第59話 珍獣? その12
その日の午後、村長の家の暖炉のある大きな部屋で、俺たち4人と村長と猟師3人でテーブルを囲んで今後の方針の話し合いを始めた。
ムチャは暖炉の前のソファの上で、トグロを巻いてスヤスヤ気持ちよさそうに寝ている。
テーブルの真ん中には、俺が作った大雑把な村周辺の地図が広げられている。
「取り敢えず、コボルトがこれまで現れた場所を教えてもらえますか?」
俺は、前日に村長から紹介された猟師3人に尋ねた。
「えっど、そだな、オデが知っているのは、街道沿いの、ココとココとココ・・・。それと、村さ、北のこの森のココいらだぁ」
猟師の1人が地図上を指で指し、俺はペンにインクをちょんちょんと付けてバッテンを40箇所ほど描いていく。
「ちなみに、どんな状況でしたか?」
「ああ、そったら、全部ひでぇありさまだぁ。襲われた商人さと、護衛の冒険者さは、メッタ斬りにされて死んどってぇ、身包みはがされ荷馬車の積荷はカラになっとって、馬さもいなかっだ」
俺はその状況を直接地図に書き込む。
「ちなみに、日付とか覚えてます?」
「ああ、えーっとなぁ・・・」
猟師たち3人はあれこれ言いながら、日付を思い出す。
そして、各猟師が指でバッテンの箇所をさし、俺はその都度、日付と被害を書き込んでいった。
その話から、襲撃は商隊だけでなく、一般冒険者パーティや村人など多岐に渡っていることが分かる。
また、被害場所は街道沿いが比較的多く、分布からコボルトの洞窟を中心に起きていることが地図上から見て取れる。
最初の襲撃と思われるのは1年近く前で1ヶ月に1回だったが、最近では一週間に2~3回と頻発している。
「・・・失礼とは思うんですが、この村はそんなに商隊が立ち寄るんですか?」
俺は村長に対して、少し遠慮がちに聞いた。
村長はしばし無言状態が続いたが、意を決したかのように話し始めた。
「そりゃちげぇますだ、ここさ村には、あんまり来ないんでさぁ。商隊のほとんどは村さ寄らず、そのまま街道沿いを進んでアルケインに行くんでさぁ」
「アルケイン?」
俺は初めて聞く名前の都市だ。
「兄ちゃん、アルケインはバレスと同じ位の大きな城砦都市だよ。この村近くでいろいろな都市の道が集合して1つになり、アルケインに繋がっているんだ」
カインが耳打ちで、こそっと教えてくれた。
そして、村長は話を続けた。
「そうなんだぁ、今回の依頼もこの村からじゃぁこれだけの額の依頼料はだせねぇ。だから、アルケイン商人組合さに協力をお願げぇして出してもらったんだぁ」
「・・・ああ、そういうことでしたか」
俺がそう言うと、村長はちょっと悪びれた様子でうつむいてしまった。
俺も村に着いた時に、少し疑問に思っていた。
村の規模は小さく、そんなに裕福なくらしには見えない村人が、よくこれだけの金を集められたのか疑問に思っていた。
つまり、本来は商人組合が街道の安全を確保するために依頼をするはずなのだ。
しかし、商人組合からの街道沿いの討伐依頼とすると、ギルドでの報酬額が格段に跳ね上がるから、寂れた村の依頼としてケチったというのが本当の所だろう。
更に、アルケインのギルドに依頼を出すと、商人組合とギルドで問題があるから、いろいろ隠すために比較的近いバレスのギルドに依頼したのだろう。
また、魔物に疎い村人が対応することで、いろいろごまかそうとしていたのかも知れない。
(うーん、なんだかなぁ。ちょっといろいろ損しているかもしれんなぁ・・・)
俺は、腕を組み目をつぶって思索する。
難しい顔をしてると、カインが俺の肩をつかんで小さく揺すった。
「兄ちゃん、この際もうそのあたりはどうでもいいよ。今大切なことは残りのコボルト達を早く見つけ出して駆逐するだけだよ」
カインは首を横に振ったあと、俺の目を見て、ここまできたらやるしかない! という決意の表情だった。
「とはいえ、これからどうするか? この地図を見る限りだと、つぶした洞窟を中心にして襲撃をかけているのは明らかだし・・・」
俺は万策尽きた感じで話す。
「あのー、他にコボルトの住処になりそうな場所は無いんですか?」
キュィが遠慮がちに手を上げて猟師たちに聞く。
「うーん、このあたりさ、洞窟はあそこだけだなぁ。まあコボルトたちはどこでも寝れるから、森の中ならどこにいてもおかしぐねぇ」
「そうですか・・・。ということは虱潰しに森の中を回るしかないですねぇ」
キュィがそう言うと、全員が腕を組んでうーんと小さくうなっていると、
ドンドンドンドン
村長の家の玄関の扉を強く叩く音が聞こえた。
暖炉の前のソファで気持ちよく寝ていたムチャは、その音で飛び起きて一瞬で俺の首に巻き付くと、きょろきょろあたりを見回すしぐさをした。
村長が立ち上がって様子を見に行き、すぐさまあわてて戻ってきた。
「たいへんだーどー、また商隊が襲われたそうだ。そったらして、生き残りが走って村に駆け込んできたそうだ」
村長は俺たちに向かってそう言ったのだった。
◇◆◇◆◇◆
俺たちは村長の家に知らせに来た村人の案内で、襲撃から逃げ延びたであろう人の下に向かった。
村の入り口では、人だかりが出来ていた。
村長が一声かけると、人だかりが左右に割れてその先には商人らしき風体の人が仰向けになっていた。
「ちょっと、失礼!」
俺は前に出て、地面に横になっている人を確認する。
その人は体中泥まみれで、あちこち刃物で切られた跡があり、そこから服に血がにじみ出ている。
また、左腕のひじから下がなく、止血の為に紐できつく腕が縛られていた。
顔面は血の気が失われて青白くなっており、痛みのためか、顔には大量の脂汗が出て、苦悶の表情で呻いていた。
このままでは、命が危ないので俺はすぐさま腰に下げていたロッドを取り出し、魔力と回復魔法にスキルボーナスを振り分けたあとハイヒールをかける。
「ハイヒール」
「ハイヒール」
「ハイヒール」
三度ヒールをかけると、すべての傷口は塞がり出血が止まった。
痛みで苦悶の表情を浮かべていた商人は傷が塞がった瞬間に楽になったのか、すぐに意識を失った。
「「おおおおお!」」
それを見ていた村人は歓喜の声をあげ、俺に対して拍手喝采となった。
俺は、頭に手をのせて照れながら、
「どーも、どーも、どーも」
俺はぺこぺこ頭を下げたあと、村長に向きなおすと、
「それで、村長、この人から事情を聞きたいので家に運びましょう」
そう言ったあと、村人に協力してもらって、近くの家の戸板をはずして即席の担架にして怪我人を乗せて、村長の家に運び入れた。




