルトは主に商隊を専門に狙っている。だから、囮として商隊の荷馬車を使います。商隊の荷馬車の利用許可は先程商人からもらいました。これから荷馬車の改造と強化をします。それでその馬車を使ってコボルトたちをおびき寄せ、襲撃してきたコボルトに対して荷馬車内から弓を射かける人が欲しいんです」
「ほーぅ、・・・いやしかし、大丈夫ですかいな」
「確かにリスクはあります。しかし、これはチャンスです。今コボルトは先日の戦いで激減しています。商人の話では20匹前後だそうです。しかし、森を虱潰しに探して回ると時間がかかり、その間にまた増える可能性があります。減っている今が一網打尽にするチャンスです」
「うーん、・・・でもなぁ」
村長が渋った表情をしていると、
「あんた、協力してやんなよ。たった五人で、それも安い報酬でここまでやってくれたんだから・・・」
たまたま側にいた村長の奥さんがなぜかアシストしてくれた。
「・・・わかりますた。今から猟師達に話をすてみぃます」
「ありがとうございます」
なんとか、村長の説得ができた。
俺はカイン達に向き直り、
「よーし、荷馬車の改造だ!」
側面と天井が薄い板で出来ている荷馬車の内側に、もう一枚厚い板を入れて矢が貫通しないように頑丈にする。
そして、左右の側面に縦横40センチサイズの正方形の穴をあけ、8つの取り外しの出来る小窓を作る。
更に、後方の荷物の搬入口を厚い板で閉ざして、侵入できないようにし、出入り口を御者側だけにして、そこも戸板を取り付ける。
最後に御者台にも、側面板と天井板を取り付ける。
荷馬車の準備が出来たら、猟師6人と人数分の食料を荷馬車に乗せる。
ムチャは俺のそばを離れようとしなかったが、何とか言い聞かせて馬車の中で待機させた。
俺は天井で見張りをし、カインが御者になって村からコボルトが出そうな街道沿いを移動し始めた。
囮作戦を始めて三日目に、奴らは現れた。
両脇が森になって見通しが悪い箇所に来た時に、それは起きた。
いきなり左右の森の中から合図したかのように一斉に矢が飛んできた。
御者台は予めそれを想定し、御者を囲うように厚い戸板で覆っているため、カインは難を逃れた。
俺も大盾を背中に背負ってうつ伏せにして見張りをしていたので、傷を負わなかった。
ただ、大量の矢の攻撃を受けたため、4頭の馬が射殺され、馬車は止まり後部は矢でハリネズミのようになっていた。
その後、矢雨が止むと、大声で吠えるコボルト達が、左右の森から3列縦隊で一斉に攻撃してきた。
「今だ!」
俺はその様子を荷馬車の上から確認し、下に合図を送ると、荷馬車の左右で8つの木枠が取り外されて小窓ができる。
その中からキュィ達が襲いかかるコボルト達に精確に矢を射っていく。
次々とコボルト達は荷馬車から発射される矢に討ち取られていく。
その状況の中で、左の森から3匹のコボルトをお供にした赤毛の大型のコボルトクイーンが出てくるのが見えた。
「カイン、左だ。いくぞ!」
俺は荷馬車のキュィ達に再度合図をした後、スキルボーナス値を筋力と体力に半々に振り分けショートソードと盾を持って荷馬車の上からジャンプして、左側のコボルト達の中に突っ込む。
カインもバトルアックスを両手に持って御者台から飛び降りて近場のコボルトを上段から真っ二つに切り裂いた。
コボルトクイーンは大剣を持って、カインに迫る。
「お前の相手は俺だ!」
俺は、ナイフを取り出しコボルトクイーンに向かって思いっきり投げると、そのまま背中に刺さる。
しかし、それを意に介さずコボルトクイーンはカインめがけて走っていく。
このままじゃ、カインが危ない。
俺はコボルトを押しのけて、コボルトクイーンとの距離を詰める。
カインは2匹目のコボルトを袈裟斬りにして倒すと、近づくコボルトクイーンの迎撃体勢に入る。
ガキィーン
大剣が上段から振り下ろされ、バトルアックスでそれを受け止めるが、カインは力が足らず地面に膝をつく。
まずい、明らかにカインでは力不足だ。
俺は盾を前方に出して、コボルトクイーンに向かって体当たりをしようと試みる。
全速力で近づきコボルトクイーンの背中に向けて盾を介して体当たりが当たる、と思った瞬間、
・・・いきなり目標がいなくなった。
「兄ちゃーん、後ろーーーー!」
目の前にいるカインが叫ぶ。
ズシャァッ
その瞬間、俺は背中に熱い一本の線状のものを感じた。




