第52話 珍獣? その5
「えっと、作戦らしい作戦じゃないんだけど、要はハイコボルトと未確認のコボルトクイーンが問題なんだよね。だったら、そいつらだけをやっつければ、残りはどうとでもなるんじゃないのかなと思ったんだ」
「ほぅ、つまり連携するコボルトたちを無視して、ハイコボルトたちだけに集中して狙うということか?」
「そうそう、それ!だって、バレス平原にいるコボルトを想像すれば、連携行動のみが脅威なんだよ。連携しなければ、俺1人でも同時に2~3匹くらいは余裕で相手できるんだ。それがあるから、今回のクエストを受けることにしたんだから」
俺が顎に手を当てて考えていると、カインは余裕という事を表現するために、右腕で力こぶを作ってみせる。
ムーイやキュィも同意の表情で、うんうんうなずく。
「よし!それじゃ今見たコボルトたちが休憩している場所と、ハイコボルトの位置を正確に教える」
そういうと、俺は木の枝を使って、地面に自分達がいる場所とコボルト達がいる場所を点で描き、更に12匹のコボルトとハイコボルトの位置関係を詳細に描いた。
「じゃあ、どうやって奇襲を仕掛けるか?だな」
俺が、みんなに尋ねると、キュィが空を見た後にゆっくり目を閉じ、鼻をくんくんし始めた。
そして、木の枝を取り、おもむろに俺が描いた絵に線を引いて、みんなの顔を見る。
「今描いた方向から、突入するほうが良いと思います。少なくとも風下から近づかないと臭いでバレるでしょう」
「そうだな、じゃあ、キュィの言った方向からゆっくり近づいて、ぎりぎりまで近づいた後、俺とキュィとムーイの3人で同時に弓でハイコボルトのみを集中して狙うというのはどうだ?」
「それいいね、兄ちゃん。ハイコボルトを倒した後に、コボルト達がどうなるかが見物だね」
「よし!じゃあその作戦で行こう」
作戦の方向性が決まったので、案内役の猟師にはこの場で待機してもらい、4人で風下から徐々に休憩しているコボルト達に近づいていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
コボルト達が休憩している場所が目視で見える位置まで近づいた。
アホなコボルト達は、まったく気づいた様子は無く、それぞれうつ伏せの状態で1匹1匹小さく丸まった格好で寝ている。
ハイコボルトはその集団の真ん中にいて、1匹だけ毛皮の上で寝ている。
「これ以上近づくと、たぶん臭いでバレると思います」
キュィがそう言って、俺達3人を手で制止させる。
「こんな近くまで近づいて気づかないとは、やっぱコボルトはコボルトだな」
そう言いながら、俺は弓と矢を準備する。
同時に、ステータス画面を表示させて器用さに+12、素早さに+11のスキルボーナスをふる。
素早さに+11もふった理由は単純で連射速度を上げるためだ。
ムーイとキュィはもう矢をつがえて、弓を引き絞って合図を待っている状態だ。
「取り敢えず、合図したらハイコボルトが動かなくなるまで矢を打ち続けろ。そして、2番目の合図の後は、カインと俺はそのままコボルト達に突撃する。あとは逃げ出すようなコボルトがいればそれを弓で倒してくれ」
「「わかりました」」
ムーイとキュィに確認を取ると、俺はカインの目を見る。
「カインは、いいか!」
「OK!」
「よーし、3,2,1、今だ!」
合図とともに俺達3人は矢を一斉に放つ。
3本の矢は一直線にハイコボルトに向かって飛んでいく。
バシュ、トス、バシュ
「ぎゃぁーーん」
3本中2本が当り、ハイコボルトが大きく嘶いたかと思えば、周囲のコボルト達は各武器を持って飛び起きてあたりを見回す。
その間も、俺達は2矢3矢と連続して矢を放つ。
ハイコボルトはあっという間に、ヤマアラシのように矢だるまになって、うつ伏せの状態でピクリとも動かなくなった。
