第56話 珍獣? その9
俺たちは斜面上から洞窟入り口を小一時間様子見したが、コボルト達は一向に姿を見せず気配すらない。
そこで、俺とカインは洞窟入り口まで降りて、周囲を確認してまわった。
「なにもいないねぇ」
カインはそう言いながら、新しく装備した両手持ちのバトルアックスを構えて、慎重にあたりを警戒している。
「うーん、暗がりでよく見えなかったけど、結構な数のコボルト達が土砂に生き埋めになったのかもなぁ」
「おっ、じゃぁ、クイーンコボルトも一緒にやっちゃったってこと?」
「それはないんじゃないか。もしそうなら、こんなに綺麗に、コボルト達がいなくなることはないだろうよ」
「そっか、ざーんねん」
俺たちは、あたり一面を見回して見たが、コボルトの骸以外はなにも見つけることは出来なかった。
2人して洞窟入り口前まで戻って、土砂に押しつぶされた入り口を確認する。
入り口を埋めた土砂の中からは、1本の泥まみれのコボルトの手がニョキッと突き出ていて、脱出に間に合わなかったことをありありと示していた。
「どの位のコボルトをやれたかなぁ」
「第1の広間の入り口手前までハイコボルトが押し迫っていたから、最低10匹は土の中だろうな。つまり、少なく見積もってもハイコボルト3匹とコボルト30匹程度と子供コボルト50匹程度は確実だろうな。案外、ハイコボルトは全滅かもな」
俺たちは洞窟入り口で、いつの間にか座り込んで今回の討伐成果を話し合う。
「様子見が、意外なことになったね!」
「まあな。運がよかっただけのような気もするが・・・」
「それでこれからどうするの、兄ちゃん」
「一旦、村に戻るのがいいと思う。その後、再度ここに戻ってきて、村長に頼んで人手を借りてコボルトがため込んだお宝を回収する。そして、ある程度安全が確保されたとわかるまでは、森の中の巡回かなぁ」
「・・・そっか、そうだね。わかった。そうしよう」
カインがそう言うと、俺たちは斜面上にいるムーイ達のところに戻り、村の方角に歩き始めた。
◇◆◇◆◇◆◇
結局帰り道もコボルトにはまったく遭遇することなく、無事に村まで到着した。
村に到着したころには深夜になっていたが、村に入るとすぐに村長が出迎えてくれた。
そして、村長の家で今回の首尾をカインから説明することになった。
「・・・てぇいうと、巣穴にゃあ、ハイコボルトやコボルトクイーンと呼ばれる強いタイプの子供がおったんですけぇ?」
「そういうことです」
「じゃぁ、ほっときゃあ更に厄介になっとったわけですけぇ。てぇいうと、早い時分につぶせたぁという事ですかぁ。そりゃ良かった良かった」
「ただ、残念ですけど、クイーンと一部のコボルト達は、まだ森のどっかにいると思います」
「そ、そっかぁ。まだ、終わりっちゅう事ではねぇということですか?」
「そうです。なので取り敢えず、当分の間は村周囲のコボルトが出そうな場所を教えてもらい、俺たちがしらみつぶしに確認していきます」
「そ、そうですけぇ。ありがとさんです」
「なので、コボルトが出そうな場所を案内してくれる猟師の人をお願いします」
「わっかりますた。準備しときます、です。はい!」
「あと、お願いなんですが、コボルトの洞窟で戦利品を見つけたので、それを持ち帰るために力のある村人3人と荷運び用のロバ3頭を用意してほしいんですけど」
「戦利品。そうですかぁ、そったらことでしたら、お安いごようです。明日の昼までには用意しときやす」
「ありがとうございます。じゃあ、今日は疲れたので部屋で休みます」
「ごっくろうさまぁですた」
カインの現状報告も終わり、俺たちは部屋に戻ると簡単に汚れを落とした後は、バタンキューとなってしまった。
◇◆◇◆◇◆◇
ずっーと緊張していたためか、4人とも翌日昼過ぎまで完全に熟睡していた。
村長はお願いしたとおり、村人とロバを用意してくれていた。
俺たちは再度冒険の準備をしなおして、一路またコボルトの洞窟に向かった。
道中1度、クルックーというダチョウに似た大型の魔物の襲撃を受けた。
しかし、装備が一新された俺たちの敵ではなく、返り討ちにあってあえなく焼き鳥となって逆に食われる事になってしまった。
「この鳥うまいねー」
カインは歩きながら、うまそうに骨付き肉をムシャムシャ食べた後、骨をポーンと茂みに投げた。
「もうちょっと緊張感持てよ!いつコボルト達が襲ってきてもおかしくないんだぞ」
俺は強めに注意を入れる。
「だいじょーぶだよ。襲うつもりがあればもう襲ってきてるよ」
そう言って、カインが軽口を叩いているうちに洞窟の天井出入り口の岩場に到着した。
あたりは薄暗くなってきていた。
一応安全の為に、大きなかがり火を作り、カイン・キュィ・ムーイを入り口の見張り役にして、俺は3人の村人を引き連れてロープをつたって岩場の中に入り、木の根をかき分けて洞窟内部に再突入した。
内部は戦闘から1日以上経過しているので、コボルトの死骸がくさりはじめて、異臭が立ち込めていた。
4人ともに布を口にまいてマスク代わりにし、第1の広間にある戦利品の中から売れそうなものをほぼ一晩かけて地上に引き上げた。
「あーしんど」
「ご苦労さまです」
キュィが水筒を差し出してくれた。
村人3人もクタクタという感じで、地面に大の字でのびている。
カインとムーイは引き上げた戦利品を3つに分けて、各ロバの背に乗せている。
全部を乗せることは出来そうにはないが、後は手分けして持てば問題ないだろう。
俺は水筒の水を飲みながらその様子を見ていた。
その後、手元にある高級な鉄の箱を開けて、中身の卵を手にとってながめる。
卵の表面は灰色に緑の斑点が入り、更にスイカのような一方向の縞が均等についている。
俺は、また卵に耳をつけて中の音を聞いてみる。
「グゥェ・・・」
「う、うおぉっ!?」
俺は驚いて一瞬卵を落としそうになるが、何とか地面に落ちる前にギリギリでキャッチし直した。
卵の中の奴は、明らかに俺の行動に呼応したかのようだった。
「それ、どうするんですか?」
キュィが、その様子を見てククッと笑い、俺に聞いてきた。
「え!?うーん、君らがよければもらいたいんだけど・・・」
キュィは犬耳の裏を、指でポリポリ掻きながら興味深げな様子だ。
「ヨージさんが、育てるつもりですか?」
「まぁね。面白そうだろ。どのみち俺はソロだし、今後に使えるんだったらいいかと思ってね」
「たぶん、2人とも問題ないとおもいますよ。だって、今回のクエスト、どう考えてもヨージさんの功績が一番大きいですし」
「そっかぁ?・・・ありがとう。まあ、村に帰ってから皆で相談だな」
俺たちは戦利品引き上げで一番疲れた村人3人の体力が回復するのを待って、また元来た道を戻った。
結局、コボルト達の襲撃はまったくなく、単体のゴブリンと3回戦闘になった以外は特に問題はなく、村に戻るころには昼すぎになっていた。