「よし、今だ!行くぞカイン」
俺がそう言うと、カインは盾を前面にかかげて一直線にコボルトの集団に突っ込んでいく。
俺も一瞬遅れるが、弓をその場に投げ捨て、盾を前面に構えてショートソードを抜いて突っ込んでいく。
走っている最中に、筋力にスキルボーナス+23すべてふり直す。
その間、後ろからムーイとキュィが援護の矢を放つ。
カインが右側にいるコボルトに斬りかかって行ったので、俺は左側にいるコボルトに盾を使って体当たりをする。
バランスを崩してコケて尻餅をついたコボルトにたいして、水平にショートソードをふると頭がゴトリと落ち、切り口から血しぶきが一気にふき上がる。
俺は、すぐに次の獲物を見つけて、ショートソードを前方に思いっきり突き刺す。
突き刺した先にはコボルトの胸があり、深々とショートソードが貫く。
力任せにショートソードを引き抜くと、背中に熱い線が走る。
「痛ってーな、この犬野郎!」
いつの間にか後ろにいたコボルトに、俺は背中を切りつけられたが、レザーアーマーのおかげでダメージは少ない。
振り向きざまに、真上からショートソードを振り下ろすとコボルトは真っ二つになって左右に分かれて倒れ落ち、血しぶきが飛び散る。
3匹倒したところで一度俺は周囲を見回すと、残りのコボルト達は逃げもせずキョロキョロ回りを見回している。
俺とカインが戦っている場所から少し離れた位置にいるコボルト達には、ムーイとキュィの矢が雨のようにバンバン飛んで1匹ずつ確実に倒していく。
俺は、あらかた周囲のコボルトを倒したので、ショートソードを地面に突き刺しステータス画面を開く。
筋力にふったボーナス値を戻し、水魔法に+10、魔力に+13ふり直し、呪文の詠唱を行う。
「アシッドレイン!」
俺は、カインから少し離れた位置にいた4匹のコボルト達に、水魔法で酸の雨の攻撃を行う。
最近ひそかに練習していた、範囲系の水魔法だ。
「ぎゃん」
「ぎゃーん」
「ぎゃぃん」
「ぐぎゃん」
4匹のコボルトは、突然真上に現れた酸の雨をかぶって体中が焼け爛れたような状態になり、その場に倒れこみ痛みで地面をのたうちまわる。
「アシッドレイン!」
俺は、のたうちまわる4匹にトドメの酸の雨を降らせると、4匹ともやがて動かなくなった。
再度、周囲を見回すとカインもコボルトを3匹倒して周囲を見回している。
動くものはいない様子である。
用心しながら動かなくなったコボルトの数を数えると、12匹みな倒したようだ。
後ろを振り向くと、ムーイとキュィも走って近づいてくるのが見えた。
「どうやら終わったようだな」
「そうだね。それにしてもあっけなかったね」
カインは物足りない様子だ。
俺は、スキルボーナスを回復魔法に+5にする。
「カイン、ちょっと見せてみろ」
そう言ってカインを見ると、あちこち斬られている。
重傷な部分は無かったが、すぐに回復魔法のヒールをかけて傷を塞ぐ。
同時に、斬られた背中に回復魔法をかけて自分の傷も塞ぐ。
「どうやら、カインの予想通りのようだな」
治療を終えた俺は、うつ伏せになったままで動かなくなったハイコボルトを足で仰向けに転がしながら言い放つ。
背中に刺さった矢が邪魔で横向きにまでしか出来なかったが、ハイコボルトは目を見開き、口が半開きで、舌がだらり垂れた状態で死んでいる。
すぐに動かなくなったのは、頭に刺さった2本の矢がどうやら致命傷になったようだ。
「私達は遠巻きに全体を見てましたが、コボルト達はどうやら指示待ち状態のような感じでした。キョロキョロあたりを見回すばかりで、逃げる様子も一切無い状態でした」
キュィが見たままを、客観的にそのまま説明してくれた。
「これで討伐の方法がはっきり見えてきたな」
俺は3人を見ると、3人ともうんうんと大きくうなずいたのであった。




